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 私は今、非常に不満である。


 何故なら、せっかく持たせてもらった杖なのに、全っ然、使う機会がないっ!


 なんで?


 宝箱から杖を見つけたあの日、試しで私も一度だけ使ってみたんだけど、その後まったく使用していない。というか使わせてもらえない。


 理由は危ないから。


 危ないのは私以外のみんなね。コントロールが効かないから絶対に周りを巻き込むってことで、みんなが使っていいよと言うまで使用禁止になっている。むー、納得いかないー!


「そのうち活躍できる機会がありますよ」


 そうマリーエさんは慰めてくれたけど、結局今までと変わらない状況に私はがっかりだ。アルクは防御に使えばいいって言うけど、そうじゃないんだよ。


「杖ってこんなに使えないものなの?」


 思わず聞いたら「使用例が少なすぎるから何とも言えないですね」とロイさんが教えてくれた。


 実は他のダンジョンでも同じような杖は発見されたことがあるらしく、王城の宝物庫にも納められているらしい。また国宝級ってやつ?


 杖があれば誰でも魔法使いになれるのにと思ったんだけど、まず杖の存在数が少なすぎるらしい。


 魔石を使って杖の作成が行われたこともあるようだけど、作成が非常に難しく威力もイマイチ。あとめちゃくちゃ高価で買う人がいない。いたとしてもお金持ちが観賞用に買うくらいで、決して冒険者が買って使えるような代物ではないそうだ。


 さらにダンジョンの杖は価値があり過ぎて値段が付かないとか、つまり誰もまともに使ったことがないのが現状らしい。なんだそれって感じだよね。


「ぜひ杖を使ってその記録を取らせて下さい」


 ロイさんはぶれなかった。


 とにかく、私は現在ダンジョン内にいる時は常に腰のベルトに杖をはさんで歩いている。検証の結果、この状態でも危険があると防御の膜が反応することが分かったからだ。


 防御用の腕輪はまだ見つかっていないけど、一応目的の機能を備えたアイテムを見つけられた訳だ。喜ぶべきなんだろうけど……やっぱり納得いかなーいっ!




     ◇




 その後も私達はダンジョンに潜ったり、ロイさんの指示でそれぞれ動いたりとなかなか忙しい日々が続いている。


 今日は騎士団を訪問する予定で、アルクとマリーエさんと一緒に騎士団の訓練所や宿舎がある区域に向かった。


「こちらが私が所属する騎士団の詰め所です」


 マリーエさんが案内してくれた建物は、入り口の両脇に騎士が立っていてなかなか物々しい。建物や周辺を囲む壁も頑丈そうな石造りで、どこか人を寄せ付けない雰囲気だ。


 私達は入り口横の受付で約束のある事を告げて門をくぐった。なんか緊張するー。


 通されたのは応接室。役所の応接室と違ってすごくシンプルで殺風景な部屋だった。応接室までの建物内もだけど、必要最低限の物だけ置かれていて質実剛健って感じ?


 しばらくすると……なんというか、想像以上の凄い人が来た。


 二メートルくらいはあるんじゃないかっていう長身に、服を着ていても分かるムキムキの筋肉。


 マリーエさんを見慣れているのと、他で見かけた騎士がみんなスラっとした体躯の人ばかりだったから自然とそういう人が来ると想像してしまったんだけど……騎士にはこんな、いかにも強そうな人もいるんだなって驚いた。


「待たせて申し訳ない、私がこの騎士団の責任者で騎士団長をしているアルバン・ベイリーだ」


 良く通る大きな声で挨拶してくれるベイリー騎士団長。


「お噂はかねがね。お会いできて光栄だ」


 ニカって笑った顔がなんだか悪戯っぽくて、ちょっと面白そうな人だなと思った。


 もちろん騎士団長は私のことを知っている。私の護衛にマリーエさんを推薦したのはこの人だとも聞いていた。


 騎士団長さんは先日のパン祭りのパンが非常に美味しかったとすごく嬉しそうに話してくれた。特にカツサンドがお気に入りなのだそうで、食パンは騎士団の食事にも加えてくれているらしい。


「うまいものを食べると力が出る」


 そう言って豪快に笑う騎士団長さん。うん、悪い人じゃなさそうだよね。


 私達はその後も少し世間話を続けたんだけど、話の途中でマリーエさんが呼ばれて席を立った。実は面会の約束をした時に彼女を部屋から連れ出して欲しいとお願いしてあったのだ。


 マリーエさんが部屋を出るのを見届けると、おもむろに騎士団長さんが切り出してきた。


「さて、マリーエ抜きでどんな要件だろうか?」


「実はですね、ちょっとお力をお借りしたくて……」


 マリウスさんが話をしてくれているので騎士団長さんはこちらの事情を知っている。


 私は今回の訪問の理由を話し、あるお願いごとをした。ロイさんに言われた指示ではあるけど、これは私も気になっていたことだった。


 騎士団長さんは真摯に私の話を聞いてくれた。そして少し考えてからひとつ頷くと了承してくれた。


「そういうことならば……ふむ、心当たりはあるな。よしいいだろう、ぜひ協力しようではないか!」


 そう言ってとても良い笑顔を見せてくれた。これはなかなか心強い。お任せして大丈夫そうかな。


 その後は今後の事を話し、マリーエさんが戻るのを待って騎士団を後にした。


 帰り道では今日の面会理由を知らないマリーエさんに「騎士団長とは何のお話だったんですか?」と聞かれてちょっと困ったりなんてこともあったけど、なんとかミッションコンプリート。


 緊張したけど頑張ったよね、私。




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