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本日はまたもやお茶会です。
とはいっても今日のは王太子妃様の主催だけどね。
以前の晩餐の時に約束して招待状をもらっていた。やっぱりこの間みたいに招待状をもらって当日にっていうのはかなり非常識なことらしい。まあ招待主が王妃様だったのでそんなものは関係ないようだけど、上の人こそあまり迷惑なことはしないで欲しいなって思う。
今回は招待してもらってから充分に時間もあったので手土産もちゃんと用意した。エレノアさんに聞いて持っていっていいかも確認したし、王太子妃様の好みも聞いたよ。私はやればできる子なのです。
えーと、持っていくのは爽やかなレモンケーキだ。ふんわり香るレモンや甘酸っぱいアイシング、レモンの形もすごく可愛い。パウンド型で焼くのもあるけど、このコロっとした形が好きなのでアルクに頼んで焼いてもらった。
うん、美味しいし形も完璧、さすがだね。
手土産なのでお皿のまま出すのもどうかなと思い、エレノアさんに相談した。そうしたら事前に先方へ渡しておいてくれるという。手土産の意味とは……なんてちょっと思ったけど、こういうのはよくあることらしい。お茶会の手土産はお菓子である場合も多いそうで、主催者がふさわしいと思えば当日のお茶会に出されることもあり、珍しい物などは話題作りに一役買うし喜ばれるそうだ。
だけどね、新作が出ることは滅多にないとエレノアさんは言っていた。そもそもこちらにはケーキ屋さんやお菓子屋さんってもの自体がない。お菓子は高級品扱いで、料理同様に家の料理人が作るのが普通なんだそうだ。
ガイルで砂糖は高いけど手に入ったし、材料はあるんだからもっとお菓子や食事だって色々開発されていいと思うんだけど、そういうことは本当に少ない。開発に掛かる費用とか材料が無駄になるとか、家に仕える料理人が勝手を出来ないというのもあるけど、代々伝わる家のレシピっていう考え方がそもそも新しい物を作ることを阻害している要因なんじゃなかなって思う。
しかしそう考えると、新しい物がどんどん開発されてるガイルは外から見ると結構異常なのかもしれないね。
とりあえずエレノアさんや他の侍女さんにもレモンケーキはお裾分けしておいた。エレノアさんは「まぁっ」って珍しく声を上げて喜んでいたので甘い物は好きなようだと判明。よし。
さて、支度も整ったので訪問だ。同じお城の中だけど移動には時間が掛かるんだよね。到着は遅くても早すぎてもいけないとのことだけど全部お任せ。道も知らないし私は大人しく着いていくだけだ。
「ようこそおいで下さいました」
そう言って素敵な笑顔で出迎えてくれたのは王太子妃のラビニア様。
「ご招待いただきまして有難うございます」
こちらもにっこりと、付け焼刃だけどかなりしごかれた礼をして挨拶をする。
陛下の時も王妃様の時も何もしなかったのはやはり問題があったようだ。私が挨拶について聞いたらエレノアさんから強制的に指導が入ったんだけど、勝手に突き出されたり呼ばれたんだしそんなの知るかって感じだよね。
とりあえず覚えておいて損はないからと言われてレッスンを受けたんだけど、おかげで私の筋肉が死にました。
通された部屋はとても素敵な場所で温室のようだった。ガラス張りの窓が一面にあり、柔らかな日差しが降り注ぐ室内はとても明るく花や緑があふれている。中央に用意されたテーブルには可愛らしいティーセットやお菓子が並び、これぞティーパーティーって感じのメルヘンさだ。
私が「素敵ですね」って褒めたらラビニア様はすごく嬉しそうだった。大人っぽい見た目の人なんだけど、意外に可愛い系が好きなのかな。
テーブルには他にもお客様が居た。ご挨拶したらなんと陛下の妹さんだった。結婚して王族から離れ今は別の場所で暮らしているそうなんだけど、私に会いたくてわざわざやって来たらしい。相変わらず私の情報は駄々洩れのようだ。
お茶会は和やかに進んだ。レモンケーキはしっかりテーブルに並んでいて、二人にとても美味しいと絶賛された。少し前にマドレーヌやフィナンシェもそれぞれお届けしていたんだけど、レモンケーキと合わせてぜひレシピを買いたいと言っていた。頂戴とかよこせじゃないんだなーと思って、そこは好感度アップだね。
「まあ、それではギルベルト殿下もダンジョンへ?」
「ええ、とても楽しんでいましたよ」
まだ帰りたくないと駄々をこねていた姿を思い出す。
「それではきっと、アレクシス様やエルンスト様が羨ましがるわねぇ」
「確かにそうですわね」
二人がちょっと困った顔をしながらも笑っていた。
「リカ様もお強いのでしょう?」
「そうそう、聞きましたわよ、事件のお話」
たぶんボーグ家のことだろう。いやしかし誤解ですって。
「いえいえいえ、活躍したのは私以外の皆さんですから……」
そう言ったんだけど、何故かあんまり信じてもらえない。防御のみで攻撃力弱々なのに……。
それからなんとか話をそらし、事件の前の話になった。
「なんでもパーティー中に婚約破棄だなんて馬鹿げたことを言い出したとか。お相手の女性には同情しかありませんわ」
「本当にねぇ。何を考えているのか、嘆かわしい限りですわね」
ですよねー。唆した人はいるけど実行するのはどうかと思うよね。
「そういえばメルドランのエミール様がご婚約されたそうですわね。そのパーティーでとても仲睦まじいご様子だったとか」
おお、貴族間の噂って伝達力あるね。しかしこれも作戦の内だったとは言えない。上手くいきそうな気配もあるしここは黙っておくべきなんて考えていた。
「デイルズ家のお嬢様ですってね。良縁で羨ましいわぁ」
頬に手をやり溜息をつかれる王妹マルティナ様。美人は溜息をつくだけでも絵になるなぁ。
「ねえ、リカ様。うちの息子なんてどうかしら?」
は、え、息子? 突然何を?
「地味だけどそんなにひどい顔ではないと思うし、ちょっと放浪癖はあるけど収入も資産もそこそこあるわよ。少し面倒くさい所はあるしひねくれてるし頑固な変わり者だけど……まあ多少は使えると思うの。三男だけどちゃんと貴族籍は用意してあげられるし、どうかしらねぇ?」
どうかしらねぇって言われましても……ねぇ?
しかし息子さんにしてはなんか酷い言いようだよね。しかもこれって私に婚約とか結婚を勧めてるんでしょう?
「いえ、あの、私にはちょっと……。ご本人も存じ上げませんし……」
曖昧に笑ってごまかす。
「あら、そんなことないでしょう? あなたの出してくれるお食事が美味しいって昨日もすごく自慢されたのよ。あの子があんな風に女性の事を話すのを初めて聞いたの。私とても驚いてしまって……」
うん? 食事が美味しいって……え、あれもしかして?




