19
お店の二階は事務所や休憩室になっていた。裏の階段から登ってきたけど、ここへ来るのは初めてだ。伯父さんは休憩室横のテーブルにコーヒーを用意してくれた。
「いやー、悪いね。わざわざ来てもらって」
伯父さんは体格が良く、一見ちょっと怖そうな見た目なんだけど、とっても優しくて良い人だ。私はまったく内容を聞いていないのでどうしたのかを聞いてみた。
「実はね、お店のホームページなんだけど、担当していた子がこの間辞めちゃってね。他に分かる人がいなくて困ってるんだよ」
うーん、ホームページか。昔、少しだけブログをやっていたことがあるけど分かるかな。ちなみに、はじめたのはいいけど書くことがなくてブログはすぐに辞めちゃいました。えへへ。
「最初は業者に任せようと思っていたんだけど、えらく高くてね。店の子でそういうのが得意な子がいるっていうから任せて作ってもらったんだよ。で、その後も管理を任せていたんだけど、他に分かる子がいなくてね」
とりあえずホームページやファイル類を見せてもらった。
「ちょっと変えて欲しい所とか、お店のお知らせとかを更新したいんだけど、出来る?」
だいぶ古い形式で、私は見た感じはなんとなく分かるけど勉強したり調べないと触るのは怖いと返事をした。少し興味があって勉強したことはあるんだよね。一から作れと言われたら無理だけど、少し変更するくらいなら出来そうだと思う。
あと、今は知識がなくてもホームページとかを簡単に作れる仕組みもあるので、そういうのに変えてみるのはどうだろうとも話しておいた。テンプレートがあるし、何より感覚的に操作が可能だ。私のブログもそれで作ったしね。
「そうなんだよねぇ、誰でも更新とかできるようにしたいから、変える方向で考えないとダメかなぁ」
あとはホームページを辞めてSNSだけにするとかね。伯父さんはそれも含めて考えると言っていたけど、このままにはしたくないので出来ればしばらく担当をしてくれないかと頼まれてしまった。えー、勉強したくないよう。
最終的には引き受けることになったけど、ちゃんとアルバイト代も出してもらえるとのこと。祝、脱ニート。あれ、まだ会社に籍はあるからニートじゃないんだっけ?
ちょっと不安だったけど、伯父さんは「里香ちゃんなら出来るよ、大丈夫大丈夫!」とご機嫌だった。
パソコンは持ってきていなかったので、以前の担当者が置いていったというUSBをコピーしてもらったり必要なあれこれをメモしたり。あとはメッセージアプリのお店用グループに参加したりした。
どうやらメッセージで掲載して欲しいお知らせや新作の情報を送ってくれるらしい。掲載は頻繁ではないし、すぐにアップ出来なくても翌日くらいまでに作業してくれれば良いよ、というゆるーい感じなので、そこはちょっと安心した。とりあえず勉強しようと思う。
帰りは伯父さんから、ケーキと焼き菓子をお土産にもらった。やったね。
◇
さてさて、山奥に帰ってきました。
お茶を入れておやつにしようと思い、扉を出してあちらに向かう。
「アルクただいまー。帰ってきたよー。ケーキもらってきたからお茶にしない?」
声を掛けたらすぐに出てきてくれた。アルクは飲み物は飲むけど、食べ物はたまにしか口にしないんだよね。甘い物は好きそうだからケーキは食べると思うんだけど、どうかな。
箱を開けたらケーキが六個も入っていた。一人暮らしには多いねぇ。実家に持っていけば良かったかなって思う。
「美味しそうだよ、食べる?」
そう言って、カウンターに置いた箱を見せた。全部種類が違ってどれも本当に美味しそうだ。
「これは……」
何だかアルクがフルフルしてる?
どうしたのかなと思ったら、何だか興奮した声で呟き始めた。
「美しい。これは食べ物か?」
どうやらケーキに感動しているらしい。アルクは綺麗な物好きだよね。
箱に入っているケーキはどれも繊細で綺麗。表面は艶やかで飾りのチョコやフルーツは細やかで芸術的とすら言えると思う。しかも美味しいんだよ? パティシエさんって凄いと思う。
そういえば、こちらでこういうケーキは見ていないなと気付いた。パウンドケーキみたいなのはパン屋さんで見た気がするけど、ケーキ屋さんってあるんだろうか?
アルクは飽きもせずにずっと箱の中を眺めているから、とりあえずお茶を入れることにした。今日は紅茶にしよう。
アルクも食べると判断して、お皿やフォークを用意。さて、私はどれにしよう。確か新作のイチジクのケーキがあると言っていたのでそれにしようかな。
私は箱をアルクの前から移動させて、ケーキを取り出した。
「どれにする?」
アルクに聞いたら、すっごく悩んで一つを指さした。これは確かお店の名前の付いたケーキだったかな。前に食べたことがあるけど、確かチョコムースとピスタチオの濃厚なケーキだったはずだ。それぞれをお皿に乗せて、紅茶も準備よし。では、いただきます!
「美味し~!」
思わず声が出た。いちじくがジューシー。クリームとも合うし、めちゃめちゃ美味しい。
アルクを見ると慎重にケーキにフォークを入れて、じっくり味を堪能している様子。しばらくしたら私の方を見て無言で訴えかけてきた。うんうん、美味しいよね。アルクがなんだか面白い。
私はあっという間に食べ終わったけど、アルクはその後もゆっくりケーキを味わっていた。こんなに喜んでくれるならまたケーキをお土産に買ってこよう。
さて、残りをどうしようか。明日くらいなら大丈夫だとして、四つはさすがに食べきれない気がする。残り二つは誰かにお裾分けしようかと考えてるけど、この辺りにケーキを持っていけるような知り合いがいないんだよねぇ。どうしたものか。
一応、アルクにもあまり期待せずに聞いてみた。
「誰か甘いものが好きな人とか、知り合い居る?」
そうしたら「ダメ」と即答されてしまった。おやぁ? こういうアルク珍しい。よっぽどケーキが気に入ったのかな?




