第10話 帰り道
「王宮と同じように腫物扱いされるのが怖くて堪らないのでしょう?」
うーん。。。。。。
ぶっちゃけその通り。
なんなのスノーは。エスパーかな?
冗談はともかく。スノーはさ、幼い頃から何百年も生きている雪龍おじいちゃんとお話しているからか、こういう人の機微に聡いんだよね。早熟すぎる。
真面目な顔して僕を見るそんなスノーを前に、誤魔化しきることは難しい。
「どうなんですの?」
「‥‥そりゃあさ、自分の身分を明かすのは怖いよ。」
「ファイーブ。。。。。。」
「だって王子だよ?一声で平民の首を刎ねることができるんだ。」
スノーの気遣うような言葉を遮り、僕は喋る。
権力っているのは、究極的には作業の効率化のためにある。
船頭多くして船山に上るように、皆がワイワイ好き勝手に指示をすれば迷走する。船頭ていう頭を一つだけにしなきゃいけない。船頭と船員という身分を区別しなきゃ船は海を進めないのだ。
その為に権力権威が付随したの必然のこと。
そして船員が船長を恐れ敬うように、国民が莫大な権力を持つ王子を畏怖し讃えることは当たり前なんだ。そうすることで身分の差が浮き彫りなって、より作業が効率的になる。
この問題は、権力者が自分を優性民だと勘違いする事。能力じゃなくて生れと言う幸運で得た地位を実力だと勘違いするんだ。
そしてもう一つが下の者が上の身分の人間を恐れること。これを責めることは誰にも出来ない。
僕だって怖くて泣いてしまうさ。そいつの機嫌ひとつで人生をクシャクシャにできるんだから。
「でもファイはそういうことしないでしょう。」
「そういう風に相手は思わないってわけだよ。スノーだって人助けをする悪魔がいて、人を傷つける天使がいるなんて言われても信じないでしょ?」
天使は善。悪魔は邪。権力者は危ない。これらは全て『そういうもの』なんだ。理由もクソも無い。
「そうですけど。。。」
顔を曇らせながら渋々納得するスノーの頭を思わず撫でてしまう僕。それにスノーは対してムッとした顔で僕を見る。
「子供扱いしないで」
「ごめんごめん。」
全く誠意の籠っていない僕の謝罪に拗ねたように頬を膨らませるスノー。
「出会ってから何年経っていると思っていますの。私はもう子供じゃありませんからね。」
「…そうだね。うん、その通りだ。」
僕がスノーに出会ったのは、エルム地方の更に奥の山の中。
缶詰みたいな城内生活に丁度嫌気が刺していた僕は、転移っていう空間接離魔術で旅をしていた。一方でスノーは、病に臥せている母親を助ける為に領地の薬草を取っていたんだ。
当然一人の女の子が登山下山できるほど山は優しくなく。崖から転落しそうになったところで助けたんだ。
ついでにスノーの母が罹患していた病も治した。
僕は医者じゃないけれど、ただの熱だったからちゃんとしたご飯と食生活を教えてあげただけで治ったんだよね。
「そしたら今度は借金と。。。。」
僕の言葉に非難の意を汲み取ったのか申し訳なさそうに頭を下げるスノー。
「あの時はごめんなさいファイーブ。関係無いのに巻き込んじゃって。」
そういうつもりでは無かったのだけれど。
言葉って難しい。
それに、さ。
「関係無くは無いじゃないか。僕の兄がしでかしたことなんだから。」
母の病の後、今度は兄王子によって家に多大な借金を掛けられたスノー。
「一体どうして第三王子様に奸計を仕掛けられたのか。。。何かしたのでしょうか。」
「さあね。彼等はどうでもいいことで人を陥れる。肥大化した自尊心を傷つけるようなことでもしてしまったんじゃないのかな。」
「ファイ!」
僕の発言に咎めるような眼で注意するスノー。今の発言は王子への不敬にあたるもんね。でも僕だって王子だし、気にする必要はないだろう。
「それに大丈夫。誰も聞いちゃいないさ。」
「そ、そうですけど。でもそういうことは滅多に言うものではないですよ。不敬に問われてしまいます。」
「そうかな?」
「そうですわよ!何せ相手はあの第三王子ですわよ。」
僅かに怯えの籠った声でスノーは僕に注意する。
僕の国には、5人の王子がいる。
第一王子ワーン。第二王子ツー。第三王子スリー。第四王子フォー。そして第五王子ファイーブこと僕。これは五男兄弟ていうわけではなくて、性別関係なく呼び名は『王子』なんだ。
これは『性別関係無く王の子である故に』ていう理由があって、他国では王女と呼ばれるツー姉上とフォー姉上も王子と呼ばれるんだ。
イイ話だよね。
閑話休題
そんな4人の兄姉がいる僕だけど、兄上達とは仲が良くない。
彼等は二人とも絵本で見るような欲深い人で、自分の為に平気で他者を蹴落とすんだ。
今回のスノーの家が抱えることになった借金もそう。兄上達の派閥最大の怨敵であるドレイク家(スノーの実家)に対して罪を被せて、賠償金と称して多額の借金を負わせた。
取り潰しを狙ったのか、後で有利な契約を結ぶつもりだったのか分からないけど、碌でもない目的だったのは確かだ。
酷いよね。
男なら正々堂々と戦うべきだ。搦め手などという卑怯な策を使うなんてカッコ悪い。
だから僕はS級モンスターである腐王クサルンを倒してスノーの家が背負った借金を返した。卑劣な罠に負けるわけにはいかないからね。
腐王クサルンは魔族だったとかなんか言われたけれど、弱くてよく覚えてないや。
「腐王は200年を生きる狡猾な魔の主。それを一晩で倒すなんてファイじゃなければできませんでしたわ。才に溢れているからこそできたことです。」
「皆が言うほど凄いことかなぁ。本気でやれば一刻で倒せたよ?」
これは本心。皆が伝説に怯えすぎているだけだよ。けれどその言葉を聞いてスノーは増々感激したように口を開く。
「凄いですわファイ!!あの腐王をそんな乱雑に扱えるのは貴方だけですわよ!」
「うーん、皆が勘違いしているだけだよ。頑張れば誰だってできるさ。」
「そんな!!友人が女性しかいないのだってファイだけです!!もっと誇ってください!」
「…そう…かな?」
それは逆に馬鹿にしてないかな?
いや絶対しているでしょ。




