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4,このときはまだ
黒江さんが出た後、僕は落ちていた鉛筆を拾って教卓の上に置いた。
そして美術室を出て、昇降口に向かった。
今日は色んなことがあった。
歩きながらさっきまでのことを思い出す。
廊下に子パンダがいて、追いかけたら美術室に入って、黒江さんに会って、不思議な力を見せてくれて、ちびのことを話して……思わず一人で笑ってしまう。
こんな楽しい時間は高校に入ってから初めてだった。
今まで学校から帰るときは、むなしいような、悲しいような、胸に穴が開いたような気持ちがした。
学校にいる間、ずっと独りぼっちだったから。
でも今日は違った。
明日はまた黒江さんに会える。
そう思うと明日学校に来るのが楽しみだった。
そう、このときはまだ、黒江さんに会えたことを純粋に喜んでいた。
友達になれるかもと期待していた。
だって、始業式の日からずっと独りぼっちだったんだから、そう思っても無理ないよね?
まさかこれが僕の屈辱の日々の始まりだなんて思わなかった。