第24話 エピローグ バイ ブラザー&シスター
パチパチパチと、薪が燃える音がする。
その場にいるのは二人だけ。
「ねぇねぇ知ってるかいフォー?」
「何がですか兄上?」
パチ。声が部屋にこだまする。
「あのS級冒険者である『門番のガドー』が行方不明になったんだって。」
「ええ!?なんですって!?我が国の誇るべき人材が消息不明ですって!?」
パチ。声で炎が揺らぎ、火の粉が舞う。
「そうなんだよ。もしも彼に何かあったら王国に限らず人類にとって大きな損失だよ。」
パチ。
「では捜索隊を派遣しましょうか。」
パチ。薪が燃える独特な匂いが鼻腔を突く。
「そうだねフォー。ぜひそうしよう。」
パチ。
「|でも素人だけでは心配ですから《事実が判明しないように》、兄上からも数人派遣してくださいね。」
パチ。
「勿論さフォー。俺は優秀な人材を守る為ならなんでもするよ。」
パチパチパチ。
「・・・・で、兄上はいつから関知していたので?」
パチ。薪が弾ける。
「ん?何のこと?」
パチ。
「いい加減にしないと、めっちゃ美人の占い師と一緒にいたこと影長に言いふらしますよ。ついでに頬を引っ叩かれたいたところも。」
「見てたの!?」
「ええ。まぁ、ペルちゃんに叩かれているのを見た時は吹きましたね。」
パチ。あれは笑ったね。
「ぐ。。。そうだよ。」
ペルちゃんは、兄上の商売上の部下。私も何度かあったことがあるが、スーパーベリーグッドなスタイルの姉さんだ。性格もいい。姐さん、と私は密かに呼んでる。特に彼女のナデナデは最高だ。人を駄目にする。
「で、それを私は言いませんけど。代わりにいつからこの筋書きを考えていたのか教えて下さいよ。」
パチ。熱が私を襲う。
その熱に反比例するかのように、冷めた声でポツリと呟く兄上。
「・・・・その時偶々思いついたんだよ。」
ほほぉ?
「影長のみなさーん!!スリーが」
「わー嘘嘘!!嘘だよ!!」
お前がそんな性格なら、私はもっと優しい性格になっているわ。
「…で?」
「・・・・実はさ、王家が占有している市場があるんだよ。例えば貴爵紋なんかは王宮内の世界樹から削って作っている訳。んで貴爵位の管理は王家管轄だから、その紋章の製造から販売は王家が担っている訳よ。」
パチ。
「そうですね。でも販売て言わず、下賜と言ってくださいね。」
一応建前っていうのがあるからさ。
幾ら多額の税金を納めないといけないからと言って、それは善意の募金だから。その善意に胸を打たれた王宮が差し上げているだけだから。
販売では断じてないの。
「それで俺としては、世界樹の素材は仕方ないとして装飾なんかは俺の傘下商会にやらせたいなぁ、と思ったわけ。」
パチ。
「それは大きな夢ですね。」
多額の献金の一部が兄上に流れ込むってことだ。悪夢かよ。
たった今、絶対に叶って欲しくないドリームオブザイヤーを受賞した程だよ。
「それで実行の為に色々調べていると、同じようなことを考えている人間がいたのさ。」
「それが母上ですね。」
「そー。母上のプランを詳しく調べていくうちに、サーシャ様を神輿に据えて稼ごうぜていう考えだったのよ。」
パチ。ふーん。
「乗っ取りはいつから考えていたので?まさかあの場で思いついたのですか?」
パチ。
「うん。」
パチ。へぇ。
「みなさーん!!スリー「はいはいはい!!!言うから言うから!!」・・・。」
「・・・・全く、油断も隙も無いよねフォーは。」
やれやれと首を横に振る兄上に殺意が抱くが、ここは我慢。それにしても最初から素直に言えってんだよね。
「・・・・母上の動向を調べているうちに、母上はサーシャ様を神輿に据えると言っていることが分かった。」
「あ、ジャーキー食べます?ナガ地方の名産だそうですよ」
「話聞いてよ。それでさ、サーシャ様がいないと困るのは嫁入りした母上の事情でしょ?でも、俺ならノウハウを奪っちまえばそのまま市場を牛耳れるじゃんって思って。ほら、俺は血統もあるから王宮の市場に参入し放題だし。」
パチ。
確かに。母上は平民だ。父上の側室として所謂愛のある結婚をしたが、身分で言えば平民のまま。だからサーシャ様というブランドを欲しがった。
「それで私達に取引を持ち掛けるように仕掛けたと?」
「失礼だな。あれは母上個人の選択さ。母上が神輿選びに悩んでいる時に偶々サーシャ様の存在を俺の部下の口から知って。俺がスパイを大量に放り込んで突然の職員増員により自由に使える部下が偶々できて。たまたまガドーとか言う俺の暗殺ギルドの商売敵を母上は雇えて。偶々俺から食事会の招待が届いた。」
成程ね。全部兄上のせいと。
「悪い兄ですねー。・・それでジャーキーは食べないので?」
パチ。
「・・・・食べる。」
パチ。
パチ。
「例え俺との共同事業であろうと母上は自分がいるかぎり手綱を引けると思っている。」
パチ。
「でしょうね。そうでなければあの母上が首を縦に振らないでしょう。」
つまり母上は未だ野望を捨てておらず、兄上という神輿を操る為に画策中と。私には関係無いから心底どうでもいいわね。
パチ。
「『白蛇計画』の詳細も母上しか知らないようだよ。秘書にすら伝えないほどの秘密主義に徹している。・・・・にしてもこれ美味しいね。」
「王家に寄贈された名産品ですからね。そりゃ美味いですよ。」
「でも元々『白蛇計画』の各実行署には俺が送り込んだスパイがいる。つまり実行方法の手足は僕の傘下であり動向は筒抜け。そこに投げられる命令と目的を踏まえれば具体的な方法は簡単に導きだせる。現に計画の7割ほどは掴めたよ。・・・これあとでパックで頂戴。」
パチ。
「ほどほどにして下さいよ。母上の執着心を見たでしょう?怒り狂ってなりふり構わず報復されると面倒です。・・・・パックは駄目です。」
パチ。
「そうだね。というか計画を俺等より愛してたね。」
パチ。
「そうですね。」
パチ。
「最高だよね。」
そうね。
・・・・いやそうか?
まぁでも
「争いにならないならそれでいいんじゃないですか。」
パチ。
「相変わらず良く分からない価値観だねフォーは。あの場じゃ争ってでも母上の鼻っ柱を圧し折るべきだったでしょ。」
パチ。良く分からないをお前にだけは言われたくはない。それに争ってでもて、、、
「ガドーと争ったじゃないですか。」
そして肺の一部を失い、骨折で筋肉に突き刺さった肋骨とあばらによる激痛が今も襲い掛かっている。
十分な死闘だったでしょ。
パチ。
「そういうことじゃなくてね。母上に直接危害を加えるべきだったて言っているの。腕の一本や二本ぐらいは必要だよ。あんな温い脅しだと、母上はまたすぐ忘れる。恐怖と痛みは必要だよ。」
パチ。
「分かっていますけど、私は争いが苦手なのですよ。特に相手の反感を買うような行為がね。心身ともに疲れるじゃないですか。」
パチ。だからなぁなぁにしたんだよ。
「それで後悔はないの?」
パチ。
「今のところはないですね。」
パチ。薪が足りなくなる。
パチ。火が弱まる。
「『点火』。。兄上?」
「あいよ。我が敵を貫け、『木槍』。」
ボゥ!!
再び燃え盛る炎をその熱に当たりながら、私はジャーキーを口に含む。
「・・・・それで私はいかほどまで噛ませて頂けるので?」
パチ。
「買収した議員の数による。過半数を買収できたら半々にしてあげるよ。」
「いやもうちょっと寄越してくださいよ。貴方は無傷ですけど、私は肺の一部が欠けているんですよ?」
ガドーとやらの体術は内部破壊に特化していて、骨の破片とぐちゃぐちゃになった肺は城の治癒術式どころか既存の医療術式では修復できず、一部は切り取るしか無かった。
お陰で心肺機能は著しく低下。平常時でさえ少し息苦しい。
「そんな重篤な後遺症を背負ってまで戦った妹にもっと報酬はありませんかねぇ??」
パチ。
「じゃ、じゃあ5割5分?」
「ふざけんなクソ兄貴。7割にしろ。」
「ええ~。それは流石に‥‥」
「今回の争いに関与したの私とシェードと兄上とサーシャ様でしょ。一千億歩譲って私と兄上とシェードが同じ働きをしたとして、私サイドのサーシャ様とシェードと私は全体の四分の三は貢献したことになるじゃないですか。」
四分の三とはすなわち75%。なんと私は5%も兄上に譲歩してあげているのだ。優しい妹を持って兄上はもっと感謝するべきである。
「その計算は可笑しくない?」
「いいえおかしくないですね。そもそもですね、私への慰謝料やシェードが虎の子を使わされたこと、サーシャ様が巻き込まれたことなどを踏まえれば…‥」
この後7割の利権をもぎとってやった。
やったぜ。
私は母とは違う。
金は使う派だし、ある程度倫理に則った商売をする。
けれどやっぱり母の子だからだろうか。
金を見ると、血が騒ぐ。
あつくなるよね。
薪が燃えているからじゃねって思った人。そういうとこだぞ。
にしても背中も腹もめちゃくちゃ痛い・・・。回復術式の精度をもっと上げてくれ。




