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「いや、すまなかったね。改めてようこそフランメルへ。私がこの国の王、ラムセール・フランメルだ」
私達は陛下に席を勧められて対面に座った。それまで私とアルクは跪くとか何もせずにただ突っ立っているだけだったんだけど、特に何も言われなかったし気にもしていないようだった。寛容な人なんだろうか。
「しかしさすがは賢者の血筋に精霊。私の力も通じないとは恐れ入った」
私達の正面でニコニコ笑っている人がこの国の王様で一番偉い人。そして殿下のお父さん。
さっきまで威圧感ありありで対面してたんだけど、殿下になにやら言われた後はそれがどこかへいってしまった。それまではすごく気持ち悪い感じがして吐きそうだったんだけど、どうも陛下が何かしていたらしい。
陛下はうんうんって一人で頷いて納得してたけど、私が怪訝な顔をしていたら殿下が説明してくれた。
「王族が多く持つ能力に魅了の力があるのだが、父上はその力が非常に強くてな。目の前の人物に対して意識して力を使えば支配も可能なほどだ」
え、それってすごく危険な力だよね。もしかしてそれをさっき使ってたってことなの?
権力者や指導者なんかがこぞって欲しがりそうな力だけど、まあこの人って王様だし使うべき人に備わったってことなんだろうか。いやでも自分の意志とは関係なく知らない内に誰かに従ってるとか考えるとかなり怖い。しかも私達に使おうとしてたって……ひどくない?
私がじとーって目で見てるのに気が付いたのか、陛下がなにやら弁解を始めた。
「あ、いやほら、ちょっと試してみたかったっていうか、興味があったというか……。ギル君から色々話は聞いていたし、たぶん効かないんだろうなぁとは思っていたんだよ。別に無理やり君達をどうこうしようなんて思ってないから、ね? それに私ってよく威厳がないとか王様らしくないとかみんな酷いこと言うんだよ。だからちょーっと王様らしく見えるようにって思っただけで……」
なんかぼそぼそと言葉を続けてる陛下。うん、確かにこれは最高権力者の姿ではないような……。しかも何だろう、この人すごく若くない? 殿下の兄弟とか言われてもおかしくなさそうに見える。さっきの威圧感がない今はさらに幼く見えるというか……。
「さっきの父上を見てどう思った?」
王様らしくない様子に少しあきれながらもその若さに驚いていたら、突然殿下にそんなことを聞かれた。さっきってあの威圧されてる感じの時だよね。どうって言われても……。
「気持ち悪かった」
「は? え……気持ち、悪……え……?」
私は素直に答えたんだけど、なんか陛下がめちゃくちゃショックを受けていた。横で殿下はお腹を抱えて笑ってるし、後ろを見たらアルクはあきれ顔だった。
いや、吐きそうだったし本当のこと言っただけじゃん。別に陛下が気持ち悪いとか言ってないよ、私。
あと力が効かなかったのが私の力みたいに陛下は言ってたけど、たぶんアルクの力だ。前にも魅了の力がどうのってことがあったけど、その時はアルクが守ってくれてたから効かないって言ってたし実際なんともなかった。私にも多少は跳ね返す力があるらしいけどね。
あとでアルクに聞いたら今回の陛下の力は相当なものだったらしい。そのせいで支配されるとかはなかったけど力の影響で気持ち悪くなってしまったのではないかと言っていた。なるほど、陛下の力がやばいのは良く分かった。それにしてもそんなものを簡単に試そうとしないで欲しいよね、まったく。
その後はようやく立ち直った陛下とヒナちゃんのことや夜会の事、今後の事なんかを少しお話した。あ、あとお菓子やご飯の事もしっかり確認されたよ。本当にやれやれだ。
陛下からは「これからもギル君と仲良くしてあげてね」と言われたけど、横を見たら殿下がなんか苦笑いしていたね。
◇
さて、陛下とのお話の後は部屋に案内された。一応しばらく滞在することになっているので私達が泊まる部屋なんだそうだけど、まあ豪華豪華。前に泊まった銀の靴の部屋が霞むくらいに素晴らしく広くて、家具や調度品も高級品揃いのそれはそれは凄いお部屋だった。
泊まるだけでこんな広さ要らないって思うし、あんまり高級品ばかりだとなんか落ち着かないんですが……。あ、そうですか、警護上この部屋でと。ここ以外だともっとグレードアップ……あ、いいです、ここでいいです。
あとマリーエさんは護衛なのでここの続き部屋になったけど、エミール君とロイさんの部屋はこことは違う場所らしいです。ちなみにアルクは……特に何も言われていない。ちゃんと事前に情報収拾されてるってことなのかな。
今は私の部屋にみんな集まっている。お茶を淹れてもらってやっと一息ついた所だ。
「はぁ、美味しい……」
さすがお城のお茶、香りも味も良い。さっき陛下の所でもお茶は出されたけど飲めるような状況じゃなかったからね。
人払いもして、しばらくまったりしていたら殿下がやって来た。
「なんだ、随分くつろいでるな。部屋はどうだ、何か気に入らないことがあれば言ってくれ、すぐに対処させるぞ」
そんなことを言われたけど、いやもう部屋のことはいいよ。それにこの部屋に文句言うとかどういう人なんだろうって思うんですけど。あれ、落ち着かないっていうのも文句になるの? ……うん、まあいいか。
「それでヒナちゃんは? いつ会わせてもらえるんです?」
「まあ待て。今こちらに向かっているところだ」
私がここに来た目的はヒナちゃんだ。陛下へのご挨拶はまあ仕方ないし段取りとかあるのかもだけど、そろそろ会わせて欲しいと思う。
そう思っていたら部屋にノックの音が響いた。
「入れ」
殿下が声を掛けると扉が開き、案内されて入ってきたのは一人の女の子。
「里香さんっ!」
ヒナちゃんが私を見るなり飛びついてきた。
「里香さん里香さん、やっと会えた~!!」
うんうん、そうだね、やっと会えたね。
私達はひとしきり出会いを喜ぶと殿下も交えて全員でテーブルを囲んだ。お茶を飲んでとりあえず一旦落ち着く。昨日も通信はしたけどヒナちゃんの健康状態なども確認していよいよ本題だ。
「じゃあね、さっそく戻れるかどうかやってみようと思うけどいい?」
「うん、お願いします」
ヒナちゃんは思ったより落ち着いている。
私は殿下を見たら頷かれた。
「ではまずガイルに扉を繋げます」
殿下とロイさんは事前にガイルと繋げる場所の相談をしていたらしく、この部屋は私の専用にして今後はお城との行き来に使うんだそうだ。専用ねぇ。
さて一応壁に扉を出したけど……うん、質素な扉が豪華なこの部屋と全然合ってないなと思う。違和感あり過ぎるけどまあ仕方ない。という訳で扉を開く。向こう側はいつものガイルの家だ。
「すごいすごい!」
ヒナちゃんがぴょんぴょん跳ねてすごいを連発していた。
みんなで扉をくぐりガイルへ移動する。ヒナちゃんも問題なく移動出来た。
「これは凄いな。城からガイルへこんなに簡単に移動出来るとは……」
殿下が唸っていた。知っているのと体験するのではやはり違うらしい。
さあ、ここからが問題だ。私は日本への扉を出した。
「ヒナちゃん」
ヒナちゃんへ手を差し出す。
「うん」
事前に説明はしてあった。なのでヒナちゃんは何も言わずに私の手を取る。
扉を開き、足を踏み入れる。
――さあ、どうだ。




