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「えー、そこはイーラさんが犯人とかじゃないの?」


「なんで? イーラさん普通に良い人だよ?」


「いやだって、推理ものだとそういう一見関係なさそうで人の良さそうな人が実は……っていうのがパターンじゃないかなぁ」


 なにやらヒナちゃんが力説してるけど、あんまり人の事を犯人とか言っちゃだめだよーって言ったら「ごめんなさい」だって。うん、素直で良い子。



 今日は夜会の為の衣装合わせだった。久々にヒナちゃんも一緒だ。


 衣装の調整は比較的早くに終わって解放されたので、今は日本の家でヒナちゃんのお土産のシュークリームを食べながらお茶をしているところだ。


 さっきの会話なんだけど、あれは王妃様をとりまく事件についてヒナちゃんから出た発言だったんだけど、いやなんていうか、ヒナちゃんが推理ものとかってちょっと意外だった。



 そう、長く、人知れず王妃様を苦しめていた悪意はその正体が明らかとなり、先日犯人が捕まって無事解決することとなった。


 いやーそれはもう感謝されたよね。特に陛下の喜びようったらなくて……遠い目。うん、私が願うのは平穏です。あといい加減自由に外へ行きたいってそれだけなんだけど、なんで分かってくれないかなぁ、もう。




 さて、この事件に対して私が最初に疑問を持ったのは王妃様とのお茶会だった。


 あの薄暗い部屋にはもちろん驚いたけど、それ以外にも何か微妙に引っ掛かるものを感じた。だけどその場では自分が何に対して引っ掛かりを覚えたのかも分からなかったし、あまり気にもしなかった。


 そして退室して自分の部屋に戻ってお茶を飲んでいた時、付けていた腕輪が壊れているのに気が付いた。


「あら、リカ様そちらは……」


 エレノアさんに言われて見てみると、細い銀色の腕輪のちょうど真ん中あたりがひび割れていたのだ。


 これはダンジョン産の護身用の腕輪だ。アルクがくれたもので攻撃をはじいてくれる効果がある。ただ、あまり大きな攻撃は跳ね返せないし、数回は使えるがいつ壊れるか分からないとアルクは言っていた。


 ダンジョン内では最初の頃はともかく、最近は杖を使っているし腕輪を使った覚えはない。まあ使おうと思って使える物ではなく勝手に発動するタイプらしいけど、でもだとしたらどこで攻撃を受けたのか?


 まず思い付いたのが前日の陛下だ。威圧を受けたあの時、あれはかなり強い力だった。アルクが守ってくれていたけど、それでも影響を受けて気分が悪くなったのだ。防ぎきれなかった力をはじくのに腕輪が発動していたという可能性はあると思う。


 私はエレノアさんに聞いてみた。


「この腕輪、朝もこの状態だったと思います?」


 腕にフィットしているのでひび割れても落ちたりはしなかった。現に言われるまで気付かなかったし、もしかしたらしばらく壊れたままで身に着けていたということもあるかなと思ったのだ。


「いいえ、今朝の御着替えの時も、お茶会に行かれる時も壊れていませんでした」


 壊れていたら指摘したと、そうはっきり返事が返ってきた。身に着けている物はしっかりチェックしているそうで、本当はこの腕輪は衣装にそぐわないけれど護身用なので見逃してもらえたそうだ。


 ああ、そういえばお風呂でそんな話をした気もする。そしてそうだ、あの時は腕輪は壊れていなかったなと私も思い出した。


 あれ、でもだとしたら壊れたのって……。



「アルク、いる?」


 空中の、たぶんあちらだろうという方向に向かって声を掛けると「居る」と声がして私の側にアルクが姿を現した。エレノアさんは少しビクッてなったけど、それ以上動じないのはさすがだと思う。


「どうした?」


「腕輪がね、壊れた」


 そう言って手元を見せる。


「……どこで?」


 アルクが難しい顔をして聞いてきたので、私は自分の考えを伝えた。ああ、ちょっと話がきな臭くなってきたのでエレノアさんには部屋を出てもらったよ。でも護身用の腕輪が壊れた意味に気が付いたんだろう、顔色を悪くしていた。


 さて、どこで壊れたか、だけど……。王妃様の部屋の行き帰りの可能性も考えたけど、本当に何もなかったんだよね。だとするとやはり、王妃様の部屋が有力だと思う。


「なるほど。しかし王妃の部屋で何があった?」


「そこなんだよねー。別に攻撃なんて受けた覚えがないんだよ。というかさ、攻撃ってどこまでを攻撃として捉えるんだろうね」


 直接の物理攻撃以外に威圧が攻撃とみなされるかも分からないし、仮にそうだったとして王妃様からそういう物を受けた感じはしなかった。まあ迫力はあったし怖かったけどね。


 だとすると後は……。


「紅茶?」


「……毒か」


 おやぁ、これはまた危険な香りがしてきたね。


「あ、でも王妃様も同じ物を飲んでたから違うかな……」


 あの時、確かに紅茶は同じポットから注がれていた。だけど私があそこで口にしたのは紅茶だけだ。お菓子などには手を出していない。


「他に何か気になったことは?」


「うーん……そうだな、扇をパチンッパチンッて弾く音が怖かったのと……あとは香り、かな。部屋中に良い匂いがしてた」


「ふむ……」


 二人で考え込む。


 これは色々調べてみる必要があるかもしれない。王妃様と関わるのは気が進まないけど、腕輪が何に反応したかはとても気になる。もし私が狙われたのなら尚更だ。私はアルクと頷き合った。



 ところが、だ。


 まあ当たり前なんだけど、そもそもあの部屋を訪れる機会がなかった。さすがに高貴な人の部屋を勝手に見るのも気が引けるし……なーんて少しは思ったんだけど、そんなこと言ってる場合でもないかなと思い直し、アルクにちょっと探ってきてもらった。お城の警備をしてる人達には申し訳ないけど、アルクの場合は想定外の存在ってことで。


 だけどね、特に怪しい物は見つからなかった。ただアルクには鑑定の力はないし、有害な何かがあったとしても見ただけでは気付けないんだよねぇ。これはエミール君に出動要請かなと思ったんだけど、この国の貴族男性として王妃様の部屋に侵入なんて絶対拒否されそうだ。


 どうしたものかと困ってしばらく何も出来ずにいたんだけど、その間にお仕事をしたり、ダンジョン探索をしたり、城内見学をしたりとまあなかなか忙しく過ごした。


 で、そうこうしている内にマルティナ様とラビニア様に呼ばれて王妃様と接触するように頼まれてしまった訳だ。王妃様が私に毒を盛った場合なんかを考えると色々怖いし、直接関わるのは気は進まなかったんだけどねぇ……。


 まあだけど、私はなんとなく王妃様が私を攻撃するとは思えないという気持ちもあったし、あの時の様子が気になっていたのも確かだった。


 そこでアルクと相談し、他のみんなを呼んで経緯を説明した。そして調査の為の協力を依頼し、作戦を立てて実行することにした。一応マルティナ様からの依頼っていう大義名分もあるしね。



 腕輪が反応する何かがあの部屋にあるのか


 攻撃されたのは私か、それとも王妃様か


 誰が、何の為に


 そして王妃様が変わってしまった原因は何か



 あ、殿下は王妃様の身内だし呼ばなかったよ。だけどそのせいで「仲間外れはひどい」とか後で文句を言われ続けたのには参ったよねぇ……。





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