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 王妃様を連れてきたのは朝食後の時間帯だった。


 まだ午前中の今は、私はガイルの家でパソコンを開いてお仕事中。いつもは日本の家でするけど、さすがにお客様がいるのでガイルに居るようにしている。


 アルクは同じくこちらでお菓子作りだ。以前実家でもらってすっかり忘れていた伊予柑を使い、色々作ってくれている。収納鞄があって本当に良かったと思う。でなきゃとっくに腐ってもったいないことになっていたはずだ。


 王妃様はというと、カウンターからは少し離れた壁際の椅子に居場所を定めたらしい。何か必要な物はあるかと聞いたら「お茶と本を」と言うので、傍らの小さなテーブルにお茶を用意し、家にあるのはこれだけですと例のリリーナさんが持って来てきてくれて放置したままだった本を渡した。


 あと一応ね、マリーエさんの家から侍女さんを派遣してもらい側に一人待機してもらっている。高貴な人の生活はよく分からないけど、色々と介助が必要らしい。私じゃどうしていいかも分からないのでお任せしてある。


 今は静かに読書をしているけど、時々視線を感じる。だけど向こうが何も言わないので私は特に反応はしない。なんか変な感じだけど、しばらくすれば慣れるだろう。さてお仕事お仕事~。



 しばらく静かな時間が流れた。


 私もすっかり王妃様の事を忘れて仕事に集中していたんだけど、それを破ってやってきたのはコルネさんだった。


「ああ、やっぱり。なんとなくいらっしゃるような気がしたんです。来てみて良かった」


 なんとコルネさんは私の在宅を察知する能力を手に入れたらしい。


「こんにちは、コルネさん。研究の方はどうですか?」


「こんにちはリカ様。ええ、そのことでちょっとご報告が……」


 そう言いながら家に入って来たコルネさんは、中に見慣れない貴婦人が居る事に気が付いてすごく驚いていた。来客中だと思って帰ろうとするコルネさんを引き留めたけど、王妃様をちらちらと見てあまり落ち着かない様子だった。うん、王妃様って居るだけで迫力あるっていうか、存在感があるよね。


 だけど話が始まるとすぐに王妃様のことは頭から消えたようで、コルネさんはいつもの調子に戻った。


 どうやら生クリームはなんとか形にはなったらしい。ただし販売にはかなり問題が多いという。


「元々、冷蔵設備が普及していないことやガイルの気候が暖かいこともあって、販売は難しそうなのです」


 ああなるほど。最近特に暑いくらいの陽気だし、冷蔵庫がないと販売も保存も心配だよね。


 私達はその後も問題点や打開策などを話し合い、ついでに先日話題になったゼラチンや寒天の話で盛り上がった。アルクに頼んでゼラチンと伊予柑でフルーツゼリー作りの実演なんかもしてもらったよ。美味しそー。


 しばらく話し合った後、コルネさんは「また報告に来ます」と帰っていった。そういえばコルネさんは、お土産にパンを沢山持って来てくれたんだよね。本当に私が居ると思って来たんだなぁと感心してしまった。凄いぞコルネさん。


 せっかくなのでお昼にパンを食べようと思い、簡単なスープとサラダを作ってご飯の準備をする。一応ね、王妃様には「食べますか?」と聞いたら少し躊躇した後に頷いたので彼女の分も用意した。あと侍女さんの分もね。


 王妃様と向き合ってはちょっと緊張するので、少し距離を取って食事をする。侍女さんは同じ部屋ではちょっとと言うので別室を用意した。


 王族だからと特別な料理を用意できる訳ではない。だけど王妃様は文句を言うでもなく、静かに食事をしていた。だけどね、お茶を飲む時も思ったんだけど、気になったので思わず「ベール邪魔じゃないですか?」って聞いちゃったんだよね。まあ、ちらっと見られて黙殺されて終わったけど。


 その後も私の在宅を聞きつけたネロさんがやってきて第二回パン祭りの計画を相談されたり、何故か一緒に付いてきた騎士団長に「ダンジョンには行かないのか?」って聞かれたりと、なかなか賑やかな一日だった。



 そして夜。


 夕食は鮭の包み蒸しにした。なんか魚が食べたかったんだよね。今回もちゃんと食べるかどうか王妃様には確認したよ、お魚が大丈夫かもね。


 広げたクッキングシートに玉ねぎ、きのこ、鮭を順番に載せていき、塩コショウにバター、醤油をかけて包みオーブンで蒸し焼きにする。うん、簡単。


 ちなみに鮭は日本のスーパーで買ったものだし、オーブンも日本のものを使ったよ。やっぱり放っておけるタイマー機能は便利だよねぇ。


 あとはサラダと野菜スープとご飯。ご飯は食べる習慣があるか分からなかったのでパンも一緒に付けておいた。昼の時もそんなに食べていなかったようだし、豪華じゃないけど運動もしてないんだからこんなものでしょう。


 相変わらず王妃様は静かに食事をしていた。食べないなんて事もあるかなと思っていたのでそこは良かったと思う。もちろん会話はないので、私はアルクと勝手におしゃべりをする。


 口に合わなかったら困るなと思ったけど、魚は全部食べてあった。ご飯は少ししか減っていなかったけどパンはなくなっていたし、とりあえず食事は大丈夫だったと分かって安心した。


 夕食後はマリーエさんの登場。王妃様のお迎えだ。


 侍女さんに一人付いてもらったけど、やっぱりそれだけじゃ足りないし色々とお世話する人が必要らしいんだよ。他にもここだと足りない物も多いしで、マリーエさんにお願いしてデイルズ家を頼る事にした。


 既に必要な物は揃えてもらっているし、エレノアさんからも様々なアドバイスや指示をもらっているそうだ。デイルズ家の人達にはとても高貴な身分の方としか伝えていないんだけど、まあ色々察していることだろう。


 移動はもちろん扉を使ったよ。やっぱり便利だよねぇってしみじみ思うし、青い狸になった気分だ。



 さて、翌日に話を聞いた所では特に問題はなかったらしい。なので王妃様にはそのままデイルズ家に滞在してもらい、前日同様に本を読んだり、庭を眺めたりして過ごしてもらった。その間、私は時折デイルズ家を訪問して様子を見たり、一緒にお茶を飲んだりしたけど、まあ会話はほぼなかったね。



 そしてそのまま約束の日にちが過ぎ……


 四日目の朝、朝食を食べた後に私は彼女を迎えに行った。


「ではお城に戻りましょうか」


「……ええ」


 何か言いたそうではあったけど、城へ戻ることに異論はないようだ。なので私は扉を出し、王妃様を連れて家に戻り、そこから城の彼女の部屋に戻った。時間は伝えてあったので部屋には殿下とエレノアさんが待っていた。


 王妃様を無事に引き渡してひと段落。いやー、やっぱり知らない人と過ごすって結構神経使うし疲れるよね。王妃様も慣れない環境でお疲れなんじゃないかと思う。


 そんなことを思っていたら……え、何?


 何故か引きずられるように殿下に拉致られ、着いた先は王太子妃様のお部屋だった。待ち構えていたのはもちろんマルティナ様とラビニア様。


 えー、帰るー。




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