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花ちゃんと別れて実家に帰るとお父さんも会社から帰ってきていた。これからお茶を飲むと言うので私も参加する。
お土産の豆大福が出てきたけど、さすがにお腹いっぱいで遠慮しておいた。明日は固くなっちゃうかなぁ。焼くか。
お母さんには花ちゃん元気だったよという話や、お父さんにはおじいちゃんの家の様子や生活のことなどを報告した。お父さんは「そうか」としか言わなかったけど、「お父さんすごく心配してたのよー」とお母さんは言っていた。
しばらく振りの家族団欒を楽しんで、この日は早めに就寝。会社を辞めたら不規則な生活になるかなと思っていたけど、最近はすごく健康的な生活をしていると思う。
ちゃんと朝起きているし夜更かししていないし、運動もあちらを探検するのに結構歩いているし。あとご飯もしっかり食べてる。会社勤めの時ってこれほとんど出来てなかったよね。
朝は無理やり起きて、夜は残業して帰って、疲れて意識失う勢いで寝て。ご飯だって適当だったし……遠い目。
うん、健康大事。自分の体は大事にしよう。
さて、さっきの団欒中にお父さんとお母さんに扉やあっちの世界の話を聞いてみたんだよね。だけど二人とも何も知らないみたいだった。
「おじいちゃんの家で、別の場所に扉があったとか知らない?」
それとなーく聞こうと思ったんだけど、なんて言ったらいいか分からず思いっきりストレートな質問になってしまった。語彙力と巧みな話術を私に下さい。
「なんだ、隠し倉庫でもあったか? 家の図面は一応作ったが見落としたかな」
「なあにぃ~、何か面白い物でもあったの?」
場所とか聞かれたので、正直に「台所の扉の横になんとなく扉があったような感じがしたので聞いてみた」と話しておいた。
お父さんは「そんな所に扉も入り口もなかった」と言っていたが、私の知らなかった衝撃の事実が判明した。なんとお父さんはあの家に住んだことがないそうだ。私はお父さんの実家ってずっと思っていたから、住んでいたと思い込んでいた。
もともとあそこは私の曾おじいちゃんが住んでいた家だそうだ。だけど山奥だし今より道も整備されていなくてすごく不便だったから、おじいちゃんはずっと町中に住んでいたんだって。
そのまま就職もして、たまに戻ってきたりはしたけど結婚してからもしばらくは町中に居たそうで、お父さんが大きくなって、大学に行くのに寮に入ることになってからおじいちゃんはあの家に住むようになったそうだ。知らなかった。
その後も少し話をしたけど、二人の反応に扉や向こうのことは知らなそうだと結論。信じてもらえそうにないし、とりあえず話をするのは保留にした。
話していいのかも含めてアルクに相談してみようと思います。では、おやすみー。
◇
翌日、ちょっとだけ朝寝をして、お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べた。作ってもらえるのって幸せだなぁ。しみじみ。
さて、お父さんから昨日言い忘れたとお願い事をされた。
なんでも伯父さんから「パソコンが分かる人はいないか」というなんとも微妙な電話があったそうで、とりあえず私に様子を見てきて欲しいとのことだった。
「分かる人」って、どの程度なのか不明だよね。仕事では使っていたけど、何がどれくらい分かればいいんだろうか。うーむ。
伯父さんはお父さんの従兄で隣の市に住んでいる。滅多に会わない人だけど、数年前にケーキのお店をオープンさせたので何度か買いに行った。
フランス菓子のお店で伯父さんはオーナー。事務とか経理をやっていて、お店のシェフは息子さんだ。
息子さんはフランスに修行に行っていて、帰ってきてからは日本の有名店に勤めて経験を積み、それからお店をオープンさせた。伯父さんとは共同経営者ということらしい。
私にとっては「はとこ」にあたる。確か十歳くらい年上だったと思うけど、伯父さん以上に会ったことがない。お店が出来てからは何度か挨拶をしているくらいだ。
予定もないし、今日帰りにさっそく寄ってみることにした。それでお父さんに連絡してもらったら「待ってる」って返事があったそうだ。
お父さんからは「自分が内容を聞いても分からないから直接聞いてくれ」と、結局どんな要件なのかは分からずじまいだった。私は別にパソコンに詳しい訳ではないんだけど、大丈夫かな。
まあ、帰り道なので寄って話を聞く分には何も問題なしだ。ケーキ買って帰ろうっと。
準備をして午前中に実家を出発した。ケーキ屋さん、今はパティスリーって言うのかな、そこまでは車で二十分くらい。
住宅街の端っこにあって、アプローチや周囲が緑いっぱいのガーデン風、とってもおしゃれな外観で写真映えばっちりの素敵なお店だ。お店の評判も良く、行くといつもお客さんがいっぱいだ。
伯父さんはこの時間はお店に居るとのことだったので来てみたけれど、相変わらずお客さんがひっきりなしの様子だった。ケーキも人気だけど、焼き菓子も贈答用とかでよく売れるらしい。凄いなぁ。
お客さんの切れ目を見て店員さんに伯父さんを呼んでもらった。伯父さんはすぐに来てくれて、お店の二階に案内された。
お菓子屋さんっていい匂い~。




