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「リカ様が作ってくれた料理に似ていますね」


 そう、少しいびつな円形の生地に真っ赤なソースとチーズにハーブ。


 それはまさしくピザだった。


 お店にメニューはあるけど写真や絵なんて載っていないし、話題の店というだけでどんな料理が出るのかは詳しく聞いていなかった。というか実際に行ったという人がまだ居なかったんだよね。侍女さん達はみんな噂を聞いて次の休みに行ってみるって感じだったんだよ。


 料理名も聞いたことがないものだったし、まさかピザが出てくるとは思わなかった。


「これはリカ様の国の料理なのですか?」


「ああいえ、国は違いますけど私の世界にある料理に似てますね」


 冷めない内に食べようということになり、さっそくひと口。ピザは大きなお皿に一人一枚。切れ目は入っていないので適当な大きさに切って口に運ぶ。


 ハーブの香りが食欲をそそる。うん、トマトソースの酸味とチーズの濃厚さのバランスがたまらないね。


「美味しい~」


 生地はパリッとしていて薄く、この大きさでもぺろりと食べられそうだ。


「ほお、随分と簡素な料理だが……これはなかなか」


 殿下も気に入ったみたいだ。国内の料理は色々食べてきたそうだけど、これは見たこともないと言っていた。それとこういう店で食べる事自体が初めてだとか。あー、これってもしかして怒られ案件だったり……?



 私達はしばらく熱々のピザを楽しんだ。


「以前作って頂いたものはもう少し食べ応えがありましたね」


 エミール君はどうやら物足りないらしい。家で作ったピザはもっちり系の生地だったし、ウィンナーや野菜なんかを色々のせたと思う。


「うーん、まあ生地にも種類があるからね。具材だって組み合わせで色々楽しめるし。それにしても似た料理がこっちにもあったんだね~」


 私は単純に料理を楽しんでいたんだけど、「もしかして……」と、それまで何やら考えていたマリーエさんが少し席を外しますと店の奥に行ってしまった。どうしたんだろうと思っていたら、しばらくして戻って来たマリーエさんが思わぬ事を言ってきた。


「確認してきました。これはリカ様のレシピです。この店はデイルズ家の出資でリリーナが関わっています」


「え、リリーナさん?」


 マリーエさんの妹さんのリリーナさん。こんな所で彼女の名前が出てくるとは思わなかった。


 マリーエさんによるとリリーナさんは以前ガイルで私がご馳走した料理にえらく感動したそうで、私のレシピでお店を出したいと飲食事業を立ち上げてしまったそうだ。さっき責任者に話を聞いたそうなんだけど、ここはその事業の実験店舗なんだって。凄いよね、リリーナさんて行動力があるんだと感心してしまった。


 元々デイルズ家は色々手広く事業をしていて、拠点は変わらずメルドランなんだけど近年は中央領にも進出しているんだそうだ。リリーナさんはお父さんの手伝いをしているってマリーエさんから聞いていたけど、私が思っているよりもずっとがっつりお仕事していたみたいで、実際に中央領で指示を出したり采配しているのは彼女なんだとか。


 マリーエさんと仲の良い姉妹でエミール君の婚約者、可愛らしい見た目のご令嬢としかイメージがなかったのでかなりびっくりした。


 エミール君もリリーナさんが出したお店と聞いて驚いていた。なんかね、新事業の話は聞いていたようだけど具体的な内容までは知らなかったらしい。


「最近お互い忙しくて……」


 なんでもしばらく会えていないらしい。お店のことはともかく、二人の仲が大丈夫なのってちょっと心配になってしまった。


 そしてマリーエさんには何故か謝られた。


「リカ様に何の報告もなく、大変申し訳ございません」


 いやあの、別にそんなのいいから。それに思い出したんだよ、リリーナさんから出店許可が欲しいとか色々言われたことを。それに対して私は別に構わないと言ったし、その時色々レシピも教えた。


「あのね、全然大丈夫だから。こうしてお店まで出すなんて凄いことだし、私はレシピを使ってもらえて嬉しいよ?」


 マリーエさんはそれでも「しかし……」なんて言ってたんだけど落ち着いてもらい、その後は他のピザを追加注文したり他の料理を食べたりと大満足の昼食だった。


 うん、また食べにこよーっと。




 お腹がいっぱいになった私達は次の観光場所に向かった。


 しばらく歩いて到着したのは白亜の建物。


 これまた凄く立派で、正面の階段と大きな入り口がひと際目を引いた。


「ここは大神殿です」


 なんと例の神殿の総本山だった。


 ここは建物内を見学が出来るそうなんだけど、ちょっと戸惑う。だってヒナちゃんを攫ったりとか神殿に良い感情なんて無いよ? だから敵って認定してるんだけど、そんな組織の建物に入るとか大丈夫なのかなって……。


「ああ、リカ様が不安に思われるのもごもっともですね。しかし神殿は本来、神を敬いその尊さを広め民に寄り添うものです。ヒナ様に対する行為は許されることではありませんし、神殿内でも非常に問題視されてシュライデンの神殿へは厳しい処罰が下されています。大神官様はこの件を非常に心苦しくお思いで、ヒナ様へ謝罪をと申し入れがありましたが、その時はまだヒナ様が落ち着かれる前でしたのでお断りをしていました」


 私が鏡でヒナちゃんに接触する前ってことかな。その後も申し入れは度々あるけど、ヒナちゃんの「会いたくない」の言葉でやはり断っているそうだ。


「大神官様はリカ様ともお会いしたいと言っています。どうも城に居る事を把握しているようで申し入れがありました」


 お会いになりますかって聞かれたけどもちろん断った。会ってどうするのって感じだしね。それにしても私の情報しっかり漏れてるし。


 とにかく「神殿はそんなに恐ろしいところではないんですよ」と殿下は言っていた。腐った一部の暴走があったけど、本来は穏やかな組織なんだと。


 つまりね、貴族の子息が継げる家がない場合に文官か騎士になるしか貴族籍を保つ選択肢がないって話は以前聞いたけど、もう一つ神官になるっていう方法があって、貴族ではないけれど神殿内でそれなりの地位があれば貴族と同等、それ以上に良い生活も出来てしまったりするんだそうだ。


 ただ神殿に入ることでもちろん色々と制約はあるので、これは自力で貴族籍を保てない人の最終手段ってことらしい。ふむ。


 まあその地位を得るためにはコネだったりお金だったりが必要なんだけど、寄付が大きな収入源である神殿としてはそういう貴族子息達の受け入れを断ることも出来なくて、それなりの地位を与えてしまうのが現状なんだとか。で、そうやって地位を得た元貴族が後先考えずに今回みたいな莫迦なことを仕出かしたって話だった。


 真面目に神官として勤める人も多いから、そんなに神殿を悪くは思わないで欲しいと殿下は言う。大神官様もとても良い方ですよと。


 なんだか不安だけど、殿下がそこまで言うならね。


 少し不安を残しながらも、興味はあるので中に入ってみることにした。




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