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 船は無事だった。


 翌日、恐る恐る扉を開けたら前日と同じボートの上に出た。


 魔物に効くかは分からないけど、アルクに一応いつもの人を寄せ付けない術を掛けてもらっていた。その効果かどうかは分からないけど、扉を開けたら水の中とかでなくて本当に良かったと思う。


 扉を出した場所は「ボートの上」だったから、もしひっくり返っていたら水の中だったんじゃないかなと思うんだけど……それとも水上かな?


 いまだに扉の機能について把握できていないんだよね。ボートが破壊されて無くなったらどうなるかとかも疑問だし、もっと事前にちゃんと実験しておけば良かったと思う。


 馬車で扉を使った時に考えておくべきだったけど、今は確認できないので今度また扉の検証をしてみないといけないね。



 さて、探索中は何かヒントがあるかもしれないのと魔物を倒したい人達がいるので術は掛けないで進む。


 ちなみに今日は騎士団長はいない。なんかね、副騎士団長さんにめちゃくちゃ怒られたそうだ。なので今日は一日詰め所でお仕事だとマリーエさんが言っていた。


 副騎士団長はとても恐い人らしい。だけど騎士団内では一番の常識人だそうで、騎士団長のやらかしにいつも対処して苦労しているそうだ。


 昨日のダンジョン同行も騎士団長の思いつき行動だったらしく、色々予定が狂って大変だったんだって。なんか副騎士団長さんに同情してしまうし申し訳なく思ってしまう。


 そんな訳で今日は漕ぎ手がいない。いや、馬力の凄い人がいないだけでなんだけど、昨日よりはゆっくりとボートは進んでいる。


 私も微力ながら頑張ったよ。それなのにボートが曲がるから漕がなくていいって言われた。ひどくない?



 その日も次の日も特に何事もなく終わり、翌々日の午後になってこれまでとは様子の違う魔物が出た。お魚タイプじゃないやつね。


 最初はなんとなく水面が波打ってるような感じがしたんだよ。また魚型が飛び跳ねようとしてるかなと思ったら、そのまま水面が持ち上がって危うくボートがひっくり返りそうになった。


 慌ててボートを動かして逃げたら、さっきまでいた水面になんだか表面がヌラヌラしてる半球状の物があった。クラゲっぽいとも思ったんだけど、かなり大きくて横幅十メートル以上はありそうだ。


「海坊主?」


 思わず呟いたけど海じゃなかったね、ここ。


「なんですかそれ?」


「うーん、海に出て船を沈めようとする化け物?」


 ロイさんに聞かれたけど詳しくは私も知らない。形とかもあまり記憶にないし、なんとなくそれっぽいと思っただけだ。妖怪だっけ?


「ほう、リカ様の国にはそんな魔物がいるんですね」


 いやいやいや、いないし。しまった、あまり余計なことは言わないようにしないと。


 せっかく距離を取ったのに、海坊主(仮)はボートに近づこうとしてきた。静かだった水面が波立ち、船がぐらぐら揺れて今にも転覆しそうだ。


 しかも攻撃も効かないみたいで、さっきからエミール君が一生懸命矢を射っているけど刺さる様子がない。マリーエさんも弾力があって切れないみたいだし、海坊主を蹴ってボートに戻ろうとしたらぬめりで足が滑って危うく水に落ちそうになっていた。


 私も杖を使ってみたけど効果はなかった。あ、ちゃんとみんなに言ってから使ったよ?


 アルクにも攻撃してもらったら、炎や氷だと少しはダメージを与えられたように見えたけど表面を少し傷つける程度だった。


「困りましたねぇ。海坊主でしたっけ、それはどのように倒すんですか?」


 ロイさんが聞いてきた。


「いやあのね、空想上の生き物っていうか実在しないし倒し方も知らないんだよ」


 変なこと言わなきゃよかったと後悔。


 とりあえず攻撃が効かないことにはどうしようもない。なので一旦引き上げることにした。



     ◇



 さて、ガイルに戻ってきた。


 いつもより少し早い時間だし、すぐに解散しないでお茶を飲みながらミーティングをすることになった。


 今日は紅茶にしようかな。香り高く綺麗な黄金色、ダージリンのファーストフラッシュだ。


 私が紅茶を用意している間にアルクが苺のババロアを出してくれた。新しく取り付けた冷蔵庫を使って作ってくれたのだ。


 真ん中が開いたエンゼル型を切り分けてお皿に盛り、苺やジャムで可愛く飾りつけもしてくれる。いつも通りの売り物になるレベルだ。うん、すごく美味しそう。


 なめらかな口当たりのババロアを味わいながら、私達はさっそく先程の魔物について話し合った。


「剣が通らないことにはどうしようもありませんね」


 杖も効かないしねぇ。


 ちなみに迂回して通り過ぎるのはどうだろうと思ったけど、みんなにはそういう考えはないみたいだ。


「炎が効いてたみたいだし、騎士団長さん呼んでくる?」


 喜んで来てくれそうだと思う。


「そうですね、副騎士団長に交渉してみましょう」


 マリーエさんの言葉に本人へじゃないんだなとちょっと思う。


 あとはやっぱり森で何かアイテムを見逃しているんじゃないかなという話もした。この階だけ未だにドロップもないし気になっていたんだよね。


 今までそれなりに武器とかも出ていたし、あの魔物に対抗できるものがあったかもしれない。ダンジョン製作者がクリアさせることを前提に考えていたらの話だけど、可能性はあるように思う。


「戻ってみる?」


 聞いたらみんながうーんって顔をした。


 結構進んだしね、また戻るとなると確かに面倒くさい。アイテムがあるかどうかも不明なら尚更かな。ただ、エミール君は自分もダンジョン武器が欲しいみたいでちょっと考えていた。


「アイテムがあったとして、どんなものでしょうねぇ」


 ロイさんが突然そんなことを言い出した


 え、うーん。武器だとしてあの魔物に有効だとすると炎か氷系?


「対象を凍らせるアイテムとか?」


「凍らせる、ですか?」


 ちょと不思議そうな顔をされた。


「そう、あの魔物を凍らせて……」


「凍らせて?」


「砕く?」



「「「え」」」



 言ったら何故か引かれた。


「え、え、なんで? よくありそうな方法だと思うけど……」


「……いえ、あまり聞いたことはないかと。なかなか恐ろしい戦法ですねぇ。さすがリカ様」


 ロイさんが面白そうな笑顔だし、マリーエさんとエミール君にはなんだか怖がられている感じ。


 ありがちだと思ったけど、そういえばこちらではあまり魔法みたいな攻撃はできないんだった。凍らすとかそれこそダンジョン武器でもなければ無理だよね。


 しかし恐ろしいとか言われてしまったんだけど……。


 砕くが駄目だったのかな。みんなあんなに切りまくってるのに何で砕くは駄目なんだろう。そんなに変だった?


 横を見たらアルクはあきれた顔をしてた。


 結局、騎士団長さんを呼ぼうという話で落ち着いたんだけど、やらかしたよね。


 お話とかゲームの話を「よくある」とか一般的な話としてするのはやめようと思う。



 うん、ババロアが美味しい。




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