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騎士団長が見つけたのは水の底にある不思議な空間だった。
ちょうどさっきの魔物がいた場所の真下辺りに箱のような建物があるらしい。そしてその周辺が透明な膜で覆われているというのだ。
「ちょっと見てくる」
そう言って騎士団長は潜って行ってしまった。
待つこと数分。
ザパッァと水面から上がってきた騎士団長が言うには、膜の中に入れてそこには空気があるらしい。
なるほど……ってこれはもしかして潜るのかな?
みんなの方を見たら「行きましょう!」って顔が言ってた。
あ、はい。
うー、なんかちゃんと潜れるかなって心配していたらアルクが「大丈夫」って言う。
私はみんなが次々潜っていった後にアルクと一緒に水に入ることにした。泳げない訳ではないけどちょっと怖い。
だけどね、目をぎゅっと閉じて息を止めて飛び込んだのに全然水の感触がなくて「あれ?」ってなった。おかしいと思って目を開いたら、なんと私達のまわりだけ泡みたいな膜で覆われていたんだよね。
「え、何これ面白い!」
息も出来るし濡れてもいない。シャボン玉の中にいるみたいな感じでゆっくりと底に向かって降りていく。
もちろんアルクの力だ。色々出来て本当に凄いなぁって思う。
不思議で面白くて、膜をちょんちょんぐにぐに、楽しく触っていたらアルクに「あまり強く触るのは駄目」と言われ、腕を体ごと引き寄せられてしまった。
ちょっとジタバタしてみたけどアルクは離してくれなかった。もっと触りたかったのにー。
建物の周りを覆う膜は半球型だった。
そのまま降りていくと膜と膜がくっついて融合し、中に入ることが出来た。ここの膜も触ってみたけどアルクの膜とよく似ているなって思った。ぐにぐにしていて触り心地が気持ちがいい。
私達の様子を見ていたロイさんには「ずるいずるい」と言われたんだけど、アルクは完全に無視していた。
しかもマリーエさんとエミール君には風で服を乾燥させてあげたりとあからさまに扱いを変えていていたし。まったくもう。
さて、私達を待つことなくさっさと建物に入っていた騎士団長を追うことにした。
建物は立方体のまさに箱って感じで、大きさも三メートルくらいの小さなものだった。
正面に切り取られたような入り口があり、私達はそこから中へ足を踏み入れる。
建物の中はがらんとしていて中央に下へ向かう階段があるだけだった。
そういえば建物の中も明るいけど、水の中もすごく明るかったなと思う。
水深はそこまで深くなかったけど、水面近くからこの建物がはっきり見えたし辺りも見渡せて視界は良好だった。水の透明度が高いにしても、本当に光源がどうなっているのか不思議過ぎる。
それにしても水の中にこんな物があるとはねぇ。魔物がいる時点で水中に入ろうなんて思わなかったし、騎士団長が見つけてくれなければそのまま見落としていたかもしれない。
魔物を倒してくれたことも含めてめちゃくちゃ活躍してもらっているし、今度ご飯のリクエストでも聞いてあげようかなってちょっとだけ思った。
階段は今までと違って螺旋状だった。幅はないので私達は一列になって階段を降りる。
新しい階層かそれとも最下層か。この先には何があるんだろうってちょっとドキドキする。
「ねえ、ダンジョンの最下層には何があるの?」
ふと疑問に思って聞いてみた。
「今までのダンジョンではダンジョン内で最も強い魔物が待ち構えていて、それを倒すことで宝箱が出現したと言われています。あと階段に終わりと出るそうです」
ラスボスがいるんだ。だけど「終わり」って……なんて分かりやすい。
「核とかはないの?」
「核、ですか? 聞いたことがありませんが……」
あれ、そういうのないのかな。しまった、また余計なことを言ってしまったかも。
「核とはどういった物でしょう?」
しかもロイさんに興味を持たれてしまった。
「えーと、あ、うん、何だろうねぇ。良く考えたら私もよく知らないかもー」
誤魔化そうとしたんだけど、やっぱりロイさんはしつこくて結局話すことになった。
だけど私が知ってる知識なんてたかが知れている。
「最下層とかにある石で、それを壊すとダンジョンが崩壊する、とか……?」
本当に薄い知識。
「崩壊するんですか? え、中にいる人間はどうなるんですか?」
「それだと逃げられるのはリカ様くらいなのでは?」
などなど、みなさんに色々言われました。うん、余計な事言ってすみませんでしたー。
そんなことを話している内にやっと階下が見えてきた。
さて、何が待っているのかな――
そこはとても明るい部屋だった。
今までとは違い、すごく無機質な真っ白い部屋。
そしてその中央に宝箱があった。
ついでにその横に騎士団長も居た。
「おう、遅かったな。待ちくたびれたぞ」
箱の横に座り込んで片腕を振っていた。
一応箱は開けずに待っていてくれたらしい。えらい。
という訳でさっそく開封だ。
久々の宝箱だしみんなの期待も高まる。
今回代表で開けるのは騎士団長だ。なんといっても今日一番の功労者だからね。
「じゃあ開けるぞ」
今までと同じ赤っぽい色の宝箱の蓋が静かに開く。
「うん? なんだこりゃ」
騎士団長が中を見て疑問の声を上げた。
私達も横から覗き込んでみたら、中に入っていたのは一本の「鍵」だった。
剣とか杖みたいな武器を想像していたのでこれはちょっと予想外。
「何の鍵だろう?」
手のひらサイズの古めかしい鍵。
「この部屋には他に何も見当たりませんが……」
確かに壁も床も天井も真っ白でこの宝箱以外に何もなさそうだ。全員で部屋中確認してみたけど鍵穴はどこにも見つからなかった。
「ねえ、ここって最下層だと思う?」
「うーん、今までの記録からすると違うように思いますね」
「だよねぇ」
階段に終わりの字もなかったしね。
さっきの魔物からは何も出なかったし、ここはどちらかというと隠し部屋とかそういう感じがする。魔物はここを守っていたんだろうか。
結局何の鍵かは分からないまま、私達は水上に戻ることにした。
あ、鍵は私が預かることになった。どこで使うのか分からないけど無くさないように収納鞄に入れときます。
鍵げっと~。




