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 ヒナちゃんは神殿の外に居るのは怖い人達だから近付いてはいけないと教えられた。


「あなたは貴重な存在だから狙われている。私達ならあなたを守れる」


 そう言って先生は貴族や王族がいかに恐ろしいかを語ったそうだ。


 なんでも迷い人との間に生まれた子供は非常に優秀な力を持つらしい。だから狙われてさらわれるとか監禁されるとか、十六歳の女の子に話すのはどうなのっていう内容だった。


 なんだかなぁと思って殿下に聞いたら、そういう話は実際にあるんだそうだ。神力がとても強かったり、特殊な力がある子が生まれるとかで迷い人との婚姻は男性でも女性でも貴族に望まれるものらしい。


 ええー、なんかヤダなそういうの。


 そう言えば前にも血筋がとか色々言われたけど……ロイさんを見たらにっこり笑っていた。


 あとやたらと貴族を悪者にしようとしてるみたいだけど、神殿の人って貴族じゃないのかなって思った。そうしたらやっぱり半数近くは貴族らしく、平民もいるけど上層部はほぼ貴族が占めているとのことだった。なんだかねぇ。


 ちなみに神官は婚姻はできないみたいだけど、地位が上がれば事実婚的なことも可能らしくて子供がいる人も少なくないみたい。ヒナちゃんに貴族は危ないって教えてたみたいだけど、神殿も十分危ないと思う。


 とにかくそんな事件もあってヒナちゃんはあまり部屋から出ずに過ごしていたらしんだけど、ある時、先生が突然来なくなった。


 別の人が来てくれたそうだけど、聞いたら先生は仕事で出掛けていると言われたそうだ。ヒナちゃんは何も言われていなかったので寂しい気持ちもあったけど、代わりの人に付いて勉強などは続けた。


 だけどやはり慣れていないのか、代理の先生との会話はあまりスムーズとはいかず難航したらしい。でもその人はすごく一生懸命で、なにやら迷い人にとても思い入れのある人物だったようだ。


 ヒナちゃんが、というか迷い人がいかに尊く特別な存在かというのをつたない言葉で語ったらしい。ヒナちゃんはあまり意味は分からなかったけど、その熱量は感じたみたいでちょっと引いたと言っていた。


 それでその人の言葉の中に気になる単語があったんだって。


「私の事を神様が待ってるって言ったんだよ、その人」


 ああ、神様の待ち人ってやつかな。


 目がすごく怖かった……そう言ってヒナちゃんはぶるりと震えていた。


 そうして先生が戻らない日が続いたある日、事件が起こった。どうも夜中に神殿に侵入者があり火を放ったらしい。なんか過激だよね。


 ヒナちゃんは何が起こったかよく分からずにいたけど、代理先生がやってきて部屋から連れ出された。


 あちこちで悲鳴が聞こえ煙が流れてくる中、手を引かれて連れていかれたのは広間の片隅で、そこにあった棚を動かすと壁に隠し通路が現れたそうだ。「ここは危ないから逃げなさい、早く行け」そう言われてヒナちゃんがその通路に入ったら、その人は棚を動かして自分はその場に残ったらしい。


 ヒナちゃんは訳も分からず暗く狭い通路を進み、どのくらい歩いたのかもよく分からなくなった頃、やっと扉を見つけて外に出た。ただ、極度の緊張と疲れでヒナちゃんはそのままそこで意識を失って倒れてしまった。


 次に気が付いたのはベッドの上で、どうやら保護されたらしいと分かったそうだ。


 そこは町の外れで助けてくれたのは平民の家族。小さな子供もいてすごく賑やかな家だったらしい。言葉は通じなかったけれど親切にしてくれてヒナちゃんはそこでかなり癒されたみたいだ。


 だけど平穏は続かず、数日後に彼女を探していた領主の兵に見つかって城に連れて行かれた。


 で、領主様にも会ったらしいけど、散々貴族は怖いとか吹き込まれていたのでヒナちゃんは怯えまくって会話も出来ず。領主様はあきらめてすぐに中央領に引き渡す事にした、という経緯らしいです。


 なんともまぁ、大変だったよねぇ。よく無事でいてくれたと思う。



 そういえば最初の「イケニエ」発言なんだけど、やっぱりあの本が原因だったらしい。


 なんとか中央領の領都に到着し入城したらしいけど、今度は城で対応した人の単語チョイスが良くなかったみたい。


 ヒナちゃんに少しでも喜んでもらおうとドレスとか花とかプレゼントを用意したらしんだけど、それを「お供え」って表現したらしいんだよねぇ。


 何でだって思ったけど、どうも「捧げ物」という意味で使ったらしい。ああ、これは後から本を見て分かったことね。普通に贈り物とかでいいと思うけど、どうも本の言葉が古いのと単語に偏りがあるように思う。


 ヒナちゃんはその言葉を聞いて考えた訳だ。お供えって、おばあちゃんの家の仏壇とかにあるやつでしょ。あれって死んだ人にあげるものだよね、と。


 そこからあの代理先生の「神様が待ってる」発言もあって、自分が神様の生贄として殺されるのではと繋がったみたいだ。勘違いだけどヒナちゃんなりに考えたんだよね。で、逃げ出したと。まあ普通の精神状態じゃなかったとはいえ、よくそんな風に考えたなと思うし生贄なんて言葉を知ってたと思うよ。


 この話をしたら殿下は頭を抱えて唸っていた。


 言葉の壁って大きいよねぇ。しかも日本語ってそもそもすごく難しいと思うんだよ。表現とか多様だし、同じ言葉でも複数の意味があったりする。自分のことを表す「私」だって、「あたし」とか「僕」とか「俺」「自分」とか一人称は多いしそれで印象も違ってくる。使う文字でも変わるしね。表現が豊かとも言うけど、これって一歩間違うととても紛らわしい。


 あちらの世界で最も難しい言語の一つが日本語とも言われてるし、習得の最高難易度にランク付けもされてるそうだよ。あ、これは英語圏の人にとってだったかな。まあとにかく普通に使ってると気付かないけど、日本語ってかなり難解だってことだよね。


 とりあえず、その本は一度見直した方が良いんじゃないかなと思う。



 なんとかヒナちゃんの誤解は解けたみたいだし、結構長く話をしたので一旦休憩することになった。午後にまた少しお話して、今後の事を話し合う予定だ。


 ヒナちゃんは帰りたがっているし、あとは彼女がガイルに来るか私が王都に行くかだと思うんだけど……。


 これは行くことになるのかなぁ。うーん。




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