第2話 6割はいい点か否か
「起きろ坊。」
薄暗い部屋の中で瞼をパチリと開け、僕は空を見上げる。
あるのは只の天井。なんの変哲の無い、少し赤がかった天井だ。
「知らない天井だ。。。」
「毎日それ言っとるのぉ。。。」
「名言だからね」
「なんのじゃ。含蓄どころかスカスカの言葉じゃろうがい。」
静かに。今ちょっといい所なんだ。
「哲学的な話をするよぺル。」
「別によいが、、、、、坊は前そう言ってショートケーキの甘さについてのあっさい話しかせんかったよな。」
「いいじゃないかショートケーキ。僕はケーキ好きだよ。」
「妾も好きじゃが。。。哲学関係なくないか?」
ごもっとも。ついでに言うなら僕はショートケーキよりモンブランの方が好きだ。
「でも大丈夫。今回はちゃんと哲学しているから。」
「その言いようには不安しか覚えんがのう。。」
部屋に響くのは、二人分の声のみ。
未だ幼さの抜けない童子の声と、女性特有の柔らかく高い声。前者は僕。後者は僕が愛してやまない人の声。
「努力しろってよく言われるでしょ?」
「無視か。」
「よく言われるでしょ?」
「・・・・・うむ、妾もよく言うな。」
女性はその若々しい声とは裏腹に、老獪な妖のような話し方で僕の言葉に肯定する。そのキャラづくりはどうよって正直思うが注意するようなことでもないので話を進める。
「努力は素晴らしいものだし、それによって得れる成果は莫大だ。それは僕もそう思う。努力は尊くて美しくて劇的で、ロマンティックでコスミックでもあるんだ。大いなる力を持つ超越行為だと言わざるを得ない。」
「そうじゃのう。。。。。何を超越したのかは知らんがそうじゃのう。。。。。」
適当な相槌を打つ女性を敢えて無視して話を続ける僕。
「でも努力って難しいから『努力しろ』って言うわけじゃん?そこんとこは何で誰もアドバイスしないの?」
「それは努力方法を教えろってことかの?」
「そう。有体に言えばコツを教えてくれってことさ。」
僕は美女の言葉に肯定し、補足するかのように言葉を続ける。
「努力を続ける秘訣とかをだね、なんで人は教えてくれないのさって思うね。」
「そうか。。。」
「努力は素晴らしい。だからそれをやれ。それは分かる。でも努力は継続が難しい。皆それを知っているはず。なのに難しいことをやれとしか言わないのは何故さ。そのコツを教えてくれよ。楽に面白く努力ができる方法を教えなよ。」
料理だってなんだって、物事を教える際にはコツや詳しい方法を教えてくれるものだ。僕が死ぬ前はレンチンやら時短やら簡略化された料理方法があったものだ。
ではなぜ、努力にはそれがない?なぜ、努力の正解法を教えてくれない?なぜ、簡単に継続できる努力を教えてくれない?
「そうかぁ。。。。」
「ただ難解なことをしろって言うだけなんて。それじゃあ無責任じゃないか。人間は知恵と工夫でのし上がってきたんだ。それをなぜ努力に適用しないんだ?」
心底不思議そうな声で話をする僕に対して、ペルは戸惑いを隠せない顔。あれだけ哲学哲学言っておきながらただの雑談。しかも愚痴めいた雑談。哲学言う必要は絶対なかったて顔だ。
ごめんよ。
それでもペルはいつも僕の質問に最大限答えようとしてくる。今回もほら、緩やかに、けれどはっきりと力を込めて言葉を紡ぐ。
「教えないのではなく、努力を続ける秘訣なんて分からないのじゃ。妾も、当然大人たちも。だから教えないのじゃないかえ?」
‥‥ん?
ペルの返答は、これまた意外なものだ。
「そうなの?」
「そうじゃよ。」
疑問に疑問で返す邪道を行いつつも、疑問を抱かざるを得ない。大人は皆努力したんでしょ?じゃあ努力のこなし方を知っているものだと思っていた。
けどペルに言わせればそれは違うらしい。僕の言葉にゆっくりと首を振りながら口を開いた。
「大人だってそんなの分からんのよ。知っていたら教えるに決まっておるさ。」
「じゃあ万人に通ずる秘訣とかないの?」
「そんなん見つけ取ったら億万長者じゃよ。」
「億万長者。。。。いい響きだね。」
僕の戯言を無視するペル。享楽的な響きであるのは全面的に同意するが、今する話じゃねえだろって思っているんだ。その証拠に僕の頭を撫でていた手がいつの間にかアイアンクロ―に変わっている。
痛い。。
ギリギリと僕の頭を締め付けながら彼女は言葉を続ける。
「でも大人は無理だと分かっていても一応言っておくのじゃよ。『努力しろ。』『努力は素晴らしい。』『努力はいつか報われる。』『努力する人は偉い』ってな。後々で努力の重さに気付いた時に、自分の言葉を思い出してもらうために言っておくのじゃ。」
「へー。」
納得。お礼を言おうとペルを見れば‥うわ、腹立つどや顔してるし。
「どや、いいこと言ったじゃろ。」
いや…まぁ。
「うん、5点。」
「それはおかしいじゃろ!?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。口をあんぐりと開けるペル。
「そう?」
「そうじゃろ!結構な出来じゃったと妾は自負しておるぞ!」
「ふーん。」
「せめて6割は貰ってもええはずじゃ!!」
結構な出来なのに6割ってどうなの。。。。。
「5点満点だから5点で完答なんだけどね。」
衝撃の事実にまたもや呆けるペル。満点とはこれいかにって顔だ。
「いやそれも可笑しいじゃろ!?そこまで深い言葉じゃなかったぞ!?」
「そう?」
「そうじゃろ!?正直こんなの阿呆でも言えるぞ!!点の改善を要求する!!」
「どうすればいいってのさ。。。」
いい点を与えたら怒られて、悪い点を与えても怒られる。どうしたら喜んでくれるって言うんだ?
善良なる少年である僕は苦悩する。
「じゃ、じゃあ点数を付けないっていうのは?」
「それでは妾の気が済まぬわ!!」
・・・・どうしよ。
すごく面倒臭くなってきた。




