第17話 Ⅰ型Ⅱ型といえば
「他種族は仕方がないだろう。」
「仕方が無いって?」
「他人に、他種族は含まれない。なぜなら人ではないからな。」
兄上の問いかけにぬけぬけと非人道的なことをほざく男は、悪びれもせずに言葉を吐く。その言葉に僕の頭は沸騰しそうになる。
「何が仕方が無いんだ!」
「うーんと、、つまり?」
僕の声を無視してスリーはまたレッドに尋ねる。なんだってそんなことを!気狂いにそんなことを訊くだけ無駄だ!カルトに洗脳された人間のいう言葉なんて虫唾が走る!
案の定、男は自分が正しいと信じて疑わない瞳で、悪びれもせずに大変なことを言い放った。
「世界を救うためだ。」
「子供を殺して?」
「一人の犠牲で、数億人が助かるんだ。仕方ないだろう。我々は未だ大陸を失って生きていける程強くはないのだ。」
「そっかぁ。。。。なるほどね。」
・・・・こいつは、何を言っている?
僕にはこいつの言っていることが1ミリも理解できない。理解したくも無い。けれどその言葉に得心がいったといわんばかりに頷くスリー。
姉上も理解できないのか、一人だけ納得しているスリーに声を掛ける。
「どういう意味ですか兄上?」
「聖書の第五章肆節『大地焼失』によればさ、『害虫に蝕まれた世界を浄化するため、女神は業炎で生きとし生けるものの母なる大地を焼焦する』てあるんだよ。」
「それで?」
「害虫てのは僕達が属する純人族以外、つまりⅠ型純人以外の獣人/魚人/魔人/森人/鉱人/龍人と差別用語で表現される『Ⅱ型からⅦ型までの純人、その他諸々』を指すのが今の教会の主流なんだよね。」
「えっと、、、、つまり社会にその『Ⅰ型純人以外の害虫』が一定割合以上存在すると女神から『蝕まれた』判定が下り。。。その、大陸が燃えるとでも?」
「ていうのが教会の主張だね。」
「だから殺すってことですか?大地焼失を防ぐために?」
話を整理しながらも促す姉上。その目はレッドをみている。その姉上に同意するように頷いたスリーは、肩を竦めながら付け加える。
「彼等としても、進んで殺したいわけじゃいけど仕方なく、てことなんだろうね。」
姉上の怪訝そうな顔に、スリーはなんでもないかのように首を縦に振る。
「まとめれば、『普段は温厚なⅠ型純人様の慈悲で愛玩動物として生かしてやるけど、繁殖しすぎて社会に進出されると世界の破滅だから処分しなきゃ』ってわけさ。」
出鱈目で悍ましい主張。自己のことしか考えていない身勝手な意見。それが、教会の考え方というわけなのか。
しかし姉上の疑問はまだ尽きていないらしく。納得のいかない顔付きで兄上に質問を重ねていく。
「獣国って戦争国家だけど、あれが最先端ですよね?頭良くない方の脳筋種族国じゃないですか。そんなに社会デビューこなしているセカンドタイプいませんよね?」
「サーシャ様が王国の王族になれば、セカンドタイプの社会的地位が上がる。そうすれば王国におけるセカンドタイプの割合が増えるって考えたんじゃない?」
「はぁ。」
「ほら、王国って腐っても大国じゃん?その王国でのセカンドタイプが増えるってことはそれすなわち。。。。てことじゃない?」
「ええ。。。」
「話が三段階くらい飛躍してるけど、風が吹けば桶屋が儲かる理論でしょ。加えて信じたいものしか見ない感じだしねー。」
スリーと姉上の意味の分からない会話が繰り広げられるのを呆然と聞いている僕。
・・・彼等が何を言って何に納得しているのか分からない。分かりたくもない。そもそもなぜ、悪人のいう言葉を鵜呑みに信じているんだ?
こいつの話なんて聞く価値もないだろう?赤仮面は自分の思考を宗教に委ねるただの馬鹿者じゃないか。
こんなのだから聖女であるレリジオンは、教会の将来を憂うなんてことになっているんだ。
「せめて真偽の精査をして欲しかったですね。。。」
「ああ使徒よ、こんな古臭い本を信じているとは情けない、てか?」
うんざりした表情の姉上と、ケラケラと愉快そうに笑うスリー。そして二人は赤仮面ことレッド=ホワイトマスクの顔を見る。彼は馬鹿にされたことに腹を立てているのか、烈火の如く勢いで声をがなり立てている。
「煩い!!神の言葉は絶対なのだ!!」
「踏み絵や焼本でもこう言うってことは、よっぽどの事が無い限り嘘は吐いてないよ。」
「笑えないですわね。。。。。」
「本人には悪意がなくて義侠心からの凶行っていうのが性質悪いよねー。」
兄上と姉上の言葉に、増々怒りを募らせるレッド。その顔は憤怒一色。
「煩い煩い煩い煩い!!!お前らのような下等生物には、主の御言葉が聞こえないからそういるのだ!」
「お前もだろ。。。。??」
「俺は毎日神の声を聴いている!!」
「幻聴でしょ。」
「クスリでもやって?ヤクは駄目だよー。」
バッサリと切り捨てた姉上に便乗して、おちょくる兄上。そんな二人の言い方に、益々怒りを露にする赤仮面。
「黙れと言っている!!!俺は神の遣いだぞ!!」
「うんうんそれなら仕方ないねー。じゃあ牢屋に入れるかぁ。良かったでちゅねー神様対応の牢に入れてあげまちゅからねー。」
そう言って兄上は縄を取り出し、レッドに掛けていく。
「例え俺を投獄しようとも、その紛い物を生かすことだけは許されない!神が許さない!俺達教会が許さない!」
「ちょ、暴れるなよ。」
赤子に話しかけるかのように赤仮面に述べる姉上とは対照的に、スリーはげんなりした顔で呟く。
「フォー、コイツ処分しちゃ駄目?暴れられるとマジで面倒だよコイツ。」
「一応ここは、王と法が支配する国家ですわ。裁判なしで殺害はだめですよ。」
「フォーは以前に自分がしたこと理解してます?思いっきし殺してたよね。」
「私はセーフです。優秀な部下がいますから。」
「え、それ関係ある?」
「ええ、兄上には無い物ですから。」
「???俺にだって部下の一つや二ついるよ?」
「ふざけるな!!近い未来に沢山の民が死ぬ!数多の犠牲者がでる!だからその犠牲を最小限にする為に殺すのだ!」
姉上達が赤仮面の処遇を相談していると、まだ叫び続けている男。一体何が彼をここまで駆り立てるのか。これだから宗教は嫌いなんだ。
「小娘たった一人で、未来の世界が救われるんだぞ!なぜ殺そうとしない!」
「うーん。。。。」
姉上は首を分かり易く傾け、分からないって全身でアピールしている。当然レッドを馬鹿にしているのだろう。
「おい、俺のどこが可笑しい!何が間違っているっていんだ!このままだと何万という子供が将来焼け死んでしまうのだぞ!!それをたった一人で抑えられるんだ!」
まんまと挑発に乗った赤仮面を見て、うんざりした顔でスリーは彼を見る。
「その考え方は傲慢じゃないかな?ならお前が死んででもガキを全部救う策を思いつけよって話。」
「話が逸れてますわ。そもそも焼失の真偽が不明ですし。。。」
「黙れ!大局を見ろ!上に立つものならその責任から逃れるな!殺せ!」
「殺せとか。怖い。。。。私、すぐ『死ね』とか『殺せ』とか言う人苦手です。」
「殺すのが怖いなら、お前が死ね!そんな覚悟で人の上に立つな!!」
「なんでお前がそんなこと語っているんだよ。」
「黙れ!殺すぞ!!」
「え、会話しよ?言葉のキャッチボールしようぜ?会話は人類最大のイノベーションだよ?」
そして僕には何故か。
兄上と姉上が投げかける空虚な会話が、とても不気味なものに思えた。




