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買ってきたパンをカウンターに並べ、お皿や分けて食べられるように包丁やまな板も用意した。
まな板って言っても、これはカッティングボードかな。木製で木目が綺麗なおしゃれなやつ。いいなぁ。お手入れとか大変なのかなと思って使ったことがなかったけど、買ってきたパンを乗せただけでもなんだか絵になる。
この家の中にあるものって家具や小物、道具類に至るまでみんなこの調子で素敵なものばかりだ。基本的にはヨーロッパのアンティーク調で、とても落ち着いた雰囲気。洗練された、というよりは少し田舎っぽい落ち着いた感じかな。うん、すごく好き。好きなものに囲まれるって幸せだ。
パンと一緒に飲めるように飲み物も用意した。前回は紅茶だったので、今回はコーヒーにしてみた。だけどね、よく考えてみたらこっちでコーヒーを見かけたことがないことに気が付いた。豆があったら買いたいなと思って市場で探してみたけど見つけられなかったんだよね。
紅茶の葉は売っていたけど、こちらではコーヒーはあまり一般的ではないんだろうか。紅茶を入れる道具はあるけどコーヒー器具はここにもなかったし。
アルクさんに聞いてみたら、やっぱりこの辺りでは飲まれていないらしい。あとコーヒーという名前をアルクさんが知っていたのはおじいちゃんがたまに飲んでいたからだそうだけど、淹れ方が違うって言う。詳しく聞いてみたら、おじいちゃんは茶色い粉をお湯で溶かしていたそうだ。なるほど。
パンに合うからと単純に思っていたけど、口に合わなかったり苦手な人もいるかもしれないからと紅茶も用意することにした。
そんな感じで色々準備していたらコルネさん達がやってきた。
前回同様、会長のデニスさんと副会長のコルネさんの二人だ。「今日はよろしくお願いします」とまたすごく丁寧にご挨拶された。
さっそく二人には座ってもらい、少し説明してからパンの試食会をスタートさせた。アルクさんも興味があるというので四人でカウンターを囲む。
なんかね、二人とも私のことをあんまり詮索とかしないんだよね。だからここに広げている見たこともないパンの山を見ても、どこから持って来たんだとかそういうことは言わない。すごく怪しいのに。
後でアルクさんに聞いたら、この家でのことは「賢者の所業」と言われてるんだって。賢者っておじいちゃん?
とにかく、不思議な物や事があっても賢者様のすることだから大騒ぎしたりあれこれ詮索したりしない、という暗黙の了解が出来ているんだそうだ。変に色々聞いて賢者様の機嫌を損ねるより、大人しく有益な情報を取り込もうという姿勢らしいんだけど……うーん。
買ってきたパンは一つずつ説明してから等分して試食していく形で進めていった。
パン協会の二人はめちゃめちゃ真剣に、興味深そうにパンを観察しながら丁寧に試食していた。あとノートに細かくメモもしていて、見せてもらったらパンの絵が描いてあって色々書きこんであった。
そうそう、コーヒーは意外と好評だった。苦手だったら紅茶もあるからと伝えたけど、結構気に入ってくれたみたいだ。砂糖とミルクをたっぷり入れていたけど、パンに合うと言っていた。
こちらではパンはスープと一緒に食べるとか、食事と一緒に付け合わせで食べることが多いそうだ。だからあんパンみたいに中に何かを入れたり、単体で食べることがほとんどないらしい。
コルネさん達はどのパンにもすごく興味を持っていたけど、パンが柔らかいことに驚いていた。確かにこちらのパンは固い物ばかりだ。中が多少柔らかくても表面はすごく固い。
固いパンも美味しいけれど、子供やお年寄りは柔らかい方がいいと思う。研究したいと言っていたので応援したい。
甘いパンだとチョコレートやカスタードクリームなどが子供や女性受けしそうだとか、メロンパンの食感が良いと感心していた。美味しいよね、メロンパン。
あと、中に入れるんじゃなくて果物などを表面にトッピングしたりするのも見栄えが良い、見せ方にまでこだわっているのは凄いと言っていた。私には当たり前だったけど、なるほどと思ってしまった。
アルクさんもコンポートデニッシュは気に入ったみたいだ。可愛いし美味しいよね。
サクサクのクロワッサンやもっちりしたベーグル、クルミやレーズン入りパンなど、とにかく美味しいのと珍しいので、その後もみんな大興奮の大盛り上がりだった。
中でもパン協会の二人の反応が良かったのが具材を挟んだりのせたりした総菜パン。食べ応えもあるし、これだけで食事になることや今あるパンでもすぐに作れそうなのが良かったらしい。
カレーパンみたいなパンを揚げるっていうのもちょっと衝撃を受けていたよ。
あとね、人気が高かったのがカツサンド。私も大好き。ちょっと電車で遠出する時には必ず某有名店のカツサンドを買ってしまう。
コッペパンのコロッケサンドもあったけど、カツサンドに使われている食パンが気になっている様子だった。他の玉子やハム、ツナサンドとかも、中身はもちろんだけどパンの形や白さ、柔らかさにすごく興味深げだった。
そういえば食パンって見かけてないなぁと思ったら、こちらにはこういう形のパンはないらしい。少なくともこの領内では聞いたことがないと言っていた。食パンは私も良く食べるし、使いやすいからぜひとも商品化して欲しいと思う。
そんな訳で、わいわいとすごく盛り上がった試食会となった。
二人はしきりに「とても参考になった」とお礼を言ってきて、これから色々と研究していきたいので意見や相談に乗って欲しいと言われた。買ってきただけの私としてはちょっと色々申し訳なく思ってしまうし相談になんて乗れるだろうかと戸惑ってしまう。
まあとりあえず、こうしてパンの試食や意見交換も出来て、第一回パン会議は無事終了したのでした。
パン美味しい~。




