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 大きな音を立てて開いた扉に会場中の注目が集まった。


 扉の勢いとは逆にゆっくりと会場に入ってきたライナスは数歩進むと立ち止まる。なんというか無表情に佇む姿が非常に怖い。


 会場より高い場所から辺りを見渡したライナスは、ある一点で視線を止めた。


 口角を上げ、無表情から一転、不気味に笑うとゆらりと片腕を持ち上げる。


 何をするつもりだろう。その異様な雰囲気に誰もが驚き自然と会場は静まりかえっている。



 彼が手に持っていたのは杖だった。


 あれ? どこかで見たことがあるような……。


「あれはあなたの杖と似ていますね」


 突然ロイさんの声がした。


 いつの間に私の側に来たんだろう。


 びっくりしていたらアルクにグイっと引き寄せられ、ロイさんから離された。まったくもう。


 だけどロイさんの言葉が本当なら、あれってダンジョンの杖ってこと?


「え、それってまずいのでは?」


「まずいですねぇ。想定外です」


 ライナスは杖を掲げて話し出す。


「マリーエ、お前が悪い、お前がすべて悪い」


 何を言っているんだか、責任転嫁も甚だしい。


「だからこれから何が起ころうが、すべてお前のせいだ。俺は悪くない!」


 杖が輝きひと回り程大きくなった。先端の石は赤黒く、不気味な光を放っている。


 一体ライナスはどうするつもりなんだろう。辺りが緊張感で包まれる。


「ねえ、あれって何の杖?」


 ダンジョンの杖かはともかく、すごくヤバそうな感じがする。


「さあ? はめられた石は見たこともない色です」


 私は袂の鞄から取り出した杖を構えた。力を込めると杖は輝き、私の背丈の倍はある大きさに変わる。


 なんかね、私が持つと何故かこの大きさになるんだよ。ちょっと大き過ぎる気がするけど調整出来ないでいる。


「ここであったことはすべて無かったことになる!」


 ライナスが尚も叫ぶけど、無かったことってどういうことだろう?


 そう思った瞬間、ライナスの持つ杖の先から光が生まれ、一瞬集約されたかと思うと一気に光が爆ぜた。



 そして空中に現れたのは……渦を巻く黒い球体。



「……これはまさか、異界召喚?」


 ロイさんが驚きの声で呟く。


「何それ?」


「昔何かの文献で読みました。この世界と異界を繋ぎ、魔物を呼ぶ方法があると」


 はあ? まともな攻撃魔法はないのに召喚魔法はあるの?


「あなたの扉と原理は同じでは?」


「私、魔物じゃないし!」


 握りしめた杖に私は更に力を込めた。


 杖の大きさと威力は比例する。防御範囲が広がるから、この状態ならギリギリこの会場を覆えるはず、だ。


 防御膜はこちらの意思で張ることが出来ない。攻撃の瞬間に反応して展開するのでやってみないと分からないっていう困った仕様なのだ。


 何が来るか分からないけど、果たして防ぎきれるだろうか。


 そう思った瞬間、黒い球体から無数の鋭い光が放たれた。


 圧倒的な光と熱。


 え、これってレーザーとかそういう類じゃないのっ!?


 私の杖はちゃんと機能してくれた。防御膜が激しく反応してバチバチと凄まじい音をたてているけど、中に居る人達は無事だった。でも膜の外側は壁が削れたり丸焦げだったりとその攻撃の凄さを物語っている。


 あれは、ヤバイ。


 威力を目の当たりにして腰を抜かす人、叫ぶ人、当たり前だけどみんなパニックになった。


 逃げ惑う人で辺りは騒然となる。出入口に人が群がり、押されて倒れ込む人やその上に人が重なったりと危険な状態だ。 


 まずいな、そう思った時、あたりに大きな声が響いた。


「落ち着け!!」


 ベイリー騎士団長だ。


「団員は避難経路の確保、誘導を急げ! 一般人の退避が第一優先だっ!」


「「「はっ」」」


 そこからの動きは迅速だった。さすがだね。


 人々は怯えながらも冷静な騎士達の指示に従っている。第二波が来る前に避難が完了するといいんだけど。さっきの攻撃がまたこないか不安だ。


「リカ様っ!」


 私はマリーエさんと合流した。うん、彼女も無事だったようで安心した。


 先程から空中の球体から何匹もの魔物が出現していたけど杖の防御で攻撃は防いでいる。あの位ならなんとかなるけど、先ほどのレーザーのような攻撃が何度もあれば防ぎ続けられるかは怪しい。


 早くあの球体自体をなんとかする必要があると思っていたら、渦巻く暗闇の奥から今度は鋭い爪を持った禍々しく大きな手が伸びてきた。


 いや何あれ、大きくない?


 手は球体を広げようとしているのかメリメリと軋むような音がする。そしてそこからまたレーザー攻撃が放たれた。


 バチバチっと防御膜が揺れる。


 もしかして……あの手の持ち主が攻撃してる?


 これは、出てきたら相当マズイ相手なのでは……。



 私はマリーエさんに預かっていた剣を渡した。


「切れそう?」


「やってみます」


 剣を鞘から引き抜き球体を睨むマリーエさん。


 杖の防御は強力だけど、こちらから攻撃するには防御を解かないといけない。やっぱりこの杖、使い勝手が悪い。


 招待客達の避難は順調のようだ。騎士団の面々が徐々にこちらに集まって来た。


「リカ殿、どうする?」


 騎士団長もやってきたけど、どうして私にそれを聞くのかな。どうせなら避難指示だけじゃなくて攻撃の指揮もお願いしたいんですが……。


 だけどこうしている間にも四方から攻撃は続いていて、その度に防御膜が揺らめき魔物が弾かれている。


 そして何故か私に集まる視線。


 ……ねえ、本気で私に指示を出せと?



 もう、知らないからねっ。


「防御を解きます。これ以上魔物が増える前に一気に叩きましょう。マリーエさんと騎士団長は「球体」と「手」をお願いします」


「はいっ」


「応」


「他の人は魔物を各個撃破、アルクは外に魔物を出さないように援護して」


「「「はっ」」」


 騎士団の良いお返事。


 素人の命令によく従えるよねーと思いながらもこちらも必死だ。下手したら死んじゃいそうだしね。


 私は意を決して杖の防御を解いた。


 頼むよ、みんな。



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