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 戻って来たリカの友人は、リカにも連絡してみたが繋がらなかったと落胆していた。

 

 リカが消えたのは通りから外れた場所で、人にはあまり見られずに済んだようだったし、彼女も扉は見ていないようだ。ヒナは「人も少なかったですし、見られても撮影だとか思ってくれればいいんですけど。あとでSNSはチェックしておきますね」とよく分からないことを言っていた。


 そうしてそこからしばらく歩き、「ここです」と案内されて一軒の店に入った。


 地下にあるその店は照明が薄暗く、席は程よく離れていて適度な込み具合だ。


「なんだか大人っぽいお店ですねぇ」


「メインは夜の営業らしいんだけどね、この時間もカフェとして使えるんだよ。ただ食事が出来なかったり通りから離れてるからお客さんも多くなくて穴場なんだって」


 あたりを珍しそうに眺めるヒナに、「私も友達に教えてもらったんだ」と彼女は話していた。


 店員に案内され、私とヒナが並び、テーブルを挟んで向かいに彼女が座る。


 このような状況は想定外だが、リカを追うことも出来ない今はリカが消えた理由を知りたい。


 注文はすぐに済ませてさっそく話を始めることになった。


「さて、じゃあまずは自己紹介からかな。私は里香ちゃんの友達の藤原花です。里香ちゃんの中学の同級生です」


「私は森陽菜って言います、高二です。あの里香さんには色々お世話になっていて、最近はお泊りさせてもらったりご飯たべさせてもらったりとかしてます。その、里香さんは私のお姉さんみたいな存在です」


「え、高校生なの? 若いとは思ってたけど……」


 ハナは驚いていた。そして私に視線を向けてきた。


「それで、そちらは?」


「私は……」


 私はリカの、何だろう……


「あの、この人はアルクさんって言います」


 黙ってしまった私に代わってヒナが答える。


「アルクさんは外国の人? あまり日本語は得意じゃないのかな」


「あ、はい、この国の人ではないです。それと日本語は大丈夫なんですがその……普段から寡黙というか、里香さん以外とはあまり話さないというかそんな感じでして……」


「え、ああそうなんだ。里香ちゃんとはどういう?」


 少しだけ私に視線を向けてからハナはヒナに聞いた。


「うーん、里香さんの友人というか恋人、ではないんだけど実質そうとしか見えないというか……えーと、保護者的なところもあって……うー、難しい……」


「え、なにそれ。恋人ではないけどそれに近いってこと? うそ、里香ちゃんそんなこと全然って、あ、いや待って保護者って……もしかしてあなたがそうなの?」


 何故か驚いた顔をされた。しかも「いやでもこれは……ちょっとレベル高すぎじゃないの里香ちゃん……」そんな意味の分からないことを呟いていた。一体なんだというのだろう。しばらくなにやら興奮していた様子だったが、やがて落ち着いたのか話を再開した。


「ごめんなさい、ちょっと驚いてしまって。ええとね、なんとなく見えてきた気はするんだけど、里香ちゃんが居なくなった理由を教えてもらっていいかな」


 私もそれを早く聞きたい。


「はい、これは推測なんですが、たぶん合ってると思います。その……里香さんは私とアルクさんの仲を誤解したんだと思うんです」


 私とヒナの?


「あり得ない」


「いやまあそうなんですけど、里香さんはそう思ったってことです!」


 何故かヒナに切れ気味に言い返された。


「今日はアルクさんに頼まれて一緒にさっきのお店に行ったんです。アルクさんが里香さんにあげる指輪を買いたいっていうので里香さんには黙ってたんですけど、まさかあそこで会うとは思わなくて……。だから里香さんは、私達が里香さんに内緒で一緒に居たってことにショックを受けたんだと思うんです」


 ヒナの言葉は驚きだった。


 まさかリカが本当に私とヒナのことを? いや、だとしたらそれは……


「なるほど、そういうことだったの。しかし指輪をねぇ……」


 私を見るハナの目が細められた。


「アルクさんは指輪を買って里香ちゃんにプロポーズでもするつもりなんですか?」


「プロポーズ……求婚のことか?」


 ハナが頷き、横ではヒナがうんうんと頷いていた。


「そうだ、求婚するつもりだ。リカが指輪を渡されて求婚されたいと言っていたから用意した。リカは私の唯一であり、伴侶に求めるのはリカだけだ」


「うわぁ、熱烈……」


「ですよねぇ。なのに本人達だけがどうもすれ違ってて分かってないんですよ。普段からあれだけ距離も近いのに」


「そうなの?」


「はい、いつも一緒だし大抵くっついてます。あれで付き合ってないとかもう……里香さんってどうしてかアルクさんに対しては鈍いし、アルクさんは変なところで躊躇するしで本当にじれったいんですよ」


 呆れたような顔をして首を振るヒナ。


「そうなんだ、里香ちゃんにそんな相手がいたなんてびっくり……だけどまあ確かに里香ちゃんは鈍い所あるし、妙に自己評価低くて自分に向けられる感情に気付かないっていうか」


「そう、そうなんですよ!」


 二人は分かり合える相手を見つけたというようにお互いを見て頷き合い、そしていつの間にか「花さん」「ヒナちゃん」と呼び合い私を放って話し始めた。私はリカの話には興味があったので黙って聞いていたが、私についてはかなり辛辣な事も言われ、本人を目の前にしても二人は遠慮がなかった。


 そしてしばらく話が続いた後にハナが聞いてきたのだ。


「ねえ、ヒナちゃんは私より里香ちゃんの普段のことを知ってそうだから教えて欲しいんだけど、里香ちゃんの周りで保護者とか家族みたいな存在の男の人って誰か思い当たる?」


「え、そうですねぇ、男の人はいっぱいいますけど……」


「いっぱいいるんだ……」


「あ、はい。高スペックがいっぱいです。里香さん大人気です」


「ええ、なにそれ聞いてない。やだ、私のおせっかいなんて必要ないじゃない」


「婚活パーティーのことですか?」


「そう、里香ちゃんが悩んでたから、はっきりしない男なんか放って新しい出会いを探したらって思ったんだけどねぇ」


 私を横目で見ながらハナが言う。その「はっきりしない男」というのは私のことだろうか。しかしリカが悩んでいたというのは気になる。


「ええっとですね、里香さんの周りなんですけど、みんなすごく仲良くて親しいけど、家族みたいで保護者っていうとアルクさんしかいないと思います」


 しばらく考えてヒナは答えた。当たり前だ、私以上ににリカに近しい者などいないだろう。


「ああ、やっぱりそうなんだ」


「なにかあるんですか?」


「うん……あ、でもどうしよう。勝手に話していいかどうか……」


 どうやらリカから何か聞いているらしいが、ハナはその先を言うのをためらった。


 しかし私が「リカが悩んでいたというのはどういうことか知りたい。何か知っていることがあるなら教えて欲しい」そう頼むと、ハナは私の顔をしばらく見つめ、少し考えてから話し始めた。




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