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二十二階層は無事にクリアした。
大乱闘の後にさらに強敵が出るなんて事もなかったし、罠もなかった。なので次の階層に進むことになったんだけど、これでもう落ちなくていいかと思うとすごく嬉しい。
だけどね、最後に何かドロップでもあるかな~と期待していたんだけど、何もなかったのにはちょっとがっかりだった。
先に「蘇生薬」なんてとんでもない物は手に入ったけど、使うことなんて滅多に無さそうだし出来れば使用するような状況自体を避けたい。つまりなんとも微妙なアイテムな訳で、価値があるのは分かるけど私としてはちょっとねぇって感じなのだ。
「陛下に献上しますか?」
そんなことも聞かれてちょっと悩んだけど、何があるか分からないので結局手元に残すことにした。もちろん必要だったら渡すつもりはあるよ。
ああ、でもポーションみたいに実験してみるのもいいかもしれない。そうしたらなにか面白い効果になるかもしれないし。うん、そう考えると少し楽しみになってきた。これ一本しかないからみんなに止められるかもしれないけど、少しなら大丈夫だろう……たぶん。
そうそう、ヒナちゃんが写真を撮ろうというので新しい武器を片手にみんなで記念撮影もしたよ。以前ダンジョンで撮って飾っておいた写真を見て「私も撮りたい!」って言っていたんだよね。
だけどね、それはいいんだけどやっぱりもう少し景色のいい場所にしようよって思う。よく見ると背後に色々写り込んでるし……まあみんなすごくいい笑顔だったからこれでいいのかなぁ……。
◇
さて、やっとダンジョンがひと段落したと思ったら、またお城に呼び出されてしまった。
今回は何だろうって思ったら、なんと「ダンスレッスン」だって。
いやいやいや、必要なくない?
そう言ったんだけど何故か強制参加させられた。ひどい。
「違いますっ! そこのステップはこうです」
レッスンはもちろん悲惨なものになった。
自慢じゃないけど運動神経なんてないし、ステップなんてニ、三やったら最初の動きなんて忘れる。先生が付きっきりで教えてくれるんだけど、覚えは悪いし体は動かないしで怒られっぱなしだった。先生はそんな私を見てかなり呆れた顔をしていたんだけど、いやそんな目で見られてもね。そもそも私、ダンスなんてやりたくないんですけど……。
それにこういうのって、じっくり練習して徐々に体に覚えさせていくとかだと思うんだよね。ほら、練習に付き合ってくれてるマリーエさんやエミール君はすごく優雅に踊ってるし、きっと小さい頃から習っていたんだろうなって思う。なのにこの短期間で覚えろなんてことがまず無理なんだよ。
だけど先生は言う。
「淑女の嗜みです。そんなことでは結婚相手も見つかりませんよ」
そしてものすごく可哀想な子を見る目で見られてしまった。
「……えーと……」
いや、私の人生でダンスを必要としたことなんてないし、結婚できないのはダンスのせいではないです。しかも淑女って誰さ。
先生の言葉にマリーエさん達がすごく慌てていた。いや別に悪気があって言ってる訳ではないのは分かってるから大丈夫だよ。むかつかないかと言われたらむかつくけど、こちらの世界の貴族としては踊れないとかありえないんだろうし。
だけど残念、私は貴族でもないし、そんな常識も関係ないんだよねぇ。なので早々にレッスンをギブアップすることにした。
別にこっそり逃げ出したわけじゃないよ。エレノアさんにいつものように仕度されて連れてこられたけど、そもそも誰が私にダンスの練習なんて無謀な事をさせようとしたのかをきっちり聞き出し、先生には迷惑が掛からないように対処した。
元凶はすぐに判明した。
ギルベルト殿下だ。
どうも夜会で私と踊るつもりだったらしいんだけど、私が踊れないだろうと聞いて急いで手配したとかなんとか。あの末っ子王子め、めちゃくちゃ迷惑なんだけど。
いやね、本当に必要とかなら練習するよ。でもそうじゃない状態でしかも私の意志を無視してはちょっとないよね。
「私は夜会で踊るつもりはありませんし、これ以上レッスンを受けるつもりもありません。もしまだ強要するならもう城には来ません。あと二度とダンジョンにも連れて行かない」
そう伝言を頼んだら文字通り殿下がすっ飛んできた。
「リカ、すまないっ! 別に強要するつもりはなかった。リカの国ではダンスが一般的でないと聞いて夜会で楽しめるようにと思っただけなんだ、決して不快にさせるつもりはなかったっ!!」
そして殿下はひたすら謝ってきた。
「だからダンジョン、ダンジョンだけは……!!」
しかも涙目で訴えられたんだけど、いやそこ?
勢いで付け加えた「ダンジョンに連れて行かない」の脅しは私が思った以上に効果があったらしい。そんなにダンジョン大事なのってちょっとあきれるよね。
殿下の必死さと低姿勢で謝罪する様子に、先生はじめ周りにいた人達がびっくり、というか引いていた。しかも「この人何者?」的な視線がビシバシ私に刺さるし。ああ、私の事は城内ではただの客人ってことになっている。だってメンドクサイの嫌だし?
マリーエさんに「リカ様の事を秘密にしている方が面倒なのでは?」って言われたけど、お城にそんなに滞在するつもりもないし顔が割れるのも嫌なのでそのままにしている。それにほら、その方が色んな話も聞けて楽しいからね。
とにかくこれ以上は目立ちたくないので殿下には落ち着いてもらったけど、本当に勘弁してって思う。なので「これからは先に私の意見を聞いてからにして欲しい」と念押ししたら、殿下はブンブン首を縦に振っていた。本当に分かってるのかな、もう。
それでね、私のダンスレッスンはこれで終わりだったんだけど、今度は週末にヒナちゃんがレッスンを受けたんだよ。なんでも夜会の最初に迷い人が踊る予定があるらしくて必要ってことだったんだけど……。
もちろん本人にはちゃんと了承をもらってからのレッスンだったけど、ヒナちゃんは結構簡単にオッケーした。
「あたしダンス得意なんです!」
しかもそんな事を言っていたんだよね。だけどたぶんヒナちゃんの言うダンスとは種類が違うんじゃないかな~と思って私は心配で付いていった。
そうしたらだ。なんと彼女の言葉通り、レッスンを少し受けただけでかなりちゃんと踊れるようになったんだよ。いやもう本当に驚いた。先生もすごく褒めていたし、ヒナちゃん凄いなぁって思う。
いや別に悔しくなんかないよ。だってほら、基礎とか違うだろうしね、うん、全然……。
私が複雑な心境でうじうじしていたらアルクが甘やかしてくれた。うう、悔しくなんてないもん。




