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「本当にここでいいの?」


「はい、大丈夫です」


 朝食後に家を出て、最初はヒナちゃんの家まで送っていくつもりだったんだけどね、ヒナちゃんは行く所があるから近くの駅まででいいって言うんだよ。あ、近いっていっても山の中からだからそれなにりに距離はあるんだけどね。


「親にも言ってあるので」


「そう?」


「はい、いつも送ってもらってすみません」


「ううん、別にそれは構わないんだけど……じゃあ気をつけてね?」


「はい、ありがとうございました!」


 そう言ってぺこりとお辞儀するヒナちゃん。いつもながら礼儀正しくて良い子だなぁって思う。


 ヒナちゃんと別れて私は花ちゃんの家に向かった。実は今日のパーティーの会場は車で行くには少し難易度が高く、駐車場を探すのも大変そうなので私も電車を使うつもりだった。花ちゃんを迎えに行き、花ちゃんの家の最寄り駅から一緒に向かうことになっている。



「よし、里香ちゃん今日は頑張ろうね!」


 家に着いたら花ちゃんは既に準備万端で待っていた。ふんわりした雰囲気の装いで今日も花ちゃんは可愛い。しかもすごく気合が入っている。


「うん、まあほどほどに頑張るよ」


「何言ってるの、今日の里香ちゃんすごく可愛いよ。絶対みんな放っておかないし話しかけられるって。いっぱい色んな人とお話しようね。あれ、珍しいね、里香ちゃんがアクセサリーしてるの」


 さすが花ちゃん、指輪にすぐに気が付いた。隠す必要もないので「いやちょっと外れなくて」と言ったら「何それ」って笑われて、「でも素敵だし似合ってるよ。もっと里香ちゃんもアクセサリーしたらいいのに」って言われた。確かにシンプルで上品なデザインだから今日の服でも違和感はないんだよね。そこは助かったと思ってる。


 花ちゃんにはこれを機会にアクセサリーを楽しんだらと言われ、お店も見てみようよと言われた。それからしばらくは指輪の外し方で盛り上がったんだけど、多分そういう裏技的なのじゃ外れそうにないんだよねぇ、これ。


 車は駅に近いパーキングにとめた。電車なんて随分と久しぶりで、会社勤めの時は毎日使ってたのになぁって思うとちょっと懐かしい気もしたんだけど、うん、満員電車はもう乗りたくないかなって思う。



 花ちゃんと話しながらの時間はあっという間で、目的地には予定通りに到着できた。ただ会場はすぐそこだけど、パーティーは午後からなので少し移動してランチのお店に向かう。その為に今日は早めに出てきたんだよ。


「いつもお店を調べてくれてありがとう」


「いいのいいの、私が行きたい所に付き合ってもらうんだから」


 花ちゃんはいつも素敵なお店を予約してくれる。


 向かったお店は普段行くところよりちょっと高級店で、入り口からして重厚感があるし、店内は広くてとっても落ち着いた素敵な雰囲気だった。対応してくれたお店の人達もビシッと制服を着こなしていてみんな恰好良いし、コース料理もランチということでお得で大満足の内容だ。


「品数多いねぇ」


「ほんとだねー、しかも手が込んでるし」


 見た目も綺麗で楽しめて、しかも味が良い。最高だよね。


 時々どうやって作るんだろう、とか、こういのはみんなが喜びそうなんてつい考えてしまい、私って結構料理するのが好きなのかなぁなんてことを改めて思う。パンも美味しくて、そうだ帰りに新作パンの参考になるものを探してお土産にしようなんてことも考えた。


 私達はしっかりデザートまで堪能して食事を終えた。私としてはこのランチだけで満足で、今日はもうこれで終わりでいいのにって思うけど、それを言ったら絶対に花ちゃんには怒られそうなので黙っておく。



「お腹いっぱい~。美味しかったねぇ」


「うん、すっごく良かったね。毎月メニューが替わるって言ってたからまた来たいなぁ」


 店を後にして、さっきの料理やパーティーのことを話ながら歩く。私達がいるのは高級ブランド店が多くとても華やいだ雰囲気の通りで、満腹感をこなしながらウィンドウショッピングを楽しんだ。


 しかしどこも洗練されているとうか、私としては道行く人達がみんなおしゃれに見えて気後れしてしまう。最近はあちらの世界ばかりで出掛けることも少なかったし、こんな場所、今日みたいに誘われなければ来る機会もないだろうなって思う。まあ代わりに高貴な方達との交流はあるけど、それはそれっていうことで。



「うわぁ、綺麗」


 そんな中、花ちゃんが声をあげたのは世界的にも有名なブランドのディスプレイだった。超高級ジュエリーで有名なそのお店は、外観も目を引くし飾ってあるアクセサリーもとても美しい。


「どれも素敵だねぇ。ちょっと中に入ってみようよ」


 花ちゃんはそんなことを言うんだけどね、私には一生縁が無さそうなお店というか、入り口にドアマンが見えるし入るのにも勇気がいりそうなお店なんだよ。うん、無理。


「こんな高級店怖くて入れないよ」


「えー、せっかく来たんだし少し見るくらい大丈夫だよぉ。ほら、せっかく里香ちゃんがアクセサリーに興味を持ったんだし、良い物を見るのはいい事だよー?」


 いやだからといっていきなりこのお店はハードルが高すぎませんかねって思う。それに指輪はしてるけど残念ながらアクセサリーに興味をもった訳じゃないんだよ。指輪が抜けなくなった話はしたけど、まさかダンジョンのアイテムですとは言えないから説明に困る。


 そんなことを思いながら私は無理だと言って入店するのを嫌がっていたんだけどね。


「あ、すごく素敵な人。いいなぁ、私もあんなお店で彼氏と一緒に買い物したいなぁ」


 花ちゃんが店の入り口を見てそう呟いた。私は直前に見知った気配を感じてあれって思ってたんだけど、花ちゃんの言葉につられて視線を向けたその先には……



 見慣れた二人、アルクとヒナちゃんの姿があって。



「え、なんで……」


 思わず言葉が漏れた。


「あれ、里香ちゃんの知ってる人?」


 傍らから花ちゃんの声が聞こえたけど、答えることも出来ずに立ち尽くす。



 花ちゃんが入ろうって言った高級ブランド店。


 そこから出てきた、アルクと、ヒナちゃん……



 どうしてこんな所にアルクが居るの?


 どうして二人が一緒に居るの?


 どうしてそのお店から出てきたの?



 どうして……そんなに嬉しそうに笑ってるの……



 訳が分からなくて、だけどアルクが顔をこちらに向けた瞬間、私ははじかれたように走り出していた。


 お店と反対方向に全速力で。


 後ろから花ちゃんの声が聞こえたし、アルクが私を呼ぶ声もした。


 だけど私は止まらなかった。



 やだやだやだ。


 ここに居たくない、見たくない。


 そう思いながら走って、走って。


 だけど後ろからアルクの気配がして。


 どうして追ってくるの?


 必要ないでしょう、なんで、やだ、来ないで。



 だから私は願った。


 ここに居たくない、ここじゃない場所に行きたいって。


 そうしたら前方に扉が現れた。


 私は迷いなく扉をくぐる。



「リカっ!!」


 アルクの叫ぶ声がしたけれど構わず進み、扉が閉まって何も聞こえなくなった。




 息が、苦しい。


 胸が、痛い。



 しばらくして少しだけ呼吸が落ち着いて……




「あれ……ここ、どこ……?」




 私は見知らぬ場所に立っていた。





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