169
ついに夜会です。
王都に来てから色々あり過ぎて、やっとというかあっという間というか。
こちらに来た当初はこんなにがっつり王族に関わるとは思ってなかったけど、人生色んな事があるものだって思う。まあ異世界に来ている時点でありえないか。
そうそう、結局私は王都散策は出来ずに現在に至っている。こんなに王都に来てるのになんでだって感じだよね、お城に部屋まで用意してもらっているのに。ヒナちゃんの件がもちろん最優先だったけど、王都を見学するのも楽しみにしていたのになぁ……。
それもこれも殿下のせいだ。一緒に行くから勝手に行くなと私達を止めておいて、結局忙しいとか手配がとか言って今まで保留にされ続けている。
なのにダンジョンに行く時はちゃっかり付いてこようとするんだよ？
「予定を調整して時間を作った」
なんて言ってたけど、それなら出掛ける時間も作ってよって思う。
もういい加減待ちくたびれたし十分待った。なので夜会が終わったら殿下を置いて勝手に行ってしまおうと思っている。護身用の腕輪だってあるし、ちゃんとアルクやマリーエさんと行動するからいいでしょって言ったらみんながうーんって困った顔してた。むぅ。
ああそれで、私達は夜会の当日は朝からお城に呼ばれていた。
そう、例のごとく体の隅々まで磨かれて整えられての準備の為だ。別に私が動く訳ではないし、どちらかというとじっとしてる事が多いんだけど、普段あまりお洒落とか気にしない私としてはどうしても精神的に疲れてしまう。
なので多少は慣れたし綺麗にしてもらえるのは本当にありがたいんだけど、やっぱりちょっと逃げたくなってしまうのは相変わらずだった。まあ横でエレノアさんが見張ってるし無理なのは分かってるけどね。
さて、今回の主役はヒナちゃんだ。
「なんかすごい、やったことないけどエステみたい～」
そう言って喜んでるけど、私も日本でエステとか受けたことないよ。しかもこんな最高級フルコースなんて、こっちに来なかったら一生体験する機会は無かったと思う。
ああ、意識が飛ぶぅ……。
そして身を任せる事、半日――
仕上がりはそれはそれはもう完璧だった。
ヒナちゃんは何処から見てもお姫様みたいに可愛くて、くるりと回って見せてくれた柔らかな色合いのドレスは幾重にも重なった裾がふわりと広がりなんとも可憐だ。
「ヒナちゃん可愛い～！」
「ありがとう、里香さんもすごくきれ～！」
仕度が終わって初めて顔を合わせた途端、二人で手を取り合って何故かその場をくるくる回ってしまった。
お城の侍女さん達の技術はこの国の最高峰だ。本気でこの顔で会ったら誰も私だって分からないんじゃないかってくらい素敵な仕上がりで、思わずテンションが上がってしまう。いや平凡顔の私をここまでにするなんて本当に凄いよ。
ヒナちゃんの希望で撮影もしたよ。ご両親に見せるって言うし、そりゃもうヒナちゃんを撮りまくったよね。
そんな感じで私達がきゃっきゃっとはしゃいでいると、やはり仕度の整ったミランダ様やマルティナ様、ラビニア様がやってきた。
「まあまあまあ、なんて可愛らしいの～」
「本当に素敵ですわぁ」
マルティナ様とラビニア様はすごく褒めてくれて、横でミランダ様もニコニコ笑っている。そして三人はひたすら可愛い可愛いと言ってくれた。
いや侍女さん達の腕は確かだけど、そこまで手放しで言われるとちょっと。しかもヒナちゃんと一緒に可愛いとか言われるのは何て言うか……うん、急に冷静になれた気がする。
この国の高貴な女性三人はいつにも増してゴージャスな装いだった。衣装もだけど、お化粧も普段より華やかだし、とにかく皆さん神々しい程にお美しい。国のトップにいるような方々はやっぱりオーラが違うなって思う。ほんと、なんでこんな人達と一緒に居るんだろうねぇ、私。
私達は夜会が始まるまで軽食を食べたりお茶を飲んだりして過ごした。
どこから聞いたのか、マルティナ様からは「ギルベルトを泣かしたんですって？」などとからかわれたり、楽しくおしゃべりしていたらあっという間に夜会の開始時間になった。
「ええっ、リカ様は一緒ではないの？」
「ああはい、目立ちたくないのでこっそり入ります」
王族方は招待客の入場が終わった後、最後に会場に入る。今回主役のヒナちゃんはギルベルト殿下がエスコートするそうで、次男のエルンスト殿下は婚約者がいないので叔母のマルティナ様が相手役を務めるとの事だった。実はその時に私も一緒にって言われてたんだよね。もちろんお断りしましたとも。
あとパーティー中も皆さんと同じ場所に席を用意すると言われたけれど、これも断った。目立ちたくないって言ってるのに本当に伝わらないなぁって思う。それで代わりに少し離れた場所に席を確保してもらっている。
私の参加はヒナちゃんの希望だけど、ずっと一緒にいなくても大丈夫だとは言われている。「迷惑かけてごめんなさい」とヒナちゃんからは謝られているし、ご両親にも頼まれているので保護者の立場で出席するつもりだ。まあ同じ会場にいるだけで心強いそうなので離れた場所からヒナちゃんを見守ろうと思う。
「じゃあまた後でね」
私がヒナちゃん達と別れる時になってアルクが姿を現した。アルクはね、ミランダ様やマルティナ様と居る時はほぼ出てこないんだよ。
「苦手なの？」
「別に……」
聞いたら目を逸らされたのでやっぱり苦手なんじゃないかなと思う。ふむ。
その後はマリーエさんやエミール君とも合流した。
二人共夜会仕様で素敵に着飾っている。本当はマリーエさんも一緒に仕度しようって誘ったんだけど「とんでもない」と断られてしまった。
こちらに居ると遠慮されることが多いし一緒に居られない事が多くてちょっと寂しいなって思う。でもそれを言うと困らせてしまうのであまり言えないんだけど、やっぱりお城に来るのは最低限にしようって改めて思った。
私達は静かに会場入りをした。
足を踏み入れたホールには既に多くの人でにぎわっている。色とりどりのドレスや煌びやかな装飾。そこには私とは縁のない華やかな世界が広がっていた。
さすが王家主催だけあって規模も豪華さも桁違いだ。私は物珍しさから色々見学してまわったけど、やがて陛下達が入場してきて参加者が一斉に礼をとった。事前に聞いていたので私も同じようにする。
さあついに夜会の開始だ。
何か楽しいこと、あるかなー？
