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 あれから、なんとなくアルクと気まずい雰囲気ながらもいつもと変わりなく過ごしていた。


 いや、いつもと変わらないというのは少し違うかな。表面上は変わらなかったけど、アルクが私と別行動をとることが増えた。そんなに頻繁にという訳でもないんだけど、たまにアルクが居ないことに気付いてちょっとだけあれって思うことが多くなったというか。


 今までだっていつもべったり一緒にいる訳じゃないんだけど、家の中なら常に気配は感じていたんだよ。それが最近、どうもどこかへ出掛けているみたいでアルクの気配がないのだ。


 最初は仕事の休憩中に「そういえばアルク見ないな」と思って気付いたんだけど、特に気にしていなかった。だけどそれからアルクの気配がないことが度々あり、さすがに少し気になり始めた。


「ねえ、アルク。最近どこに出掛けてるの?」


 だからね、聞いてみたんだよ。アルクだってプライベートで用事とかあるだろうし無理に聞く気はなかったんだけどね。


「……別に」


 軽く聞いただけだったけど、アルクの返事はすごく素っ気なかった。あれ、何か機嫌悪い?


「……リカには関係ない」


 しかも拒絶された。というかアルクが私にこんな風に言うのって初めてな気がする。声も冷たいし……


「ああ、うん、ごめん……」


 私はそれだけ返すので精一杯だった。アルクにこんな冷たい対応されたことがなくて思った以上に衝撃を受けていた。


 その日はそれ以上の会話は無く、アルクはいつの間にかどこかへ行ってしまって私は一人で黙々と仕事をして過ごした。そしてそのまま、夜になってもアルクは帰ってこなかった。


「アルク、どこ行ったんだろう……」


 私は心配しながらもアルクに突き放されたことをずっとグルグル考え続け、結局なかなか寝付けなかった。




     ◇




 眠い目をこすりながら起きてきたら、淹れたてのコーヒーの良い香りがした。


「おはよう」


「おはよう、リカ」


 顔を洗って席に着くと、アルクがテーブルにマグカップを置いてくれる。


「ありがとう、すごくいい香り……はぁ、美味しい」


 寝不足でぼうっとする頭にコーヒーが沁みる。そしてジワジワと意識がはっきりしてきて、やがて寝不足の原因であるアルクが帰ってきていることに気付いてちょっと狼狽えてしまった。


 今更だけど、どうしよう。


 さっきは普通に会話したよね。変わらなく見えるしコーヒーも淹れてくれたって事は、私、嫌われてない?


 ああ、でも何を話せばいいんだろう。


 「どこ行ってたの」なんて聞いたら、また「関係ない」って言われるかな。アルクに冷たくされるのはすごく怖い。考えただけで悲しくなる。


 私は昨日の夜と同じように、どうしたらいいにかが分からなくて考え込んでしまった。



「リカ、そろそろ仕度をしないと間に合わないのではないか?」


 いつの間にかだいぶ時間が経っていたらしい。今日はダンジョンの日なんだけど、気が付けばみんながやってくるまであまり時間が無くなっていた。


「え、やだほんとだ、急がなきゃ!」


 パジャマのままだった私は急いで部屋に戻った。着替えながら思う、さっき声を掛けてくれたアルクの声はいつもと変わらないように思えた。普段通りのいつものアルク。



 ――本当に、いつも通り……?




 準備が出来てガイルへ行くと、しばらくしてマリーエさんとエミール君がやって来た。騎士団長はお仕事でお休み。相当ごねたらしいけど、副騎士団長の許可が出なかったようだ。お仕事がね、溜まってるんだって。しっかり仕事して下さいって思う。


 あと今日はこれから一旦お城へ向かう。ロイさんと殿下もダンジョンに連れて行く事になっているからだ。


 ロイさんは拠点をガイルから王都に戻した。本人はすごく残念がっていて、あのままガイルでも良かったのにって言っている。ガイルはご飯も美味しいし、呼び出しも少ないしで快適だったんだって。ほぼ強制的に呼び戻されたようで、私の所へも自由に来れないし、あと仕事が忙しいって嘆いていた。うん、まあ頑張って。


 それと殿下なんだけど、今日はギルベルト殿下ではなくてお兄ちゃんのエルンスト殿下が参加予定だ。以前からダンジョンに行きたいとは言ってたんだけど、こちらもなかなか忙しいのと煩い人達がいるとかでやっと実現した。なので殿下は非常にご機嫌だった。


 一方、ギルベルト殿下は自分も行くって最後まで言い張っていたけど、王子二人が一緒には問題があるとかで留守番が決定している。私は別にどうでもいいけんだどね。あと「ずるい」とかお互い言い合って喧嘩する様子は普通の仲の良い兄弟にしか見えなかった。


 さて、時間がもったいないのでさっさとダンジョンへ移動することにする。色々気になることはあるけれど、注意力散漫は怪我のもとだ。持ちを切り替えないと。




     ◇




 やってきたのは二十三階層の竹林だ。


 前回は結局、ほぼタケノコ掘りして終わったんだよね。あの後、ゆで上がったタケノコを冷まして回収し、調理は既に終えてある。食べるのはヒナちゃんが居る時と約束しているので出すのはもう少し先の予定だ。


 しかしこの辺りは何故だかとても魔物が少ない。タケノコ探しやバーベキューをしている時も全然出てこなくてちょっと不思議だった。まあ、こういう魔物の少ない区域も今までなかったわけではないし、おかげでこんなダンジョンの中で食事しようなんてことにもなったんだけど。


 竹林はかなりの範囲に広がっていて、進んでも進んでも景色があまり変わらなかった。


「やはり一般に聞くダンジョンとはだいぶ違いますね」


 そう言いながらも興味深そうにエルンスト殿下はあたりを観察している。


「うーん、基準がどうなのか分かりませんけど、ここは階層毎にかなり様子が違いますよ」


「ほう、非常に興味深いです」


 その後もあれこれ質問されて、私やロイさんがそれに答えていった。


 そして見つけたんだよねぇ。


「あれは……なんでしょうね」


 前方にあったのは「光る竹」だ。


 一本だけ根元からひどく眩しく輝いていた。


「怪しいですねぇ」


 みんながうんうんと頷く。


「こういう場合はどうするのです?」


 殿下が聞いてきたんだけど、いやどうするって言われても。


「見なかったことにする?」


「いやいや、やっぱりここは切るべきでは?」


「そうですね、アイテムの可能性もありますし」


 みんなは切りたいらしい。でもさぁ、アイテムの可能性はもちろんあるけど、やっぱり何か出てきそうじゃない、これ。かぐや姫じゃあるまいし、こんなあからさまに怪しいものスルーでいいと思うんだけど。


 そう言ったんだけどね、結局私の意見は多数決で押し切られてしまった。


「では、いきます」


 剣を構えるマリーエさん。


 みんなも武器を持って備える。あ、そういえば殿下もダンジョン武器を持ってきたらしい。ギルベルト殿下が使っていたやつだろうか。


 そしてマリーエさんはひと呼吸の後、スパっと斜めに竹を切断した。だけど……


「なにこれっ!」


 切断面からは真っ黒な「何か」が噴き出してきた。


 空中に向かってまるで噴水のように吹き上がって散っていく。そしてそこからいくつもの塊がこちらに向かって襲い掛かって来たのだ。


「これは、魔物かっ?」


 塊は膨張して人間ひとり分はありそうな大きさになり、いつの間にかムカデやダンゴムシなど様々な形に変わっていく。しかも変な液体まで飛ばしてきて、地面がなんだかジュワジュワしてるし。うわぁ、あれは浴びたら相当やばい。


 もう、だから言ったじゃない。やっぱり無視すれば良かったのにー。




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