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 とりあえず王妃様の部屋を調べる為、部屋の主にはしばらく別の場所に移ってもらうことにした。


 それで取ったのがあの方法だったんだけど……いや私も移動してもらうのは考えたよ。でも眠らせて拉致とか考えたのは私じゃないからね、ロイさんだから。


 ああ、そういえば殿下は「どうして私が駄目であいつはいいんだ!」って怒っていたけど、身内の範囲って難しいよね。まあ内部事情に詳しい人は必要だったからってことで納得してもらおう。


 あとちゃんと陛下には説明して許可を取った。さすがに王妃様を連れ出すのに事前に言っておかないと怖いし、捕まりたくない。あとは何が見つかるか分からないっていうのもあった。


 そんな訳で無事に王妃様を移動させ、その間は城でマリーエさんに王妃様の恰好で身代わりをしてもらった。これは不在がばれたら煩い人達がいるらしいのでその対策だ。背格好は近かったし、ベールを着ければそうそうバレないとエレノアさんからはお墨付きをもらえた。ただし、動かなければ、だけど。


 さらにエレノアさんに手伝ってもらいマリーエさんにはなるべくいつも通りの王妃様の生活を再現してもらった。行動をトレースすることで習慣とか何かおかしな動きがないか、また出入りする侍女やメイドの動きを確認しようという考えだ。王妃様が完全にシロじゃないって所が悩ましい。


 マリーエさんは王妃様の運動量が少なすぎると嘆いていた。ほぼ一日自室で過ごすだけとか、普段体を動かしている彼女にはかなりキツかったようだ。ついでに立ち居振る舞いについてエレノアさんから指導が入るらしく、こちらも大変だと珍しく弱気な発言をしていた。うん、エレノアさんが厳しいのは知ってる。頑張れ~。



 エミール君には部屋の物を端から鑑定してもらった。あとマリーエさんがあまり動き回れないので侍女やメイドの動きも観察してもらったんだけど、最初はやはり渋っていた。陛下公認ということで納得してもらったけどね。


 ただ王妃様の部屋に男性が入るのを見られるのはまずいので例の透明薬を使用してもらっている。いやー便利だよね。薬で気配までは消せないそうだけどその辺は上手く動いてもらうしかない。


 あと腕輪なんだけど、壊れてしまったせいか鑑定してもらっても性能を確認することが出来なかった。これは失敗したと思う。何に反応したのかの手掛かりを逃してしまった。



 そしてロイさん。彼には王妃様の周辺で起こったあれこれや人物関係などを調べてもらっている。彼女が変わってしまった原因や理由が何も分からないので、まずは手当たり次第探ってみるしかないよねって感じだ。


 ロイさんにも透明薬をあげたんだけど、めちゃくちゃ喜んで使っていた。色んな場所に侵入出来るって言ってたけど、あまり変なことには使わないでよねって少し心配になる。悪用しちゃ駄目だよー?




 ――初日夜


 昼間はみんな調査や役割があるので、集まって話し合いをするのは夜になってからだ。調査結果を持ち寄ってみんなで考えるんだけど……。


「うーん、結果は不審物なし、か」


「ええ、部屋中のあらゆる物を調べましたが何も出ませんでした」


 エミール君が鑑定結果を報告してくれた。


「焚かれていた香も怪しいところはありません。紅茶は王妃様が好んで飲まれているもので、商会が独自に配合しているものだそうです。こちらも鑑定しましたがおかしな物は入っていませんでした」


 うーん、一番怪しいと思ってたんだけどなぁ。あとはカップに毒が入っていたとかだけど、その場限りだしもう証拠は残っていないよねぇ。


「メイドや侍女にも、今の所怪しい動きはありません」


 ふむ。


「ああ、そう言えば半年ほど前に王妃様付きの侍女を大幅に減らしたことがあったそうですよ」


 ロイさんが思い出したように言う。


「え、理由は?」


「必要がないからと王妃様自らの指示だそうです。実際に引きこもっていてあまり侍女の仕事もなかったようですしね」


「それは侍女さん達にとってはやりがいがないというか……。でもお仕事がなくなるのは困るよね」


「まあそうですね。ただ、ほとんどが配置換えになったようで、辞めさせられたということはないみたいです」


 なるほど。


「今残っているのは古参の者がほとんどですね」


 信頼できる人を残したって事かな。


 しかし、うーん。初日ですぐに解決するとは思ってないけど、これは何も見つからないまま終わる可能性もありそうだ。手掛かりの無さにそんな事を思いながらも調査を続け、あっという間に二日が過ぎた。


 そして、このまま何事もなく調査は終了かと思われた三日目の朝のことだった。



 事態が動いた。


 なんとマリーエさんが体調不良を訴えたのだ。


「少しだけ体が怠く感じます」


 運動不足でとかそういう事ではなく、体が重く感じるそうだ。


「昨日は何ともなかったの?」


「はい……いいえ、よく分かりません。しっかり寝て、朝起きた時に少しだけ疲れのようなものを感じはしましたが慣れない生活によるものだとしか思いませんでした。ただ、今は確かに怠さを感じます」


 規則正しく、常に健康管理に気を使っているマリーエさんだからこそ、わずかな体の違和感に気が付いたのかもしれない。生活には支障のないくらいの少しの怠さで、普段だったらこれくらいは気にしなかったかもしれないと本人は言っていた。


 ちなみにずっと一緒に居たエレノアさんには異常はないそうだ。だとしたらマリーエさんの体調不良の原因はなんだろう。


 マリーエさんはさすがに王妃様の寝室は使えないと、夜は城に用意された自室で休んでいる。なので休む前までに取った行動に何かしら原因があるはずなんだけど……。



 マリーエさんはお城の医者に診てもらったけれど、症状を聞かれて安静にするように言われ、もし悪化するようなら薬を出すと言われて終わりだった。こんなものなのって思ったけど、怠いって言っただけじゃねと思い直した。日本でだってよっぽど体調が悪いとなったら血液検査とかありそうだけど、そうでなければ同じようなものだと思う。そもそも受診すらしないかもしれないし。


 こちらの医療事情なんだけど、症状を診てもらい薬を処方してもらうのが一般的だそうだ。まあ普通だよね。私はお医者さんって呼んじゃったけど、こちらでは薬師と言うらしく、平民の場合も町に薬を扱う店があるらしい。


 あと他に「癒し」なんて力を持つ人が居て、そういう人の所に行って病気を治してもらったり緩和してもらったりすることもあるそうだ。この力を持つ人もそれ程多くないし、人によって力の強さもまちまちとの事だった。しかも癒しを持つ人の多くが神殿に所属しているという。


 どうも昔の迷い人の中にとても強い癒しの力を持った人がいたようで、迷い人至上主義の神殿としては「癒しの力を持つ者は迷い人の眷属、守るべきもの」的な考えらしい。なので癒しの力を持つ人を「保護」しているそうなんだけど、話を聞いているとどうも保護というより囲っているという感じがした。


 神殿は力を持つ人を非常に好待遇で迎えるらしい。安定して高額な給金が出て教会内での地位も与えられ贅沢が出来るというので自ら神殿に出向く人もいるほどだそうだ。もちろん神殿に所属しない人もいるそうだけど、貴族ならともかく平民となると狙われることもあるんだとか。だから神殿が保護しますよ、ということらしいんだけど……。


 とにかく癒しの力を使って広く神殿の地位向上をはかっているようだ。もちろん癒しに対しては高額な寄付が必要らしいけど、いかにもって感じがする。


 なんにしても、ポーションやそれに準ずる薬は高価なのでめったなことでは使わないし買えない。なので症状をやわらげる薬を飲むか癒しの力を借りるかというのがこの世界の病や怪我への対処法だそうだ。



 お医者さんの意見が聞きたくてマリーエさんには付き合ってもらったけど、その後すぐにポーションを飲んでもらった。「こんな程度でポーションなんて」とか言ってたけど、何があるか分からないし本当に色々ごめんねと思う。


 ああ、そういえばポーションは各自携帯してもらっている。私がずっと側に居れる訳ではないし、もったいないとかためらったりせずにちゃんと使って欲しいと思う。


 でですね、お医者さん、いや薬師の人に怠いとかこういう症状を引き起こす原因に心当たりはないかを聞いたんだけど、参考になりそうな答えは返ってこなかった。なので今度は城で同じような症状を訴えている人はいないかを聞いてみた。そうしたらね、なんとひと月程前に倒れた人がいたそうで、その人が怠さや頭痛などを訴えているという。ほうほう……。


 ロイさんにはその人の事を調べてもらい、こちらは改めてエレノアさんがしていなくてマリーエさんだけが取った行動や口にした物を抜き出して検証することになった。


 さてさて、何か分かるかなー。





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