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「天井高ーい」


 入り口から一歩踏み入れたそこはホールになっていて、正面の祭壇に向かって大きく空間が広がっている。全体的に薄暗いけど、高い位置にある窓から差し込む柔らかな光が厳かな雰囲気を醸し出していた。


 奥へ進んでいくと壁に何かのお話をモチーフにしたような絵が並べて飾られている。


「これは建国の神話です。神がこの地を創造され、何もないこの地に御使いを遣わして人々を導き、国が始まったと伝えられています。御使い様、ああ今は使徒様という方が一般的ですが、使徒様は人々に様々な知識を与え、やがて神の国に帰られました。そしてその内の一人がこの地に留まって初代の王となったとされています」


 殿下が説明してくれたんだけど、そうかそれが……


「初代様」


「ええ、ご存じでしたか」


「先日ミランダ様から教えてもらいました。でもその使徒様って何人もいたんですね」


「そうですね、それぞれが皆不思議な力をお持ちだったそうですよ。その力で開拓し土地を広げ、あるときは地形まで変えてしまったそうです」


「地形を変えるって、それは凄いですね」


 どこまでが本当でどこまでが創作かは不明だけど、何かしら元になるような話はあったのかなって思う。それに神力なんて不思議な力を持つ人々が生きる世界だし、全部本当のことだってこともあり得るのかもしれない。


 私達は祭壇の前にきた。幾人もの人が祈りを捧げていて、白い修道着のようなものを着た人や町の人達も居る。


「あれは?」


 正面の祭壇には一本の杖が祀られていた。


「御神木の一部です。神の宿る聖なる木があり、その一枝を切り落として作られたのがあの杖だと言われています」


 二メートルくらいはありそうな木製の杖。上部は大きな丸い輪でいくつか装飾があるがシンプルなものだった。


「その聖なる木は何処にあるんですか?」


 この神殿内にあるんだろうか、是非見てみたい。


「それが分からないのです」


「え、分からない?」


「はい。使徒達がお帰りになる際に一緒に持ち帰られたとも、今でもこの地に残っているとも伝えられています。一説には城にあるとも言われていますが私は見たことはありません」


 ふうん。木なんだからそこそこ大きいし、本当にあるんなら見つけられないってことはなさそうだけどね。


 私はそう言えばと前から気になっていたことを聞いてみた。


「神様のお名前は何と言うんですか?」


「お名前は伝えられていません。我々はただ創造主様とだけお呼びしています」


 なるほど。神殿という言葉は聞くけど神様の名前とかはまったく聞かないので不思議だったんだよね。そうか、知らないんじゃ呼びようがないよね。


 そして私は祭壇の横にある像に気が付いた。


「こちらが初代様、我がフランメルの最初の王ベルスベディア・フランメル様です」


 へーこの人が……。



 初代王、ベルスベディア・フランメル。


 大理石のような石で作られているのか像は白っぽい色で、椅子に腰かけ右手には祭壇に祀られた杖、左手には石板を持っている。額には石の付いたサークレット、瞳は伏せられているが鼻梁の通った整った顔であることは分かる。ヒナちゃんが見ればイケメンって言うだろう。


「初代様の在位はとても長かったと伝えられています」


「ああ、百年とか二百年でしたっけ?」


「はい、最初の在位は百年でしたが退位後にもしばしば歴史書に名前が登場し、王位争いで後継者が絶えた際は再び王位に就かれたと記されています」


 なるほど、それで期間が曖昧なのか。


「いつまでもお若く、大いなる力で人々を導いたそうですよ」


「人間離れした存在ですねぇ」


「まあ初代様ですので」


 すべてはそのひと言で済まされてしまう。


 初代様は創造主様と一緒に神として祀られているそうだ。


 再び初代様の像を眺めて思う。一部では精霊説もあるそうだけど、使徒様って何処から来たのか、何者なんだろう。



 殿下は初代様にまつわる話をいくつかしてくれた。


 どれも興味深い話ばかりだったけど、そう言えば殿下はその初代様の子孫なんだよね。自分がそんな伝説の人物の血縁とかってどういう気分なんだろう。


「うーん、あまり意識した事はありませんね。偉大過ぎてお話の中の人物としか思えないというか。あなたはどうです? 偉大な賢者様の血縁、私と違ってご本人を知るあなたはどう感じるのでしょうね」


 逆に聞かれてしまった。まあおじいちゃんはおじいちゃんというか。話を聞くと凄いとしか思えないし私に同じことが出来るとは全く思わないけど、別にそれでプレッシャーとかはないよね。私にとっては優しいおじいちゃんなだけだ。


 あと殿下はこんなことも言っていたね。


「祖父、先代の王は一般的な年齢で亡くなりましたし、私も多少長生きしたとしてもあまり変わらないと思います。ただ父は……陛下はあの通りですので、かなり寿命は長いと思います。過去にも王族でそのような人物が居たと記録がありますし、在位も長かったと」


 長い寿命かぁ。昔はね、長生きは良い事って単純に思ってた。死ぬのは怖いし、それにおじいちゃんやおばあちゃんには長生きして欲しいって思ってたから。


 だけど極端に長い寿命なんて周りも一緒じゃなきゃ寂しいだけだよね。なんだか凄く悲しい気持ちなる。無意識に傍らのアルクの袖を思わずぎゅっと握ってしまっていた。



 見学出来るのはこのホールだけとのことで、私達は大神殿を後にすることにした。


 だけど帰りにホールの隅に売店があるのに気が付いて覗いてみたら「神殿印のお守り」とか「恋愛成就のブレスレット」とか売っていた。意外と神殿って商売っ気があるんだなぁと思って見ていたんだけど、結構売れていたので人気はあるみたいだ。


 私は気になったのでお守りを見せてもらった。小さな巾着に杖のマークがあって中には綺麗な石が一つ入っている。これが神殿の印なのかな。石は……アルクに見てもらったら「神力を感じる」と言っていた。


 売店の人は白い修道着を着ていたから神殿の人なんだろう。お守りについて説明してくれた。


「こちらは高位の神官が石にひとつひとつ神力を込めています。持ち主に害意が向けられた時、石が持ち主を守ることでしょう」


 すごく実用的なお守りだった。私の腕輪みたいな感じかなって思ったけど、ほんの少し力があるくらいだそうだ。石が綺麗なのと効果が気になったので一つ買ってみることにしたんだけど、何故か恋愛成就の方を熱心に勧められた。なんでだろうね、断ったけど。



 一応これで予定していた場所は見終わった。なので少し早いけど戻ることにして、行きとは違う道を選んで辺りの景色やお店を見ながら私達はお城に帰った。


 なかなか充実した観光が出来たな―と思う。殿下も楽しかったと言っていたし、今度はヒナちゃんとも一緒に来たいな。


 ああだけどね、後から思わぬ苦情があったんだよ。どうも殿下や私達に密かに護衛が付いていたらしいんだけど、アルクの気配を薄くするっていう術のせいで「護衛に支障が出た」って言われたんだけど……いやそんなこと言われてもってアルクは困ってた。うん、アルクは悪くないと思う。


 まあとにかく、王都観光は無事終了。やっと行けて満足~。




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