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 リリーナさんの質問にはすごく驚いた。


 だって私とアルクが結婚って、どうしてそんな話になるんだろう。


 不思議に思って聞いたら逆に驚かれてしまった。


「え、お二人は婚約者同士ではないのですか?」


 ええ、なんでまたそんな勘違いが起きるんだろうか。


「うん、婚約者ではないよ。えーと、どうしてそう思ったの?」


「あの、大変失礼致しました。私、お二人の仲の良いご様子やパーティーの時の衣装を見て、てっきり……」


 ああ、あの時の。


 私は自分が貴族社会のことに疎い事を話して衣装のことを教えてもらったんだけど、お互いに同じ色合いで揃えたり、相手の髪色や瞳の色を取り入れるのは婚約者同士がすることなんだそうだ。なるほど。


 確かにあの時の衣装の青色はアルクの瞳に似ているなって思ったんだよね。アルクも私に合わせてくれてお揃いなのが嬉しかったけど、そんな風に見えるなんて思ってもいなかった。


 私は「アルクとは親しい間柄ではあるけれど婚約者でも恋人でもない」とリリーナさんに説明した。アルクは私にとって家族みたいなものだ。それに精霊様だしね。


 リリーナさんはまだ私がおじいちゃんの孫であるとかアルクが精霊であることは知らない。なので余計な事は言わなかったけど納得してくれたかな。ちょっとまだ戸惑っているようだったけど……説明が難しい。



 とりあえず話題を変えよう。


 今日はリリーナさんが本を持って来てくれた。


 以前にマリーエさんが賢者様の大ファンだとは聞いていたんだけど、リリーナさんもお姉さんの影響を受けてお芝居や本など姉妹揃って大好きなんだそうだ。それで私が賢者のお話に興味があると言ったら本を貸してくれることになったんだよね。


 でも最初は私が賢者の話を良く知らないことに驚いていたっけ。この国でそんなことを言う人はあまりいないらしい。まあかなり変に思われたかもしれないけど、リリーナさんは親切だった。


 今回は色々選んでお薦めを何冊か持って来てくれていた。


 おじいちゃんの活躍とか冒険とか、すごく気になる。どんなお話なのか読むのが楽しみだ。それに何か参考になるかもしれないし、ダンジョンのお話とかもあったらいいなって思っている。


 リリーナさんは本の作者についても説明もしてくれた。


「色々な方が書いた本があるのですが、私がお薦めしたいのはこのルイーズ・ラドナーという方の著作です。この方は賢者様としばらく行動を共にされていて、実際の賢者様たちのお姿を一番良く表現していると言われているんです」


 ふーん、同行取材みたいな感じかな。


「そして何より、賢者様と精霊様の仲睦まじいご様子がとても細かく描写されていて素敵なのです!」


 ん?


「お二人の物語は他にもたくさんの本やお芝居がありますが、まずはこれを読むことをお薦め致しますわ。他のどの本よりも恋人同士の甘い物語を堪能できますもの」


 は? 


「え、待って待って、お願いちょっと待って、恋人同士って……どういうこと?」


 訳が分からない。


「え、どういうことと言われましても……賢者様と精霊様が恋人同士だったというのは有名なお話ですよ? もちろん賢者様の偉大な功績の数々を称えたお話もたくさんありますが、お芝居などで人気があるのはなんと言ってもお二人の恋物語です」


「恋、物語……」


「はい、旅をする中で育まれる愛や揺れ動く切ない恋心など、それはそれは胸の高鳴るお話が満載なのです」


 なんだかリリーナさんが色々と語ってくれたけどよく覚えていない。


 その後、長居してしまったとリリーナさんは帰っていったけれど、私は混乱してしまってどう見送ったかも記憶があいまいだった。



 なんだかすごい爆弾を落とされた気がするんだけど……。




     ◇




 なんだかぼーっとしてしまって、日本の家に帰ってもしばらくそのままだった。 


 アルクには具合が悪いんじゃないかと心配されてしまったけど、とりあえず大丈夫だと言って出掛ける準備をした。


 何かしていないとさっきの話で頭がグルグルしてしまって動けなくなる気がする。


 私は少し早かったけれど出発することにした。


 挙動のおかしい私を心配したアルクが一緒に行こうかと言ってくれたけどもちろん断った。


 実家に行く時は基本別行動なんだよね。心配性なのでたまに様子を見に来てくれるけど、今回は一人になれるのがありがたかった。


「行ってきます。明日の夕方くらいまでには帰るね」


 そう言って心配そうな顔をするアルクを置いて逃げるように家を出た。




「はぁっ」


 車に乗った途端、思わず息を吐いた。


 家の中では心配するアルクにずっと見られていて落ち着かなかった。離れてほっとするなんて、こんなこと出会ってから初めてのことだ。


 運転しながら考える。


 さっきのリリーナさんの話、衝撃的だったよねぇ。


 おじいちゃんとアルクが恋人って……考えたこともなかった。


 そんなことアルクは何も言ってなかったのになぁ。なんで言ってくれなかったんだろう。


 言いにくかったのかな、それとも秘密にしたかったとか……。


 でも有名な話だって、二人の恋物語だって言ってた。


 どうして誰も教えてくれなかったんだろう……。



 あれ、でもおじいちゃんにはおばあちゃん、奥さんがいた訳だし、アルクとはお別れしたってことなのかな?


 それとも奥さんがいるのに付き合ってたとか? いやいや、さすがにそれはないよね。二人がそんな不誠実なことをするようには思えない。


 だけどそうだよ、初めて会った時、アルクは確かおじいちゃんのことを友人って言っていた。


 しかも私がガイルに行くまでずっと家を守ってくれていたり……アルクにおじいちゃんへの良くない感情とかは無さそうだった。おじいちゃんの事を話すアルクは懐かしそうだったし、いつも楽しそうで……。

 

 二人はお互いが嫌いになって別れた訳じゃないってことなのかな。やっぱり何か特別な事情や理由があったんだろうか……。


 いや、でもそもそも人と精霊って恋人とかなれるの? いいの?


 まあ精霊だし、性別とか別に関係ないのかな……。それにそうだよね、アルクは綺麗だしあんなに優しいし……一緒にいたらおじいちゃんだって好きになっちゃうよね……。


 おじいちゃんだって私は写真でしか知らないけど若い頃はなかなかダンディで恰好良かったし、きっとすごく素敵だったんだろう。お似合いの二人だったのかなぁ。



 おじいちゃんが死んだって聞いた時、アルクはどう思ったんだろう。


 ふとした時におじいちゃんとの思い出を語ってくれるアルク。



 アルクは今でも、おじいちゃんの事が好きなのかな……




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