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弟が優秀すぎるから王国が滅ぶ  作者: 今井米 
テッテレー!!レベルが上がりました!
89/200

第13話 母

「・・・フォー。」


「あら、どうしましたサーシャ様?」




そんな空気のなか、フォー姉上に声を掛けた少女が一人。


青葉の様な緑色のある茶髪に、翠色の目をした少女。頭にピンと張った耳と、服から見えるふさふさの綿毛のような尻尾があることを除けば、僕らと全く同じ人間だ。



そんな少女は、おずおずとした様子で口を開く。



「獣国において、肉と野菜を同時に出すのは不敬に当たる、、、らしい、です。」


「らしい!?え、どっち。。?」




可愛らしくこてんと首をかしげるサーシャ様は、王国との友好の印として父に嫁いできた獣国の王女様だ。何故かその婚姻は見送りになったけれど、それでも我が国の準王族として王宮に住んでいる。



「私の父も母も、肉食だったから肉しか出たことが無い。でもそういう話は聞いたことがある。」


サーシャ様の言葉を聞き、姉上は後ろを振り返る。そこにいるのは姉上の使用人、シェードさん。


「シェード、どういうことか分かる?」



「詳しく調べてみますが、恐らくそれは獣国のナクラ地方の文化かと。」



「ナクラ地方?そんな場所あるの?」




フォー姉上の言葉に僕も記憶を探ってみる‥がない。だから僕もシェードさんを見る。するとシェードさんは空を見て、思い出す様に知識を口に出す。



「遥か昔獣人の楽園『ズーピア』の12層を故郷とする一族が住む土地のことをそう呼ぶと記憶しております。」


「あらそう。」


「・・・ごめんフォー。私が間違っていたのかもしれない、ですよ。」



申し訳なさそうに俯きながら謝罪するサーシャ様に対して、フォー姉上は屈託のない笑顔でこう言った。




「大丈夫ですわサーシャ様。こういう文化の齟齬を一つ一つ刷り合わせていくのも異文化交流の醍醐味ですから。」




最近13歳になられたサーシャ様は、よく姉上とともにいる。どうしてだろうか。思えば始めの方から姉上に懐いていたよね。




何故だか僕には分からない。サーシャ様が一番懐いているのがあんなひどい事を言っていた姉上と兄上だなんて。獣人を軽視した発言をサラサラと述べたあの二人の傍にいることが一番多いだなんてなぜなのだろう。



それにこんな妹を慈しむような、聖女みたいな性格の姉上が、あんな拷問するなんて信じられる?




そして3日ぐらい飯が喉を通らなかった僕らとは違って、兄上とフォー姉上はその後何事も無いかのように昼食を召し上がっていた。




それだけ、フォー姉上にとってあの行為は歯牙にかける価値のない事柄だったのだろうか。




もしそんな人なら、サーシャ様が懐くだろうか?




そんな人が、僕の友人を助けるだろうか?




3億Gという決して小さくない借金を建替えて、スリー兄上とワーン兄上に話を通して追撃を止めるように話をするだろうか。




分からない。僕にはまだ分からないことだらけだ・・・・




家族のことですら僕には分からない。


「というか男共は早く飯食べなさいよ。冷めてしまうわ。」



「うぃーす。」



「あ、はい。頂きます。」



姉上の言葉を聞き、僕とスリーは急いで皿の品を食べる。



フォークを掴み、空飛鯉のソテーを口に運ぶ。口いっぱいに広がる魚の風味と蕩ける脂。おいしい。幸せだ。


サラダもだ。瑞々しい青野菜に、甘い果実。酸味もいいアクセントになっている。


そんな時だ。


「あ。」



「どうしました姉上?」



「またかよ。」



姉上のつぶやきに、スリーはウンザリとした様子で目に手を当てる。僕がその真意を悟る前に、姉上はサーシャ様の背中を掴み、


勢いよく押した!?



「ひゃ!?」


勢いよくサーシャ様を押した姉上。



「サーシャ様は伏せて!」




一体何が?




突然の姉上の蛮行に目を奪われていた僕とは対照的に、スリーは直ちに懐から玉刀を取り出し席から立ち上がる。遅れて僕も事態に気付く。これは、、、、狙われている!?




パリン!!




僕が襲撃に気付いた刹那、窓が割れた音がしたかと思うと白仮面の男が。

…ひぃ、ふぅ、みぃ。。7人。多いな。




そんな風に思いながら魔力を練る僕とは対照的に、襲撃者を見ながら姉上はスリーに問いかける。




「スリー兄上?」




「いや俺じゃないからね。幾らファイーブを狙ってもこれはしないわ。サーシャ様は王宮の窓割って刃物を構える不埒者に心当たりある?」


「・・・・・ないです。」



「だよね。」



フルフルと首を横に振るサーシャ様を見て姉上達は言葉を紡ぐ。




「最近こういうの多くないですか?本格的に騎士と警吏に文句いいます?」


「影も見逃しが多すぎるよね。流石に文句を言わせてもらうか。」


「近衛兵の給料とか無しでもいいんじゃないですか?」



そう言う姉上の顔は本気そのもの。対してスリー兄上は笑っている。顔だけ(・・)は。



「今月でもう10回目。週刊アサシンから日刊に格上げだね。」


「そういえば今日の占いチェックしてないですわね。。。」


「どうでもよすぎる情報どうも。」



緊張感の欠片も無いまま、二人は何事もないかのように武器を構える。スリーは近接主体の逆刃持ちの構え、姉上は中遠距離用の杖を片手に半身の構えだ。



「フォーはサーシャ様を守りなよ。」



アンタ(スリー)は私達を守って下さいよ。」



「シェードさんは?」


シェードさんは懐から小太刀を取り出したかと思うと、するりと身を低く構え端的に答える。


「私が守るのはフォー様とサーシャ様のみです。」


「シェードさん!?俺は!?スリー第三王子は守ってくれないの!?」


「フォー様の命令に含まれていないので。」


「フォー!?」


「何でアンタを守ると思うのよ。死んでくれたらいいのに。」


こんな緊急事態に、なにを悠長なことを。。。


二人が暢気に話をしているのを見て、苛ついてしまう。戦闘訓練をサボっているからこうした危機感の欠如を招くんだ。僕は急いで術式を紡ぐ。一撃必殺。最大級の魔術を相手に・・・・




「ファイーブは何もしないでね。」


今まさに発動せんという所で姉上に止められる。一体どうして。。。。


「そんな危ない目に遭わせられないわ。」


「でも!!」



僕をそんな足手まといのように言うけれど!僕は姉上からの子ども扱いに納得できない。僕の方が魔術の腕は上なのに。。。


訓練では僕の方が良い結果を出しているのに。


「いやお前範囲殲滅しか行使できないじゃん。それ撃たれたら俺等も死ぬからね?俺は魔道具で自分を守れるけど、サーシャ様とか死ぬからね?それ分かっての『でも!!』なんだよね?」


う…。普段は自分一人でしか戦わないから考えたことなかった…。

でもそれだと…。



「さっきの言葉を補足するなら、『危ない目に遭う』のは私達で、そういう目に『遭わせる』のはお前って意味だからね?」



姉上の言葉にこくこくと頷き同意するスリー。じゃあどうするんだ?姉上達は実技を疎かにして、騎士団稽古もサボっているじゃないか。



僕らを見ながらじりじりと距離を詰めてくる白仮面の男達の動きは洗練されていて隙が無い。相当な訓練を積んでいるに違いない。



見たところ白仮面は手練れ。姉上達の普段の様子を見ている僕としては勝てるとは思えない。少しぐらい痛い目に遭ってでも確実に相手を仕留めることができる僕が対処するべきだ。




それでも姉上はリラックスした姿勢を崩さず杖をユラユラと揺らしながら歌を口ずさむ。この張り詰めた戦場では似つかわしくもない澄んだ可憐な歌声。




「ラーララー♪」



‥‥え?歌?

突然の行為に白仮面達からも動揺の空気が。



姉上は一体何をして 


「『沈黙(サイレンス)』!!!」


.......!!!



魔術妨害か!!



不意打ち気味の姉上の叫びを合図に、毬のように飛び出したスリーと白仮面達が刃で切り結ぶ。たたらを踏む白仮面。しかし相手は一流の戦士。それでやれるほど甘くない。



ガキン!!


「ちっ。。」



多少は不意を突くことは出来たものの、冷静に対処され力負けしてよろめくスリー。




僕に言ってくれたらよかったのに。。。




そしてその隙を逃さず一斉に襲い掛かる白仮面。符丁を合わせるように無数の凶刃がスリーを貫かんと発射される。


そして


「ドカン!!てね。」



ポン!!



可愛らしい音とともに白仮面の足が爆ぜた。




え?




脚が、なぜ?




「おっしゃ見たかオラ!!俺の『ポヨポヨ』さんは無敗なんだよ!!」




スリーのふてぶてしい声とは対照的に、痛みと無力感に絶望的な顔をした兵士から垂れる血の充満した匂いが鼻腔を刺激し、僕は思わず咳き込む。




その間に姉上は杖を振りかざしてナイフやフォークを投擲しては白仮面の手や腕を手慣れたように地面に縫い付ける。




「シェード!!」




「りょ。」




存在しない脚を呆然と見つめ、縫い付けられた双手を必死に引っ張る仮面の男達。その腕をすぐさまシェードさんが圧し折っては拘束していく。




その隙にスリーと姉上は白仮面の武具を奪っては、部屋の奥へと放っている。二人は相変わらず雑談したまま。




「シェードちゃん手際いいなぁ。。。良すぎない?教えてフォー先生。」




「もうかれこれ100人ぐらいにしてますからね。しかも毎日毎日毎日毎日。拘束三昧してればそりゃああなりますよ。」




「そっかぁ。」




「ストレスで禿げそうって言ってましたわ。」




「あ、シェードちゃん!!どうせ洗脳兵もどきだから、手荒にあつかっちゃていいよ!」




「話聞けよオイ。」



そんな二人の雑談の間に、机の下からサーシャ様がひょこりと顔を出す。どこにいたのかと思えば、ずっとそんなところにに隠れていたのか。



「・・・もう、出てきてもいい。ですか?」



「いいですよーサーシャ様。」




姉上の言葉に安堵した顔をしたサーシャ様は、とてとてと姉上の下へ駆け寄った。



「それで洗脳兵てなに、ですか?」



「ん?ああ、獣国にはいないのでしたっけ。」


フォー姉上の腕に抱きかかえられながらも声を上げたサーシャ様。その頭を撫でながら、姉上は彼女の疑問に答えていく。




「洗脳兵っていうのは命令を確実に遂行するように教育を受けている兵士のことですよ。痛みとか気にしないような訓練、というか洗脳教育を受けているので、拷問とかあんまり意味無いのですよねー。分かり易い例で言うなら教会の異端審問官なんかがそうですよ。今回のは命令に忠実だったり悲鳴を上げていないところまでは洗脳済みですが、苦悶の表情等を浮かべているのを見る限り未完成品ですね。」




「暗殺連の『蟲』なんかは、どれだけ傷つけても痛覚ないんじゃないってぐらい動き止まらないよね。」




「実際痛覚なんてないじゃないですか?機械人形って言うんでしょうアイツ等のこと。」




「それは人形差別ですぅ。人形だって痛みを感じるんですぅ。人権侵害で訴えますよ?」




「人権侵害って。。。。ていうか人形が痛みなんてどこで感じるのよ。」




「それは勿論。。。。。心さ!!!」




「ふふ、どこよそれ。」





相変わらず、悠長な雑談を挟むのはどうにかした方がいいと思う。



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