表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/215

153



 捕まったのは一人のメイドだった。


 紹介書もしっかりとある身元のはっきりした人物であり、捕まえた側が困惑したくらいにごく普通の女だった。


 メイドの方も最初の内は何かの間違いだと哀れを誘う顔で無実を訴えていたが、証拠があり逃げきれないと知ると開き直った様子を見せ、そして何も話さないと黙り込んでしまった。


 まあもちろんそれで済むはずはない。色々と方法はあるんだろうけど、今回は例の栄養ドリンクとポーションを混ぜた自白剤を飲んでもらうことにした。いやだって、なかなか試せるものじゃないし……どうなるのか興味あるよね?


 ただこちらに持ち出すとなるとちょっと気を付けないといけない。手を離すと栄養ドリンクだけ分離して家に戻ってしまうという厄介な性質だ。なので相手の口元まで自白剤を持っていって飲ませなきゃいけなかったんだけど……これには犯人がびびったらしい。


 自分が使っていたのが薬物なだけに、何を飲ませるつもりだとかなり暴れたらしいよ。とにかく数人で押さえつけて無理やり飲ませたそうだけど、確かに状況を考えると怖いよねぇ。あ、ちなみにポーションが入ってるので副作用とかは心配ないらしい。


 私は立ち合いを許してもらえなかったけど、代わりにロイさんが行ってくれた。薬を飲ませたのも彼なんだけど、効果はばっちりでそれはそれはするすると、必要のないことまでいっぱい話してくれたらしいです。うん、ちょっと強力過ぎたかもしれないね。次は気を付けよう。




 彼女の名前はモリー。


 紹介書では中央領の出身とあったけど、本当は東北のリンデールの生まれらしい。


 紹介者は中央領の由緒ある家柄、上級貴族のレスタリック家。推薦者としてはこれ以上ない程に上等な家だそうだ。モリーの証言によると、このレスタリック家の前当主の長女、ルシアンの命令で城にやってきたとの事だった。




     ◇




 生まれはリンデールの東の小さな町だよ。


 両親の顔は知らない。物心付いた時には婆ちゃんと一緒に暮らしてた。


 婆ちゃんはね、町で唯一の薬屋だった。だから町の人からも大事にされてたし、あたしも手伝いとかしてそこそこ薬の知識とか身に着けてた。


 だけど婆ちゃんもいい歳だったから、ある日ぽっくり死んじゃった。あたしは一人になったけど、店があったからね、引き継いでそれなりにやっていけてた。


 なのにさ……。


 突然、町に新しい薬屋が出来たんだよ。あたしの店なんかとは比べ物にならないくらい立派でちゃんとした店。もうあっという間に客は取られて、あたしのボロい店には誰も来なくなった。みんな酷いよね、あれだけ世話になっておいてなんなのさ一体。


 あたしは店に見切りを付けて出て行くことにした。だって薬は売れないし、この町にある仕事なんてろくなものないし、だったらこんな所こっちから出て行ってやるって思ったんだよ。


 町を出るなんて初めてだったから本当はすごく不安だった。だけど半分期待もしてた。あたしはそんなに莫迦でもないし器用だし、薬の知識だってある。大きな町に行けば仕事だっていっぱいあるだろうし、やっていけるって自信もあったんだ。


 だけど世の中、そんなに上手くいかないってしみじみ思ったよね。


 たどり着いた大きな町で仕事を探したけどなかなか見つからなかった。紹介がないからって話も聞いてくれないんだ。みんな冷たいよね。まあそれでも少しはいいやつもいて、仕事探しを手伝ってくれたりもした。ほとんどが酒場の給仕とか下働きの紹介ばかりだったけど、お金もなかったからあたしは我慢して働くことにした。


 あたしが働いた店はすごく柄の悪い客が多かった。給金が他より少しだけいいから選んだけど、店主も人使いが荒くてすぐ怒鳴るし、ほんと最悪な職場だったよ。


 でもね、我慢して働いてたら、しばらくして薬屋の求人があるっていう噂を聞いたんだ。だからあたしは急いでその店に行った。最初はやっぱり断られたけど、前に薬屋で働いてたって言ったら面接してくれることになったんだ。


 だけどその面接が最悪だった。知識がどれくらいあるか知りたいって言われて、前に作ってた薬の話とかしたんだけど、そんな薬ここでは扱ってないし売れないって呆れた顔されたんだよ。酷いよね?


 なんかね、そいつが言うにはあたしの知識は古臭くて使い物にならないんだって。あんたみたいなのだったら新人と同じだし教えてる暇なんてない、うちは即戦力が欲しいから雇えないって追い出された。


 あたしは自分の薬の知識が役に立たないって知ってすごくショックだった。だって婆ちゃんはこれを覚えておけば食いっぱぐれないって言ってたのに……。


 結局あたしは酒場で働き続けた。だってお金が無いし、行く所も無いし……。


 でもそのうちね、あたしにも恋人が出来た。金遣い荒いし暴力振るうし酷いやつだったけど、機嫌がいい時は優しかったしご飯を食べに連れて行ってくれた。


 あいつはいっつも「金がない」ってぼやいてた。あたしだってお金なんてなかったけど、あいつに頼まれたら断れずに渡してた。それにお金を渡すと「お前は本当にいいやつだな」ってすごく優しくしてくれたから、あたしは一生懸命働いてお金を稼いだ。


 だけどあいつは突然姿を消したんだ。それになんか借金があるとかで、あたしの所に何人も怖い人が来た。しかもあたしにあいつの借金を返せって言うんだよ。何のことか分からなかったし怖かった。だからあたしはとにかく逃げ出した。あいつらが追いかけてくるかもしれないと思って遠くに逃げたんだ。


 働きながらいくつも町を転々として、やっと辿り着いたのが中央領ってとこだった。みんなが言ってたんだ。ここはどこの領よりも大きいし人もいっぱいいるって。だからここなら、きっとあたしも見つからないだろうって思った。


 それなのに、なんか領に入るのにすごく時間が掛ったしお金まで取られた。ここに来るまでに働いて貯めたお金を全部持っていかれちゃってどうしようかと思ったし、こんなんで大丈夫かなって最初はすごく不安だった。でもね、そこは今までいたどこよりも仕事があったんだ。


 あたしは選り好みせずに働いた。真っ当な仕事は少なかったけど、報酬はまあまあ良かったし意外に向いていたのか段々稼げるようになった。なんとね、あたしの古臭いって言われた薬の知識が役に立つことがあって、あたしは重宝されたんだよ。凄いでしょ?


 でね、結構いい感じで仕事してたら、ある時あたしに声が掛ってすごく報酬のいい仕事があるって言われたんだよ。


 そんな美味しい仕事なんてあるはずないと思ったし警戒はしたんだけどね、どうしてもって言うから話だけ聞くことにした。そうしたらなんか王都ってところの大きな貴族の屋敷に連れて行かれて、そこで会ったのがルシアナ様だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ