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 とにかく壮大な天地創造を聞かされた後の、まさかの恋愛絡みの事件の話だった。


 まあ日本や海外でも神話に恋のお話はいっぱいあるし、ベル様は巻き込まれた被害者な訳で。それに直前まで自分の恋愛話で迷惑を掛けたこともあって、私は何とも言えない非常に複雑な心境だ。


 しばらく私とベル様の間には沈黙が続いたんだけど、こうしていても話は進まない。なので気を取り直して話を再開することにした。


「ええと、それでここから出る方法はないんですか?」


 まあ、あったらこうしてここに居ないとは思うけど、一応確認だ。


「あるがパワー不足だ。外界と遮断されたことで供給が絶たれたからな、私だけではどうにもならんのだ」


 ベル様の説明によると、使徒と呼ばれているベル様のチームの方々が行った様々な作業は、みんな外界からエネルギーを得て実行していたそうだ。


 そして一度閉じられたものを開けるには解除作業が必要なんだけど、それが何でか知らないけど出来なくて、力技で破るとか壊すとかするしか方法がないそう。


「えーと、つまり、そのエネルギーを使ってここを閉じたけど、そのせいで供給も止まって開けられない、と」


「そういうことだ」


 あごに手をやりテーブルに肘を付いて、はぁっと吐き出された溜息は大きい。


 しかしなるほどねぇ、閉じた本人にも開けられないってことかな。これはどうしようもないよね。


 だけど……あれ?


「あの、閉じ続けるにもエネルギーは必要なのでは?」


「ああ、その通りだ」


 私の杖の使い方からの発想だったけど合ってた。


「それはどこから?」


「このフランメルからだ。循環するものもあるが、フランメルそのものから生成されるエネルギーが使われている」


「え、だったらその供給を絶つとか、そのエネルギーを使うとかすればいいのでは……」


「そうしたいのはやまやまだがな、あいにく制御が効かない。どうも色々と細工されたようなんだが、一応あれも末端とはいえここに派遣されるくらいには優秀なようでな、解除同様どうにもならなかった。しかも外界からの供給がなくなったことでこの地は不安定な状態になってしまった。本来なら徐々に安定させてこの地のエネルギーだけで保てるようにするはずだったのだが……影響は各地に出て、中には崩壊を免れなかった場所もある。残っていたエネルギーを使って私は調整を続け、なんとか被害を抑えることは出来たが……余力はほぼなくなった」


 なんかすごい話。崩壊なんてしたらどうなっちゃうんだろうか。想像もつかないけどきっと恐ろしいことになるんだろうね。しかしその人、優秀なんだったらそれくらい予測できなかったのかなって思うけど、そんなのどうでもよかったんだろうか。


「予想はしていただろうさ。ただ規模が思った以上に大きかったようだがな。供給が止まった直後は私も状況が把握しきれず、怪しいとは思いながらもそいつにも指示を出して仕事をさせた。そして多少落ち着いたところで問い詰めたら自分がやったと白状したんだ。しかし、どういうつもりだと動機を聞いたらまあ意味不明でな。『ここは私達の為の世界だ』とか『もう誰にも邪魔はさせない、これからは私とあなただけで生きていこう』などと延々とほざいて、私が拒絶すると何故自分の愛を受け入れないのだと喚き散らして暴れた」


 うわぁ、それはまた。ベル様はすっごく嫌そうな顔をしている。


「そいつの名はノーマイーラ……これも略称だがな。あいつは私のことを以前から知っていたようで、しかも私の周辺を探るような真似までしていたらしい。これだけあなたの事を知っているのだと自慢気に語られたのだが……ただただ不快なだけだった」


 ええ、それってもしかしてストーカーみたいな感じだったのかな。しかしベル様もよく怪しんだ相手を働かせたよねって思うし、そのノーマイーラとかいう人も指示に従ったものだと思う。自分まで閉じ込めるとか狂気じみた思考の持ち主なんだし、一緒に死のうとかいう方向には行かなかったのかなって思うんだけど。だけどそれを聞いたら「ただ私と共にありたいのだそうだ」とベル様は理解できないと首を振っていた。ううむ。


「で、そのやらかした本人は今どうしているんですか?」


「ああ、しばらく放置していたがあまりにも煩いので箱に入れて埋めさせた」


「は?」


 箱? 埋めさせた?


「仕方ないだろう、殺しても死なんのだ。しかも私同様、多少は力が使える。牢に入れても出てくるだろうし閉じ込めておくには場所を選ぶ」


 それで取ったその時一番最良の手段だったとベル様は言う。


 いや埋めなくてもって思ったんだけど、箱は力を封じることは出来るけど防音ではなく、その辺に置いておくと騒音被害が出るとか、あと誰かが開けてしまうリスクを減らすっていうのが理由らしい。


 箱は元からあった物を使ったそうだけど、当時は建築物自体が少なかったし、そんな物を置いておく為の建物なんて余計なものを作るのも難しかったようだ。あと変に建物なんてあると好奇心で探る人も出てくるだろうしってことも言っていた。それはまあそういう人も居るかもしれないけど、埋めるのはどうなのかなぁ。


 それに誰かが開ける可能性があるって言うなら、今居るこの場所でも良かったんじゃないのかなってちょっと思った。安全性高そうだし。だけどそれを言ったら「近くに置きたくない」だって。あー、まあそれはそうか。


 あとは別の空間を作るとか余計なことに大事なエネルギーを使いたくなかったっていうのもあるようなんだけど、外部のサポートがないと専門外のベル様には色々と難しいらしい。防音機能付きの箱を作らなかったのも同じ理由みたいで、なんだかそういうのを聞くと結構不自由してそうだなと感じてしまう。


「……そうですか。あーと、じゃあその殺しても死なないってどういうことですか?」


「ああ、我々はここに来るにあたって不老不死の肉体を用意したからな。歳もとらんし肉体も衰えん。しかも殴られようが刺されようが死なんのだ。もちろん傷は付くし痛みも多少あるが回復は早い。安全対策での仕様だったが……死ねないというのも良し悪しではあるなぁ」


 おお、長寿じゃなくて不老不死だった。なんともまぁ。だけど閉じ込められた世界で生き永らえるっていうのはなんて言うか……。


「とにかく、そうやって私が世界の安定を保つ作業に奔走している間も人々は私に助言を求めてきてな。色々と不安なことも多かろうと対応している内に何故か王へと祀り上げられてしまった」


 おお、王様誕生、初代様伝説の始まりだね。


「仕方なく最初だけだと引き受けたが……気が付けば百年が経っていた。私にとっては短くとも、人にしたらそこそこの時間だろう。そこでいい加減引退を宣言してここへ引きこもったんだが、あいつらやらかしてな。数代は問題なかったんだが、その後に王位争いなんていうくだらないもので疲弊して、あげくどうしようもなくなって助けを求めてきた。おかげでまたしばらくは働いたさ」


 退屈しのぎにはなったけど、本来自分が関わるべきではないのだとベル様は言う。あと仕事したくないとも。


 とりあえずまた百年くらいで引退したそうだけど、それからずっとここに居たんだろうか。まさかその長い時間、ずっと寝てた訳じゃないと思うけど……何してたんだろうねぇ。




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