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 今日はリリーナさんに招待してもらった舞台を観るつもりだ。ヒナちゃんを誘ったら「面白そう!」と喜んだのでアルクとマリーエさんと一緒に四人で王都にやってきた。


 劇場はとても立派で、一階席の他にも舞台を囲むように二階から五階くらいまでバルコニーのような席がある。私達が案内されたのはそのバルコニー席で、周りとは仕切られて個室のようだし舞台も良く見えた。


「すごく良い席」


「ええ、リリーナは観劇が趣味でこの劇場の席は年間を通して確保してあるんです」


 それは凄い。日程の調整が出来た理由が分かったけど、自分で観る以外に事業の関係でお得意様や接待用にも利用しているとのことだった。なるほどね。


 さて本日の演目なんだけど、なんと賢者様のお話を元にしたものだった。人気だというだけで詳しくは聞いていなかったんだよね。今日ここへ来て初めて知って驚いた。


「楽しみですね」


 マリーエさんはニコニコと嬉しそうで、そう言えば彼女も妹さんも賢者様の大ファンなんだっけと今更ながらに思い出す。


「里香さんのおじいさんのお話なんですか?」


「そうみたい」


 ヒナちゃんにおじいちゃんがこちらで活動していたことを話したらすごく興味を持ってくれて「凄い人だったんですね」と感心していた。まあそうだよね、本やこうしてお芝居にまでなっているし、みんなの尊敬を集めているって本当に凄い事だと思う。


 ただねぇ、どんなに周りから偉大な人物だと言われても、私の知っているおじいちゃんとは別人みたいに思えてしまうんだよ。だいぶ慣れたけどいまだに変な感じがする。


 さて今日はどんな話が上演されるんだろう。そう言えばリリーナさんの貸してくれた本は結局読まずに返したんだっけとそんなことを思い出しながら席で待っていると、照明が落ちて辺りが暗くなり、やがて舞台の幕が上がった。




 舞台は、うん、面白かったよ。


 最初はおじいちゃんの役の人が若過ぎてびっくりしたけど、段々そんな事は気にならないくらいに演技に引き込まれた。セリフに加えて歌を歌ったりとまるでミュージカルような演出も楽しかったし、ストーリーも分かりやすくてテンポも良かった。


 内容はおじいちゃん達が立ち寄った町で起こっていた事件を解決するっていう話だったんだけど、思わぬ人間関係が発覚したり黒幕がいたりとサスペンス要素あり活劇あり、さらに高貴な身分の女性がおじいちゃんへ恋してしまうなんて展開まであった。


 そう恋愛話だ。途中で「あ、これおじいちゃんの話だった」と思い出してちょっと気恥ずかしくなってたりもしたんだけど、ちゃんと最後まで観た。


 えーとね、もともと一緒に居た仲間の一人とお爺ちゃんは良い雰囲気で、そこに高貴なお姫様みたいな女性が加わってなんと三角関係みたいなことになっていくんだよ。おじいちゃんやるなぁと思ったし、その仲間の女性というのがとても気になった。劇中であまり詳しい人物紹介とかなくて「サクヤ」という名前だとは分かったけど初めて聞く名前だった。


 やがて話は進んで悪事が暴かれて事件は解決。そして終盤で「私には大事な人がいるから」と言っておじいちゃんはお姫様にごめんなさいをしてお別れをし、仲間のサクヤさんと愛を確かめあってめでたしめでたしって感じで舞台は終わった。



 上演が終わって辺りが明るくなり、席を立つ人やその場でおしゃべりする人などで劇場内はざわついている。


「あんまりこういうの見た事なかったけど、すっごく面白かったです~」


「ええ、私もこの話は何度も見たことがありますが今日の舞台はとても良かったです」


 ヒナちゃんの言葉にマリーエさんも満足そうに頷く。


「何度もって、これ有名なお話なんですか?」


「はい、地名や名前は変えてありますが実際に賢者様が解決された話として広く知られています」


「そうなんだぁ。あれ、じゃあさっきのお姫様とか仲間の女の人の話も?」


「そうです。この出来事をきっかけに賢者様とサクヤ様のお二人は恋人同士になり仲を深めていかれたそうで、賢者様の逸話の中でも特に人気のあるお話なのです」


 実話なんだ。だけど恋人かぁ、確かに劇中ではとても良い雰囲気だったけど……あれ、確か前にこんな話聞いたよね。旅をする中で育まれる愛だとか恋だとか……


「――賢者と精霊の恋物語?」


「はい、他にも舞台化されている話は沢山ありますよ。ぜひまたご一緒しましょう」


 マリーエさんは嬉しそうにしているけれど、私はそれどころではなかった。


「え、サクヤさんって精霊なの?」


 確かに劇中でも不思議な力を使う場面はあったけど、まさか精霊だとは思わなかった。


「えっ……はい、そうです。あの、リカ様はご存じないのですか?」


 マリーエさんは何故か不思議そうにしている。いやだってそんな説明なかったよね? 説明が不要なくらいの有名な人ってことなんだろうか。


「知らない……え、じゃあアルクは?」


「私はサクヤとは面識はある。だがこれはジローの若い頃の話で私がジローに会ったのはこれより後のことだ」


 思わず出た私の疑問に答えたのは本人だった。


 いやえーと、私は恋人の精霊ってアルクじゃないのかって思って呟いたんだけど、どうも違う意味にとられたらしい。だけど、え、いや待って、おじいちゃんの仲間の精霊ってアルク以外にも居たってことだよね、これ。


 私は思ってもいなかった事実に衝撃を受けていた。


 え、え、待って待って。つまり何、以前に聞いたおじいちゃんと恋人っていうのはこのサクヤさんでアルクじゃない……ってことなの? 人違い……いや精霊、違……い?


 うそぉ。だって私、アルクがおじいちゃんの恋人だと思って一人で悩んでへこんで……完全に私の早とちり、勘違いってことじゃない。ええ、どうしよう物凄く恥ずかしいぃ……うわぁぁぁ。



 羞恥心でいっぱいになって一人で悶えてうんうん唸ってかなり挙動不審だったと思う。しかもアルクやみんなの顔もまともに見れなくて項垂れていたら具合が悪いと勘違いされてすごく心配されてしまったし……。


 ああ、もう私ってどうしてこう……。




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