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「マリーエ・デイルズ! 私はお前との婚約を破棄するっ!!」


 ライナスはデイルズ家の人達がいる場所に近付くとマリーエさんを指さして宣言した。


 いきなり始まった婚約破棄。


 まさか本当に実行するとは思わなかった。というか、よくロイさんはライナスを誘導したものだと思う。こういう場所での婚約破棄なんて双方にダメージがあり過ぎると思うんだけど、ライナスはそういうの気にしないんだろうか。


 だけどライナスのお父さん、ボーグは顔をしかめている。あれ、これはもしかしてお父さんに何も言ってないのかな。あーあ、知らない、後でめちゃくちゃ怒られるよぉ。


 ざわつく会場。集まった人々は何事かと驚き、突然声をあげたライナスに注目が集まる。


「ライナス様、それは一体どういうことでしょうか?」


 マリーエさんが一歩出てライナスに問いかけた。


 うん、マリーエさん綺麗。このマリーエさんを前によく婚約破棄とか言えるよねって思う。


「相変わらず頭が悪いな、これだけはっきり言ってやっているのに理解ができないとは……」


 フンッ、と莫迦にしたように笑うライナスは、マリーエさんがいかに自分にふさわしくないかを語り始めた。曰く、可愛げがない、女性として慎みがない、男を立てようという気遣いがない等々。


 ライナスは初めの緊張した様子はどこへいったのか、会場の視線を一身に受けて気分が高揚してきらしい。何故か得意そうにマリーエさんへの暴言を吐き続けた。


「さらにお前は自分の不出来を棚に上げ、妹を虐げるような性悪な女だ。私がそんなお前と結婚する訳がないだろう。大人しく自分の罪を認めて身の程をわきまえろ!」


 自分の言葉に酔っているように見える。


 だけど妹を虐げる? どういうことだろう。


「私は妹を虐げたことなどございません。何かの間違いです。どうしてそのような事をおっしゃるのですか?」


 マリーエさんも困惑気味に訴えるけど、ライナスは更に言葉を続けた。


「ふん、口では何とでも言える。私は知っているのだ、お前が妹を羨み、私と結婚したいが為に妹から婚約者の座を奪ったことを!」


 え、どういうこと? ちらっとロイさんを見たらイイ笑顔で笑っていた。


「そんな……」


 マリーエさんはまさかのえん罪、というか曲解された内容に唖然としているけど、ライナスはそれを別の意味に受け取ったらしい。


「今更しおらくしようがお前の本性は分かっている。お前の企みなどすべて明らかなのだ! 私がお前と結婚することなどあり得ない、何を言おうがお前との婚約はこの場で破棄するっ!!」


 再び高らかに宣言するライナス。何だか出来の悪いお芝居でも見ている気分だった。


「……分かり、ました。ライナス様がそうおっしゃるのなら……婚約破棄を受け入れます」


 下を向き、肩を震わせながらマリーエさんは静かに告げた。


「そうだ、お前のような女は誰からも相手になどされないだろうが、精々私の邪魔をせずに大人しくしていればいいのだ」


 勝ち誇った笑みを浮かべながら満足そうに話すライナス。そしてマリーエさんの背後に顔を向け、手を差し出すとこう続けた。


「さあ、リリーナ、こちらに来なさい。君の望み通り私は君と婚約しよう。今日は私と君の結婚発表パーティーだ!」


 リリーナさんへ集まる視線。


 戸惑いながらもリリーナーさんは前に出てきた。そして言う。


「無理です」


 決して大きくはなかったけれど、その声は会場にはっきりと響いた。


 静まり返る会場。


「……え、何を? 何て言ったんだいリリーナ……?」


「無理だと申し上げました。私はライナス様と結婚出来ません」


 リリーナさんは静かに、しかしはっきりと告げる。


「いや、しかし、私は君の姉との婚約は破棄した。もう何も障害はない、心配はいらないんだ」


「ですから無理です。そもそも何を勘違いされているのか分かりませんが、私は姉に虐げられていませんし、あなたとの結婚など望んでいません」


「……えっ……?」


 みんな面白そうなことは大好きだよね。会場は今やこの喜劇がどうなるのか、固唾を飲んで見守っている。


「私には婚約者がいます。なのであなたとの婚約は出来かねます」


 リリーナさんからの完全なる拒絶と婚約者の存在を知らされてライナスは狼狽えた。


「な……何を……だって君は私の事を……それに婚約者など、君にそんな相手はいないはず……」


 ライナスはリリーナの言葉に混乱する。


 しかしそこへ新たな人物の声が響いた。


「遅れてすまない、リリーナ。しかしこれはどうしたことだろう、何があったんだい?」


「エミール様!」


 颯爽と、しかも完璧なタイミングで現れたエミール君はリリーナさんのもとへと歩み寄っていった。本人は意識していないだろうけど、自然と視線を集めるのはさすが領主一族というかオーラが違う。


 会場がざわめく中、「あれは確か……」「もしかしてあの方は」といった声があちこちで聞こえる。彼の顔を知っている人がいるらしい。


 エミール君の衣装はリリーナさんと同色で、いかにも婚約者同士らしい揃いのデザインだった。駆け寄ったリリーナさんと並ぶとなんともお似合いの二人だ。


「な、なんだお前は!」


 叫ぶライナスにエミール君はゆっくり視線を向ける。


「ああ、君はボーグ家の人かい? パーティーに遅れた非礼をどうか許してほしい。大事な婚約者の姉上の結婚発表だと聞いてどうしても参加したくてね。ただ、所用で少々時間を取られてしまったんだ。大変申し訳ない」


 一応の謝罪を口にするけど、上位者の態度は隠さない。


「ところで、これは一体どういう状況なのだろうか?」


 にっこりと笑顔で問いかけるエミール君。名乗らないのはわざとかな?





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