表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/215

191




 リカと初めて会った時、惹かれはしたがそれはジローの血縁だからだろうという認識だった。


 だがそれからしばらく一緒に行動を共にして、徐々に離れがたく常に共に居たいと思うようになった。


 私は初めての感情に戸惑いを覚えた。


 ジローからも言われたが、私はあまり他者への執着がない。唯一行動を共にしたいと思ったのはジローくらいなもので、しかし今から考えるとジローへの興味はリカの血縁だったからなのだと思える。そう、つまりリカへ辿り着く為の存在がジローだったのだ。


 精霊の求める相手は同じ精霊であることもあるし、そうでないこともある。


 精霊は永い年月をかけて己の相手を探して伴侶とするが、無意識に引き寄せられるのだそうだ、伴侶が居る世界へ。また繋がりのある人物へ。そうしてもし巡り合えれば、それは何にも代えがたい喜びとなる。


 私が出会った数少ない精霊達は、出会えない伴侶への渇望、悲しみ、また逆に出会えた事への限りない喜びを私に伝えてきた。その時の私にはまだ伴侶に対する思いが薄く、いつか出会えるだろうかとぼんやり思うだけに過ぎなかった。


 しかし、私はリカに出会った。


 世界が色付いた。


 リカと共に居るだけで心が浮き立ち喜びがあふれる。こんな気持ちは初めてだった。


 しかし私は思い出した。精霊の思いは深くて重い。


 ジローはサクヤからの過剰な愛情表現に最初はとても戸惑ったと言っていた。サクヤの事は愛しているが、サクヤが示す愛情と同じだけのものを返すのは自分にはとても難しいと。


 ジローはそれは自分の性格や育った環境によるものだし、サクヤに対して愛情が無い訳ではないのだが、それをお互いが理解するまではサクヤはひどく落ち込み、また自分も何故サクヤが悲しんでいるのかが分からなかったと言っていた。つまり、種族が違うとすれ違いも起こりやすく、誤解や相手に嫌われることもあり得るというのだ。


 だから私はリカに対して慎重に接した。嫌われたくはない。


 幸いにも、リカは私に好意的だった。


 リカと離れたくなくて、離れると不安で、なるべく一緒にいられるように行動した。


 リカはあまり直接的な接触は好まないようだった。私が触れると嫌がりはしないが戸惑いを見せた。本当はもっと触れていたかったが、リカに嫌われないように我慢したし、徐々に関係を築いていこうとした。


 そしてリカが攫われたあの日。私は何が起こったのかをすぐには理解できなかった。目の前でリカの気配が突然消えたのだ。直後、恐怖、絶望、あらゆる負の感情が襲ってきた。リカを失うことを想像して動けなくなった。


 幸いリカを救い出すことは出来たが、もうあんな思いはしたくない。リカへの執着が以前よりも一層増した。


 過ごしていく中で私の思いは少しずつだが伝えていた。リカも一緒に居たいと言ってくれた時は何よりも嬉しかったが、同時に不安もあった。愛情は確かに感じるのに、何故だろう、リカを少し遠くに感じたのだ。果たしてリカの思いは私と同一なのか……。


 またリカの周りに常に誰かが居る状況も私には不満だった。護衛としてのマリーエはともかく、リカを危険にさらすような者は近付けたくもない。リカが望めばすぐに排除するものを……。


 しかしそんなある日、リカの様子が突然おかしくなった。そして私を避け始めたのだ。


 何故、どうしてと疑問しかなかった。何か嫌われるようなことをしてしまったかと考えたが思い当たることがない。


 更にリカは言った。「恋人が欲しい」と。


 リカにとって私の存在が恋人にも満たないものだと知った。


 しばらくの間、リカの私に対する態度はかなりぎこちないものだったが、それも日が経つにつれ自然なものに戻っていった。ただ以前よりも距離を感じるようになった。


 リカに何があったのかは結局分からずじまいだったが、私は怖くて確かめることも出来なかった。



 王都へ行った。リカの同郷のヒナを助ける為だ。しかしそこにはくだらない理由でリカを威圧する王が居たり、さらには防御の腕輪が壊れるような到底安全とは言い難い場所だった。


 私はリカをそこから遠ざけたかったが、お人好しのリカは泣きつかれて王妃の調査に協力すると言う。そんなもの放っておけばいいのにと思うが、嫌がりながらも期待に応えようとするリカは損な性格なのだと思う。


 その後、事件は解決した。だが、結局はただ愚かしい人間の姿を目の当たりにするだけだった。



 夜会が開かれた。ヒナのお披露目だというそのパーティーにリカも参加するという。着飾ったリカはとても綺麗で、他の誰の目にも触れさせたくはないと思った。リカの周りには邪魔な者達が多すぎるというのに、さらにあんな大勢の目がある場所に出るなど心配が絶えない。


 そう、自分がどれだけ魅力的なのかをまったく分かっていないリカは警戒心が足りなすぎるのだ。あの王子達や領主の後継のリカを見る目の不愉快さと言ったら……リカが悲しむと思うので自重はしているが、消してしまえないのが本当に残念だ。


 さらにあの第二王子は厄介そうな話をリカにしてきた。これ以上王族の面倒事にリカを関わらせたくはない。幸いリカも城へ行くのはあまり気が進まない様子だったので、このまま近付けないようにしようと思った。


 そして先日、リカが倒れる事件があった。直前までサクヤの話をしていたが、それがきっかけとなってリカに掛けられていた術が強く働いたようだ。すぐに目覚めて後遺症もないようだったが、何故あれだけ強く術が掛けられているのかが不思議だった。しかも依然として術は解けていない。


 リカはサクヤが自身の祖母であることに非常に驚いていて、何やら深く考え込んでいる様子だった。そして驚き以上に戸惑いの感情も見えて、一体何に思い悩んでいるのかが気になった。しかしリカは私に何も話してくれない。それが何より悲しかった。



 リカが弟の婚約者の家族に会うと言って出掛けて行った。結婚前に家の者同士で挨拶をする風習があるのだそうだ。リカの家族に興味がない訳ではないが、二ホンではリカとは別行動が常となっている。


 以前リカに言われたのだ。「友達と会っていっぱいおしゃべりしてくるから、アルクは家で留守番しててね。着いてきちゃ駄目だからね」と。友人との会話を聞かれるのが恥ずかしいのだそうだ。リカが心配で姿を消して付いていこうとしたが事前に気付かれて禁止された。しかもプライバシーの侵害だと怒り、友人と会う以外もリカは一人で出掛けるようになってしまった。


 買い物に付いていく時もあるが、基本リカは一人で出掛けていく。一度リカの様子がおかしかった時に我慢できずに途中まで迎えに行ったことがあったが、その際に見たリカの目は赤く泣いたような跡があり、やはり一緒に行くべきだったと後悔した。


 最近のリカは探知能力が上がっていて姿を消していても気付かれる恐れがある。リカを怒らせたくはないが、しかし……。



 ある日、リカの漏らした言葉で「コンカツパーティー」なるものにリカが出席すると知った。それが何のパーティーなのかも分からなかったし、そもそも出掛けることも聞いていなかった。あまり話したがらないリカの様子を見て、リカのいない場所でヒナに尋ねてみた。すると「えーとね、結婚したい男の人と女の人が集まって、お互い気の合いそうな相手を探すパーティーかな」などと言うではないか。


 衝撃だった。


 リカが私ではない誰かを選ぼうとしている。許せるものではない。だが……


 いずれにしてもリカは、私を伴侶としてはまったく考えていないことを知って落胆した。



「いいんですか、このままじゃ里香さん、恋人作って結婚しちゃうかもしれないですよ?」


 ヒナには私の気持ちは見抜かれていた。彼女からすると何故リカに伝わっていないのかが不思議だという。


「いいはずがない」


「だったら……」


 ヒナは私にリカへ思いを告げろと言ってきた。


「里香さんには、ちゃんと言わないと伝わらないですよ」


 ヒナはそう言うが、私の思いを告げたらリカはきっと驚くだろう。驚くだけならいいが、私の事を煩わしく思ったり嫌うかもしれない。そう思うと行動に移せずにいた。


 それにリカは同じ世界の同族を望んでいるように見えた。リカの幸せを願うなら、リカが望む相手と添い遂げることを見守るべきなのだろうと思う。


 しかし……私以外の誰かの傍らでリカがほほ笑む姿など見続ける自信は私にはないし、怒りで自分が何をするかも分からない。それではリカは悲しみ私を憎むだろう。だが私の事を見てくれるのならばいっそ憎まれてもいいのではないか。そんなことを考えてしまうほどに、私は自分がどうするべきなのかが分からなくなり深く悩んだ。



 少しだけリカの側から離れてみた。


 しかしすぐにリカの様子が気になって自然とリカのもとへと帰ろうとしてしまう。何度か繰り返したがやはりどうしても離れがたかった。


 そして私がこれほど悩んでいるというのに、リカは「どこに出掛けてるの」と無邪気に聞いてきた。私は思った以上にリカに冷たく接してしまい自己嫌悪に陥った。



 悩み続け、私は決意した。


 このままリカを失うことになるなら、私の思いを告げようと。忠告を受けてこれまで抑えてきたが、怖がられようが嫌われようが、もうそんなものはどうでもいい。


 私にはもうリカの居ない世界は考えられない。


 私はリカと共に居たい、リカを失いたくない……ただそれだけだ。


 例えリカに拒絶されたとしても、その時は……




 そうして私の気持ちは固まった訳だが、まず用意しなければいけない物があった。


 そう、指輪だ。


 リカの望みは叶えたい。



 さて、どうするか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ