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 幸い出てきている魔物はまだ数が少なく分散している。こちらの戦力でも対処できそうだけど油断は出来ない。


 騎士団に混じってエミール君やロイさんも戦っているけど、どうもダンジョンの魔物より数段は強い様子だ。苦戦とまではいかないけど倒すのに時間が掛かっている。


 アルクはみんなの援護をしながら魔物がこの会場から出ないように風を操っているけど、ちょっと範囲が広くて大変そうだ。


 そして黒い球体から伸びる異形の手。


 先程よりも外に出てきているように見える。そして……別の場所からもう一本の手が出てきた。


 マリーエさんがその脚力で空中に飛び、球体に切り掛かったけど弾かれる。


 続けて騎士団長が振るう大剣から刃が飛び、手を切りつけた。


 何あれ、居合みたいなヤツ?


 よく分からないけどなんか凄い。さすが騎士団長、中身はともかく騎士団を率いるだけの実力はあるみたいだ。


 その後もマリーエさんと騎士団長の攻撃は絶え間なく続き、球体はびくともしないが手には確実にダメージを与えられているように見えた。そして多少押し戻したと思われた時、球体の向こうが白く輝いた。


 やばい。


「全員退避っ!!」


 ありったけの大声で叫んで杖を掲げた。


 一瞬の後の光の攻撃。


 防御膜が激しく揺らめきバチバチと異様な音が辺りに響く。


「あっぶなー」


 さっきよりどう考えても出力の高い攻撃だった。どうも連続では撃てないみたいだけど、あんなのが続いたら確実に死ぬ。


 残っていた魔物は光に焼かれて大半が消滅していたからこれはラッキーだったけど、また球体から出てくれば同じことだ。


 困った。あの球体を消す方法が分からないとどうにもならない。


「ロイさーん、対処法、何か知らないのっ?」


 唯一、この現象のことを知っていたロイさんなら何か知っているかもと聞いてみた。ロイさんは少し離れた所で戦っていたる。


「えー、知りませんねぇ。リカ様の方がお詳しいのではー?」


 そんな、私は扉は出せるけどこんなのの対処法なんて知らないに決まってるでしょう。


 あー、もうっどうしたらいいのこれっ?!



「扉をしまう時はいつもどのように?」


 またいつの間にか近くにいたロイさんに聞かれた。


「え、特に意識はしてないけど……閉めると勝手に消えるし」


「アレも閉められませんか?」


 指さす先の球体。異界の入り口、いや出口?



「……閉める……」



 球体を見つめてなんとなく集中。バチバチっと塊の周囲が反応したような気がした。



 もっと集中――


 閉める、塞ぐ、閉じる、封じる、閉ざす……。



 ググっとわずかに歪む黒。



 強い反発を感じるけど、手応えがある。


 だけどなんだか頭がズキズキしてきたし、冷や汗がにじんで私自身が後ろに押し戻されるような感覚もある。


 体が一瞬後ろによろめいた。


「あっ」


 トスンっと受け止められ、見上げるとアルクの顔がそこにあった。後ろから私を支えてくれるアルクの顔はすごく心配そうだ。


「……大丈夫だよ」


 思わず言ってしまったけど、うん、まだ大丈夫。


「無理はするな」


 そうは言うけど、ちょっと頑張らないとでしょ、ここは。



 私は起き上がり、杖を支えに体を安定させた。さあ、もう一度だ。


 深呼吸して



 ――集中っ!!



 やがてグググググっと目に見えて球体が縮小してきた。


 だけど手はそれを拒むように外側へ伸び、腕を付き出してくる。そして球体を引き裂くような動きを見せた。


 アイツが、出てこようとしているのだ。



 もっともっと。もっとだ。


 力を集中させる。


 あと少し……。



「マリーエさん、団長、お願いしますっ!!」



 二人が同時に飛び上がり剣を大きく振り上げる。


 マリーエさんの剣は輝きを増し、見たこともない大剣へ形を変える。


 騎士団長の剣も同じく輝き、その刀身に炎が宿った。


「「はああああっ」」


 渾身の力で振り下ろされる二つの剣。


 私もありったけの力を込める。



 叩きつけられる、力。



 閉じる力と剣の威力で、腕が、落ちる――



「グァーーーーー」


 向こう側から響く魔物の絶叫。



 黒く渦巻く球体が一瞬輝き、内側へと吸い込まれるように縮小し




 やがて、消滅した――





「……お、おわっ……た……?」




「「「うおぉぉぉー!!!」」」


 なんか野太い雄叫びが上がった。




     ◇




 とりあえず危機は去った、らしい。


 疲れたー。


 もうそれに尽きる。


 私達って何しにここに来たんだっけって感じだよねぇ。はぁー。



 異界が閉じた後、会場はそれはもう酷い有様だった。魔物の体は消滅していたけど、その血や体液はそこかしこに残って悪臭を放っているし、壁は削れたり崩れたり焼かれたりと周辺のロビーや庭までボロボロの状態だった。


 住居部分はなんとか無事だったので屋敷は半壊といった感じだけど、これは再建に相当時間が掛かりそうだと思う。


 幸いにも死者は出ず、怪我人がいても招待客が逃げる時に転んだりだとかの軽傷だったり、騎士達の怪我も命に別状のないものばかりとのことでほっとした。


 私は騎士には治療するようにとポーションを渡したんだけど、それはもう拝むような眼差しを受けることになってしまってちょっと後悔したりしなかったり。


 後処理の指揮はここで一番地位の高いエミール君が執っている。騎士団長やロイさんも居るから大丈夫だろうと思うけど、これって今後どう処理するつもりだろう。色々大変そうだし、本当になんでことに巻き込まれたのか、きっとクロフトさんや殿下もびっくりだろうね。


 私は今、辛うじて無事だった長椅子でアルクに膝枕をしてもらって横になっている。特に怪我とかはないんだけど、とにかく疲れていた。だけど、どうにも興奮状態が続いていて休めないんだよねぇ。


 気絶したりできれば楽で良かったんだけど、アドレナリン出過ぎ、交感神経が頑張り過ぎてて非常に困っている。なのでアルクに頼んでゆっくり静めてもらっているところだ。


 両眼を覆うアルクの手が冷たくて気持ちいい。


 しみじみ思う。


 私に戦闘は向かないです……。



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