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「ねえねえ、聞いて里香さん! あたしすっごく強いみたいっ!」


 なんだかよく分からないけど、いきなりテンション高めでヒナちゃんが通信してきた。


「え、どうしたの? 何かあった?」


 ちょっと落ち着いてと言いながら、私はヒナちゃんに聞いてみる。ヒナちゃんは興奮気味に手をパタパタしながら鏡に身を乗り出していた。なんか可愛いね。


 ヒナちゃんの後ろには殿下の姿が見えた。ここ最近のヒナちゃんとの通信には同席していなかったし何かあったのは確かみたいだけど、二人の様子を見る限り悪い事ではなさそうだ。


「あのね、里香さんが空手やってみればって言ってくれて、さっそく基礎練とか型とかやってみたんだけどね、見てた人が興味あるって言うから一緒にやって、それで組み手とかしたらなんかすっごいの!!」


 ヒナちゃんが勢いのまましゃべるけど、いまいちよく分からない。よく分からないけどそうか、凄いのか。


 助けを求めて殿下に目をやったら、なんかめちゃくちゃ笑ってた。


「何があったんです?」


「ああ、なかなか興味深かったぞ。どんなことをするのか気になったので見に行ったんだがな、どうもヒナに付けていた騎士が自分達もやってみたいと言い出してなぁ」


 空手が珍しかったってことかな。


「段々とお互いに教え合うように鍛錬しはじめたんだが、今度は騎士の神力を使った身体強化にヒナがえらく興味を持ってな、なんと少し練習しただけですぐに習得してしまった」


 苦笑する殿下。


 騎士は身体強化系が多いって前にマリーエさんが言ってた気がする。でもそれってやろうとしてすぐに出来るようなことじゃないよね。ヒナちゃんに元々その力があったってこと?


「しかもいつの間にか実戦形式になっていてなぁ。いやぁ、あれは確かに凄かったぞ」


「いやいやいや、急にそんなの使えるようになったからって大丈夫だったのそれ?」


 慌ててヒナちゃんに確認したけど本人はニコニコと笑っていた。


「大丈夫ー! すっごく楽しかったよ!」


 ヒナちゃんは元気に返事をしてきた。しかも「騎士の人達と仲良くなったからまた練習するんだ」と嬉しそうにしている。


 怪我とかはなさそうなので安心したけど……えー、もしかしてヒナちゃんもそっちの人なのってちょっと思った。



 ヒナちゃんの楽しそうな報告を色々と聞き、とりあえず元気になってくれて良かったと思う。まあ少し思ったのと違ったけど……本人が楽しそうなのでまあいいことにしよう。


 殿下が話があるとのことで一旦ヒナちゃんとのお話はお終いになった。先に少しでも話をさせてくれるとか優しいんだよね。ヒナちゃんもだいぶ警戒心を解いているみたいだし。


 だけどこの人って時々忘れそうになるけど王族だし、あんまり馴れ馴れしくとか失礼なことしちゃ駄目なんだよなぁと今更に思う。


 ヒナちゃんが少しくらいそういう行動をしても怒るとかはないだろうけど、周りがどう思うかもあるからね。あとでちょっと言っておこう。自分の事は棚に上げてとかじゃないよ、私だって人目がある所ではそれなりに気を使えるんだから……たぶん。


「さて、ヒナの件は助かった。リカの助言でかなり落ち着いたようだ。まあ別の意味で興奮はしているようだが……ククッ、それはいいだろう」


 なんか楽しそうですね。


「迷い人との関係は良好でありたいものだが、今回のシュライデンのように過去にはこじれたこともあったと聞く。リカの助力には感謝している」


 王子様スマイル付きで感謝されてしまった。だけど改めてそんなこと言われるとちょっと困る。言葉が分かるのは扉のおかげだし、助けられる力があるなら助けたいと思うのは自然なことだ。同郷の人なら尚更ね。


「でだな、夜会を開くことになった」


 またいきなりだね。


「現在迷い人が城に滞在していることは多くの者に知られていてな、既に各地の領主を始め、貴族達がこぞって面会を申し込んできている状態だ。ヒナの疲れや体調を理由に断ってきたが、そろそろそれも難しくなってきている」


 戦えちゃうくらい元気いっぱいだしね。


「だが、あの数の面会をこなすとなると、とても数日では足りないだろうしヒナがそれに耐えられるとも思えん。そこで夜会を王家主催で行い、迷い人の披露目をする」


 うわぁ、それはそれでまた大変そうだけど。でもこれって決定ってことだよね?


「ヒナには既に了解は得ているが、リカにも出席してもらいたい」


「は? 私も?」


 思わず聞き返してしまった。え、なんでよ。


「ヒナからの要望でもある。別に賢者の孫として出席する必要はないし、ヒナの側に居てもらえればいい。私からも頼む」


 頭を下げられてしまったけど、そんなに簡単に殿下が頭なんか下げないでよ、断りにくい。だけどそれって物陰から見守るとかじゃ駄目なのかな……。


「今朝あいつから中央領に入ったと連絡が来た。まもなく王都に到着するだろう」


 ああ、ロイさんね。どうもあれからもずっと飛ばしまくってるみたいなんだよね。


 メルドラン領は中央領の南東に位置する。ガイルはメルドラン内では北側にあるので中央領へは位置的には近い。しかもガイルは流通の要として機能していることもあり、付近の街道は比較的整備もされている。なのでぶっちゃけメルドランの領都へ行くよりもよっぽど早く中央領に入ることが可能なんだそうだ。


 しかも今回は領主様と更には国の最高権力者からの根回しもある。普段だったら時間がそれなりに掛かるはずの入領手続きだってほぼスルー状態だし、本来掛るはずの三分の二、いや半分程の日数で王都まで辿り着けそうな勢いらしい。ヒナちゃんを早く安心させてあげたいから私としては嬉しいけどね。


 なのでそれだけ早く着けるなら、私としては一刻も早くヒナちゃんを返してあげたいんだけど。出席しろっていうその夜会は、そもそもいつ開くつもりなんだろう。


 帰っちゃ駄目なの?




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