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「わーすごい、なんか外国っぽい」


 ヒナちゃんがガイルの町を見てはしゃいでる。



 今日は朝からヒナちゃんのお父さんが車で彼女を送って家まできてくれた。家が山の中だから、ここまで来る交通手段は非常に限られる。車かあとはバスになるんだけど、市営のバスはだいぶ前に廃線になり、今はコミュニティバスが何本か走っているだけだ。だからヒナちゃんが一人でここまで来るのはなかなか難しいんだよね。


 なので急遽決まった今回のお泊り会も最初は私が迎えに行く予定だった。だけどそれでは申し訳ないってヒナちゃんのお父さんが送ってきてくれたのだ。私としてはとてもありがたかった。



 今日はまずガイルの町を見て周るつもりだ。前回異世界にすごく興味を持っていたから「お父さんもどうですか」って誘ったんだけど、どうしても外せない用事で無理なのだそうだ。ものすごく残念そうにしていて「今度ぜひお願いします」って何度も言われ、「娘をお願いします」と菓子折りまでいただいてしまった。あとでお茶の時いただこうと思う。


 さて、私とアルクとマリーエさん、そしてヒナちゃんの四人でまず市場にやって来た。やっぱりいつ来ても活気があるし見応えがある。ヒナちゃんがあれはこれはとあちこち走り回ってるのを見ていると、私が最初にここを訪れた時の事を思い出してついしみじみしてしまう。


「里香さんこれ見て!」


 ヒナちゃんの無邪気な様子にマリーエさんも笑っていた。さて、私も久しぶりに買い物でもしようかな。アルク行くよー。



 市場をぐるっと歩き、お昼はウージを食べた。これもこちらに来て初めて食べた思い出の味だ。


「わあ、本当にウナギだ。すごく美味しい!」


 だよねー、ヒナちゃんも気に入ってくれたようで嬉しい。


 ヒナちゃんは「こっちに来た時はずっと部屋の中ばかりだったし、こうやって町を見れてすごく嬉しい」そう言って喜んでいた。監禁同然の生活とか逃亡とか、お城でも外出は駄目だったからね。せっかくの異世界なんだし、これからはいっぱい色んな所に行こうねって思う。



 その後も町の事やこちらでの生活を説明したり、景色を楽しんだり、食べ歩きや買い物をしたり。たっぷり観光をしてガイルを満喫した。


 ヒナちゃんは見る物すべてに歓声をあげるし、私もまだまだ初めて見る物や場所があってとても楽しかった。その中でも、今日一番見応えがあって素晴らしかったのは「ラダ」だと思う。


 町のあちこちで見られるラダという木があるんだけど、その花がちょうどこの時季に満開を迎えるそうで、名所だという場所では道の両側に植えられたラダの木に青い花がこれでもかと咲き誇っていた。



 私達はラダの枝が道の中央に伸び、それがアーチとなって出来た大きなトンネルの中を歩いていった。



 視界一面に広がる青。


 陽の光を受け、花が光輝いている。



「きれい……」



 光を反射しながらハラハラと花びらが舞う様子はそれはそれはもう幻想的で圧巻で。


 立ち尽くして見入ってしまうほどに美しい光景が目の前に広がっていた。




 思わずため息が漏れる。


 ああ、凄い


 こんな素敵な景色を見られるなんて……





 その時、アルクがぽつりと呟いた。


「……昔、ジローと共に同じ景色を見た」



 その横顔はとても懐かしく何かを思い出しているような優しい顔で……


 アルクは時々こういう顔をする。



 以前、自分の事を話したがらないアルクが自分もこの世界に迷い込んだんだと話してくれたことがあった。気が付いたらここに居たって。でも帰る方法が分からないとも言っていた。


 最初に聞いた時はすごく驚いた。だってそれってすごく大変な事だよね。だけどアルクは「別に平気だ。もう慣れた」って。そんなはずないだろうに。


 だってアルクはすごく寂しがり屋だ。


 いつもはちょっと偉そうだしメンドクサイこともあるけど、たまにすごく不安そうにする時がある。そういう時は決まって私がどこかへ行くのを嫌がるし側を離れなくなる。アルクが心配性なのは知っていたけど、どうしたんだろうっていつも不思議に思っていた。


 この話を聞いて、アルクを不安にする要因にやっと思い当たった。まわりに同族はいないし帰れもしない。そんな孤独な環境の中で不安にならない訳がない。しかも仲良くなった人間は寿命も全然違う。アルクは一体どれくらい別れを経験してきたんだろう、孤独に生きてきたんだろうって、そんなことにやっと気付いたのだ。


 自分だけ残されるってどれだけ辛いことだろう。それなのにちゃんと思い出を大切にして笑ってるんだよ。アルクはすごく強いと思う。


 それにね、そんな事に気付いてしまうと、おじいちゃんの事を思ってるアルクを見て悲しいなんて思う自分がとても恥ずかしくなった。


 それで思ったんだよ、私もアルクとの思い出を増やしていこうって。


 私は人間だから一緒に居られる時間なんてアルクにとってはきっと短いものだろうけど、それでもアルクが少しでも寂しくないように、楽しい時間をたくさん過ごせたらいいなと思う。


 アルクに会えて、沢山の人に出会えて、他では出来ない体験をして。なんかね、最近は楽しいことが多すぎて、一人が寂しいって事を私もすっかり忘れてしまっていた。アルクにもそうであって欲しい。


 みんなでご飯を食べたり騒いだり、アルクにお菓子を作ってもらったり、素敵な景色を眺めたり、たまにダンジョンに行って冒険したり、面白アイテムを見つけたり、ポーションで実験したり。みんなで賑やかに過ごすこの幸せがずっと続くといいなと思うよ。


 それにね、アルクの事を考えたら私が一人でウジウジしてるのがちょっと自分でもバカらしく思えてきた。私一人が不安がったり落ち込んだりしてもどうしようもないって今更だけど気が付いたっていうか。


 アルクへの思いが消えた訳じゃないよ。


 アルクが特別で大切で大好きだって思う気持ちは変わらない。


 だけどなんていうか、今のこの時間を大切にしたいって思うのだ。


 まあ、まだ後ろ向きで、すぐに「私なんか」って思ってしまう性格はなかなか治らないし、勇気がないって言われればその通りなんだけど。


 それでもね、人との関わりを嫌じゃないって思えるようになって、閉じこもっていた後ろ向きで自信のない私が少しずつだけど変わっていくのを感じている。それもきっとアルクが居るから、私の事をちゃんと見てくれる人がいるからだって思う。だから……




「里香さーん、こっちー!」


 ヒナちゃんとマリーエさんが先の方で手を振っている。


「リカ」


 アルクが笑顔で手を差し出してきた。


 私もアルクに手を伸ばす。





 いつも側に居てくれるアルク。


 いつだって頼るばかりで申し訳なく思うけど


 アルクが寂しくないように、私も側に居るから



 だからいつか、もうちょっとだけ自分に自信が持てたなら



 その時は……











 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。こんな話が書きたいな、というだけで書き出したお話でした。拙い文章で読みにくいところも多かったと思います。とてもお恥ずかしいです。

 書いていくうちに話がどんどん長くなってしまったので、いったんここで区切ることにしました。中途半端ですみません。続きは書いているのですが、投稿については未定です。ある程度目処が立ったらと考えています。


 読んで頂いた方には感謝しかありません。この場で深くお礼申し上げます。ありがとうございました。

 それでは、また。



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