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 とりあえず話をしてすっきりしたのか、エルンスト殿下はちょっとだけ元気になった。


 そして殿下は私に面白い話をしてくれた。


「実はですね、城内に不思議な鏡がありまして」


「不思議な鏡?」


「はい。一見何の変哲もない姿見なのですが、どうも違和感を感じて調べてみたのです。その結果、やはりなんらかの力が働いていている事は分かったのですが、そこから先がどうにも。ちょうどこちらの壁のように鏡の向こうに何かが隠されているのではと考えているのですが、力が強固で確かめられずにいるのです」


 ほお、姿見ねぇ。私が最初に思い浮かべたのは宝物庫のあの鏡だったけど、どうやらそれとは違うらしい。しかも発見したのは殿下本人だそうで、ここを見つけた事といいそういうのが得意なようだ。


「殿下でも破れなかったんですか?」


「ええ、これでも多少は自信があったのですがね」


 駄目でした、と自嘲気味に笑う。


「それに私は力に干渉できても構築することは出来ません。先ほどの壁はあなたの力なのでしょう? 自ら力を使うことが出来るあなたなら、あの鏡の向こうに行けるのではと思うのですがいかがでしょう」


 殿下は期待のこもった目をアルクに向けていた。成程、それでこの話を私達にした訳か。


 アルクの力はこの世界では特殊らしい。神力とは異なる性質を持つようで、アルクが使う術などはとても珍しがられれるし真似する事も難しいのだそうだ。


「どう思う?」


 アルクに聞いてみた。


「見てみなければ分からない」


 まあそうだよね。


 殿下がおっしゃるにはその鏡はとても古い物らしい。だけど城に仕える人達は鏡について何も知らないと言っているそうで、陛下にも確認したけど同様だそうだ。うーん、城内にあるのに誰も知らないとかそんな事あるのって感じだけど。


「今の所は危険はないと判断されているのですが、何の為の鏡なのか何が隠されているのかを陛下も気にされていらっしゃいます。現在も調査は続けていますし、もしご興味があればいつでもご案内しますのでお声をお掛け下さい」


 そう言って殿下は穏やかな笑顔で戻っていった。今度はもちろん扉から。


 それにしても鏡ねぇ……。



 ちょうど殿下が帰る時に入れ替わりでエミール君とマリーエさんが戻ってきた。二人は殿下が居た事にすごく驚いていて、何かあったのかと心配された。あとアルクは最初から最後までご機嫌斜めでむっすーとしていたね。美人が台無しだよ?


 私は先程の殿下の話をエミール君とマリーエさんに話して意見を聞いてみた。ああ、ちゃんと話す許可はもらっているよ。そうしたら二人とも興味を持ったようで「今度行ってみましょう」とかなり乗り気な様子だった。


 これも殿下の想定内なんだろうか。さっきは鏡を調査して欲しいとは言われなかったんだけど、みんなが興味を持つと分かっての事だったのかな、なんて。


 うーん、結局関わることになるんだろうか。お城にはあまり来ないようにしようと思ったばかりなんだけどなぁ。




 その後も夜会は続き、やがてだいぶ遅い時間になってヒナちゃんは解放された。やはり長時間の挨拶はかなりきつかったようで、ギルベルト殿下に連れられてやってきたヒナちゃんはとても疲れた様子だった。


「里香さーん、あたし頑張ったよー」


「うんうん、見てたよ、えらいえらい。よく頑張ったね」


 私はダンスがとても上手だった事や堂々と挨拶している様子が立派だったと褒めまくった。そうしたらヒナちゃんは「里香さんに褒められたー」と嬉しそうにするので可愛いなぁと思う。とりあえず良い子良い子と頭を撫でておいた。


 あとついでにちょっと聞いてみる。


「どうだった? 誰か気になる人とか居た?」


「えー、そんな人いませんよぉ。挨拶するだけで精一杯だったし、それにあんまり強そうな人いなかったし」


 はは、やっぱり基準は強い人なのね。


「あ、だけど変な人は居たかな」


「変な人?」


「うん。えーとね、シュライデンの人って言ってた」


 ああ、ヒナちゃんが最初に発見された場所だよね、シュライデン領。でもあそこは神殿にヒナちゃんを連れ去られたりとかでちゃんと保護出来なかった。おかげでヒナちゃんは精神不安定になったし、最後は厄介払いでもするようにヒナちゃんを城に送ってきたりとあんまり良い印象がない。そんな領の人が何かしたんだろうか。


「えっとね、なんか挨拶したらすごく驚かれて、あたしがこっちの言葉を話せることに信じられないって感じの顔してた。でね、どうして話せることを黙っていたんだって、騙されたとか言われた」


「ええ、なにそれ」


 ヒナちゃんが話せるようになったのは扉のおかげだし、あの時は話せなかったのは本当なのに。


「うん、そう言ったんだけどね、なんか納得いかないって怒ってた」


 私が顔をしかめていたら殿下がその時起こったことを説明してくれたんだけど、やっぱりそれはどうなのって感じの話だった。


「シュライデンは迷い人が現れた地ということでヒナに対しての優位性を認めろと言ってきた。あの時は神殿の横槍できちんと接する事が出来なかったのだからもう一度機会を与えろと主張していてな、あとヒナはシュライデンが保護した事に対して感謝するべきなんだそうだ」


「はあ? 保護なんかしてないじゃない。怖い思いをさせておいて何を言ってるんだか」


「まあその通りなんだがな、どうも領内では迷い人を手放したことに批判が高まっているらしい。それでどうにかしてシュライデンに取り返したいようなんだが、行き過ぎた発言が多かった」


 殿下もあきれているようだ。


「こちらから厳重に注意はしたが、今回ヒナが話せると分かって言いくるめようと接触してくる恐れもある。十分注意して欲しい」


 殿下が言うにはあきらめた様子はなかったらしい。最悪だね。


「ヒナちゃん、変な人に付いて行っちゃ駄目だよ?」


「えー、そんな事しませんよぉ」


 ヒナちゃんはそう言うけどなんだか心配だなぁ。



 とりあえず、ヒナちゃんは役目を果たし夜会も無事に終了した。今後はヒナちゃんが元の世界に帰ったとか誤魔化すそうなので、これ以上こんな風に引っ張り出されることはないと言われている。


 ただし、ヒナちゃんの姿が目撃されると帰ったというのも疑われるので、あまり目立った行動はしないようにと注意を受けた。少し不自由だけど仕方ない。お出掛けはしたいと思っているからちょっと変装したりしようかと相談中である。さっきのシュライデンの件もあるし警戒も必要かもしれないね。


 まあ何にしても、夜会お疲れ様でしたー。終わったー!




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