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落ちました。
そして今も落下中です。
どんだけ深いのさ、ここ。
塔の最上階で宝箱を開けたらね、床が消えた。
訳が分からない。
確かに今まで新しい階層に繋がる階段は常に下向きだった。なのでこの階層で上に向かうことに少し疑問を持っていたんだけど、これは想定外だ。まさか落とされるとは思わなかったし、色んな仕掛けがあるものだと思う。
とにかく私達は逃げる間もなく全員で落下し、最初はパニックだったけどしばらくしたら落ち着きを取り戻した。それというのも落下速度が妙にゆっくりで落下時間がとても長かったのだ。しかも頭が下じゃなくて全員が上に居た時と同じ位置、態勢でそのまま落ちているような状態だった。
とりあえずここは地球の物理法則は当てはまらないのは分かったけど、私達はどうすることも出来ないので現状確認を始めた。
「罠だったんでしょうか」
「可能性はありそうですね」
「もしかして一番下までいったら最初からってことでしょうかねぇ」
「何、最初からってどこからだ?」
そうか、次にいけるとは限らないのか。確かにそういうこともあり得そうだと思う。ただ私達は塔の前の分岐で扉を登録したからその心配ない。私も最初からは嫌だ。
しかし落ちながら会話するってすごく変な感じがする。あまりにもゆっくり落ちるし長いしで私達はこの状況に慣れてしまったけど、あの最初のふわって体が宙に投げ出された感覚は本当にすごく怖かった。この仕掛けを考えた人は絶対に性格が悪いと思う。
ヒナちゃんに大丈夫か聞いたら「ダンジョンって面白い所ですねー」だそうで、とても楽しそうだった。怖がってないなら良かったけど、なかなか肝が据わってるなと感心してしまう。今時女子高生は強いなぁ。
「そういえば宝箱はカラだったの?」
気になったことを聞いてみた。
「はい、中には何もありませんでした」
落ちた時点で宝箱は消失していた。中身があったら一緒に落下してたのかな。
「ハズレってことですかねぇ」
「うーん、どうだろう」
まあ蓋を開けたのがスイッチだったことは間違いなさそうだ。
「何にしても、下に着かなきゃどうにもならんな」
ですねー。
そうしてそれからも落ちること……どれくらいだろう。とにかくかなり長い時間、私達は落下し続けた。これはもう次の階層まで行ってしまってるんではないかと思うくらいに。
「お、なんか見えるぞ」
なんとなく下の方が明るい。落ちてるこの空間も暗くはないけど、下の方がより明るかった。どうやら終着点は近いようだ。
落下速度からも地面に叩きつけられる心配はなさそうで、私達は衝撃も少なく無事着地した。
さて、ここは何処だろう?
着いた場所は広い空間。見回すと天井には私達が落ちてきた穴があるけど、それ以外は扉も何もない壁がぐるりと四方を囲んでいた。これは……。
「なんだこりゃ、進めねえぞ」
騎士団長がそう言った途端、地面が揺れた。
「うぉっ」
「きゃぁっ」
突然地面が持ち上がり、私達の前方の地中から何かが飛び出した。
カキンッ、カキンッ
いきなりだったけどちゃんと杖が反応して防御膜が張られた。
どうやら地中から攻撃されたらしい。
持ち上がった地面に巻き上げられた砂で視界が悪いが、何かがいる。
みんなは即座に臨戦態勢をとった。
徐々に視界が晴れていく。そしてのっそりと地中から這い出てきたのは……
「モグラ……?」
それは巨大な白いモグラ、のような魔物。
鋭い爪と巨大な体躯のその魔物は一声高音で鳴くと、体に似合わぬ素早さで攻撃してきた。何か針のような物を飛ばしながら爪を振り上げ襲ってくる。そして同時に地中からは別の、やはりモグラ型の魔物が二体飛び出してきた。二体は最初の白モグラよりは小さくて体は黒い。
とりあえず三体の攻撃は防御したけれど、これではこちらから攻撃が出来ない。なのでみんなに合図して一旦防御を解くことにした。
「解くよ!」
「「「はいっ」」」
「おうっ」
そこからはかなり激しい戦いだった。モグラが強い。そして飛んでくる針がなかなか厄介だ。
巨大白モグラは騎士団長と対峙、小モグラは他のみんなが受け待つことになったようで、それぞれ戦闘が続く。
騎士団長は「そう、こういうのがいい!」と笑顔で魔物に切り込んでいき、みんなも何故か薄笑いで戦っているのが私は怖かった。アドレナリン出過ぎではって思うんだけど……ああ、ヒナちゃんまで……。
飛んでくる針を避けつつ、切る、撃つ、射る。それぞれが絶妙のタイミングで攻撃を仕掛け確実にダメージを与えていく。
そうしてしばらく戦っている内に魔物は押され始め、まず白モグラが騎士団長の炎の剣にばっさりと縦切りにされ、間を置かずに小モグラも倒れて決着した。
いやしかし、久々に強かった。騎士団長がいてくれて良かったと思う。邪険にしてごめんね、と心の中で謝っておいた。
あと倒したものの、エミール君とロイさんが針で負傷していたし、騎士団長にいたっては避けなかったのか結構な数の針がまだ体に刺さっていた。それ見てるだけですごく痛いんですが……。
すぐにポーションで回復してもらったけど、戦闘後にポーションを使うなんて滅多にない事だった。みんなが怪我をするなんてことも今までなかったし、この先もっと敵が強くなるかと思うと少し心配になってくる。
「このぐらい大したことないですよ」
それなのにロイさんは笑ってるし、エミール君も平気だって言う。
「そうですよ、それにポーションがありますし」
あ、そういうのは駄目だと思うよ。
「ポーション使えるからって怪我していいとかは思わないように!」
戦いなんて私は素人だけど、しなくていい怪我なんてして欲しくないし、それでうっかり死んじゃったらどうするのさって思う。
そう怒ったら「ごめんなんさい」ってエミール君に謝られた。うん、心配してるんだからね?
そこ、横で笑ってる騎士団長もだよ!
さて、敵を倒したのはいいけど、ここから出るにはどうしたらいいんだろう。そう思って見回すと、突然、何もなかった壁に扉が現れた。
どうやら魔物を倒すと進めるシステムらしい。もうこれくらいじゃ驚かないぞってちょっと思う。
進むしかないので扉を開けるとそこは円形のホールだった。周囲には同じような扉が並んでいる。そして一か所、扉がない入り口があった。
覗いてみると下に向かう階段がある。そう、そして数字も。
「つまり二十二階層終了?」
「ですねぇ」
うーん、なんか今までにないパターンだったなと思う。それにしてもさっきの並んでいた扉、あれはやはり他の塔と繋がっていたりするんだろうか。私達が出てきた扉以外は開かなかったので確かめようがないし、塔の位置とか考えるとありえないけど、なんとなくそんな気はする。
「他の塔にも宝箱があるんでしょうか?」
とロイさん。
「もしかしたらアタリがあるかも!」
手を上げて元気よく発言するヒナちゃん。なるほど、落ちてる時に話してたハズレの宝箱からの発想かな。うーんしかし。
「アタリ、あるかなぁ」
あったとしてだよ、塔はあといくつあったか。あれを全部確認するのはちょっと大変そうに思うけど……。
「どう思う? 他を確認するなら扉は記憶させてあるから戻れるけど、このまま次に進む?」
「俺はさっきみたいなヤツと戦えるなら戻ってもいいぞ」
騎士団長はそう言うけど、そうか、アタリがあるかだけじゃなくて魔物もいる可能性があるんだよね。いやむしろそっちの可能性の方が高そうだ。
「うーん、宝箱は確かに気になりますねぇ」
「私は鍛錬の為にもう少し戦いたいです」
「同じく」
「同じくー」
あれ、なんか戦闘狂が増えてる……。




