第0話誰もが知っている御伽噺
むかしむかしあるところに、お姫様がおりました。
お姫様の住む国は緑豊かで、自然に恵まれておりました。
森に出れば砂糖よりも甘くて水よりも瑞々しい果実がそこらに生えていて。
空気は美味しく、日差しは毛布よりも心地よい。
海に出れば脂がのった魚がわんさかとれて。
山に出れば肉が飽きるほど手に入りました。
国民は皆幸せでした。お姫様も幸せでした。
そんなお姫様には大事な人がおりました。
それは母である王妃様と父である国王様です。
お姫様は誰よりも両親を愛しておりました。
王妃様と国王様もお姫様を愛しておりました。
国民はそんな仲睦まじい親子を見ていました。
国は幸せに包まれておりました。
ところがある日。
悪魔が攻めて来たのです。
悪魔は狡猾で、残忍で、そして強力でした。
お姫様と国民は不安でした。いつあの悪魔どもに攻め滅ぼされてしまうのかと気が気でありませんでした。
そんなお姫様を見て国王様と王妃様は言いました。
大丈夫だよ。私達がきっとなんとかしてあげるからね、と。
こうして国王様と王妃様は悪魔と戦争しに行きました。
二人は死んでしまいました。
お姫様は大いに悲しみました。愛しい両親が殺されてしまったのですから、当然の事です。
お姫様は恐怖に襲われました。自分より強くて優しい両親でさえ悪魔にかなわなかったのですから、当然の事です。
お姫様は怒りました。両親を殺した悪魔どもを許すことなどできませんでした。
しかしお姫様には力がありません。国王様と王妃様を屠った悪魔を殺せるほどの力がありません。
お姫様は嘆き、そして神に祈りました。
おお、女神よ。私に力を貸してください、と。
そんな時です。お姫様に女神が舞い降りました。
女神は言いました。
可愛くて正直者のお姫様。私はいたく感動しました。貴女に力を授けます、あの汚らわしい悪の軍勢を滅ぼしてしまいなさい、と。
力を身に着けたお姫様は次々と悪魔を殺し、悪魔に支配されていた土地を制圧し、圧政に苦しめられていた国民を救い出しました。
助けられた国民はお姫様に付いて行き、気づけばお姫様は英雄の軍隊として悪魔に恐れられるようになりました。
こうして我らが救世主たる『英雄姫マリア』は誕生したのです。
<英雄姫の伝説第一章 『悲劇のお姫様』より抜粋>




