第20話 バトル終了
状況を整理しよう。
母上は血を流して倒れた。
一方で私のシェードは首ちょんぱで、兄上は速攻ギブアップ。私はと言えば魔道具と装備で身を守ったにも関わらず両腕は骨折し、顔は痛いし、腹と背中を打ち付けて滅茶苦茶。
詰んだかコレ?
‥‥詰んだな。
そもそも虫より弱い私に戦闘は無理なのよ。
見れば私の様子を見て、緩やかに歩み寄るガドー。『沈黙』の効果は既に切れ、彼は魔力を身に纏い、発動待機陣を同時展開している。
化け物かよ。。。
隙の無い、かつ軽やかな歩みで近づくガトー。彼は私と後数メートルという所で足を止め、そして口を開く。
「見事だ。」
は?
突然賞讃の言葉を浴びせてくる襲撃者に驚きを隠せない。
見ればガドーの顔には獰猛な笑みが。
「護衛を傍に置くことで私は必ず『沈黙』の射程圏内に入る。そして私が『沈黙』で魔術が使えないコンマ数秒の間に側室妃を仕留める。シンプルだが有効。あの短期間でその作戦を思いつき、実行する度胸。見事としか言いようがない。」
心の底からそう思っているようで、拍手までもするガドー。舐められているなぁ。。
スリーはその後ろで母上の方に歩み寄る。
「母上!!母上!!クソ、息をしていない!!」
「‥‥後ろの兄が早々に戦意喪失した中で、貴殿は攻撃を辞めなかった。どちらが正しいというわけでは無いが、私は貴殿の抗い方は嫌いではない。」
かすり傷一つ無い余裕の顔で、私を見るガドー。
不味いなー。先ほどからコソコソと魔道具で攻撃しているのに、ピンピンしてる。
強いとは聞いていたけど、ノーダメとは。
泣きそう。
「もう一度言おう。お前の戦い方は嫌いじゃないぞ。」
「女の子を顔を...殴って喜ぶ変態に....言われるなんて...嬉しい処か一族の恥よね。」
肺を痛めてのか、喋るだけで精いっぱいだ。息も絶え絶えになりながら言った言葉に僅かに眉を顰めたかと思うと、ガドーは私を真っ直ぐと見る。
「…骨が折れて息すら苦しいだろうに。そんな状況で軽口を叩くだけの気力もある、か。先ほどの暴言も中々良かったぞ。」
俺は禿げていないし変態じゃないがな、と付け足すのを忘れないガドー。気にしてたんかい。
「惜しいな、きちんとした教育さえうければ名のある兵士に。いや、だからこそ側室妃はお前に教育を施さなかったのか。」
五月蝿いよ。絶対その教育費をねこばばしたかっただけでしょ。母上だしね。
そんな事情を露知らず、私に問いかけるガトー。
「もう負けを認めろ。勝ち目はないぞ。」
勝ち目無し‥‥か。
「。。から。。。言っ。。。。ぇよ、クソが。」
「なに?」
「上から.....モノ言ってんじゃねぇよボケ。。。。!!」
そういう人間が一番ムカつく!!
軌道調節の術式に雷を付与し、同時展開。顔面から激痛が走るも、無視。
「『機雷十六連......装....!填...!!!』」
上下右左斜めの全方向からの一斉放射。当たれば雷で体が麻痺と火傷をプレゼント。雷の速度を反応できるわけもない!!
「『発射』!!!」
土煙と閃光と轟音が同時に音連れる。
鼓膜がビリビリ震えているが、大丈夫。
そしてこの威力ならダメージ十分!!
「無駄だ。」
「グフッ!?」
しかし現実は残酷なもので。
蠅を払うかのように腕を振るい、私の魔術を防ぐガドー。そして私の思惑を打ち砕くかのように腹を殴り、ついでとばかりに髪を掴み、鳩尾を膝蹴りする。
ゴン!ドス!
「カハッ!?コホゴホッ!?」
そのまま九の字になって床に横たわる。痛みで、呼吸が上手く出来ないっ。。
「速度重視の『機雷』は元々威力が無い。そして損傷からか更に蚊のような威力しかもっていない。付与効果は魔鎧で防げる。咄嗟の判断にしては悪くないが、私には効かないな。」
『機雷』の効果は鎧を半壊させるほどの熱量を持つ。どこをどう見たら『威力が無い』ていう評価になるんだよ。。。!!化け物め。。。!!
笑みを浮かべながらじりじりと距離を詰めてくるガドー。
参った…この状況でも油断せず、か。
「ガフ!ガフ!ガッ‥‥コフコフッ!」
こっちは肺が痛い。伝説級の素材で編んだ装備でさえも無意味。いや、この装備だからこそ即死を免れたのか。
どちらにせよ絶体絶命の大ピンチだ。
「もう十分だろう。私だって王族殺しは嫌なのだ。」
「‥…コホ。」
「弱い者を甚振るのだって趣味ではない。」
「五...月蝿...いよゴフコフ!!」
胸が痛い・・!!
「喋るのが辛そうだな。胸腹の骨が折れているんだろ?さきの機雷における攻防で、あばらもそうなっている筈だ。心臓と肺だって痛めてる。そうなる為に壁に打ち付けたのだからな。」
「だ...から五...月...蝿いって、ゲホへホッ!!」
「一体なぜそこまで意固地になる?そこまでの繋がりが対象とお前にあるとは聞いていないんだが。」
そんなの決まっている。別にサーシャ様を特別大事に思っているからとかじゃない。
もっとシンプルな理由だ。
「お..前は...確..かに強...いよ。」
「‥…今更だな。何が言いたい?」
「い..やね、ケホッ。私を..殺そ..うとした奴はごまんと..ゴホゴホッ.....いて...ね。そ..いつらは毎...がい、忘れて...ゲホッ.....いるんだ...よね。。。」
「????」
勝てる戦から逃げる人間が、どこにいる?
「ここは王宮。王族のための建物なのよ。」
「な、声!?お前まさか傷が。。。!?」
「『泥沼』『ポヨポヨ』」
スリーの声とともにガドーの足が爆ぜ、突如地面に発生した泥の手が彼の全身を拘束する。
「『共振』。。。!!」
そして音を増幅する空域がガドーを包み。
「『オルカルカ音量MAX』!!!」
三半規管が粉砕される程の音刃がガドーを襲う。
「。。!!」
咄嗟に耳を塞ぐも、苦悶の表情を浮かべるガドー。
しかしそれでも目はしっかりと私を見据えていて。私を手に掛けんと腕を伸ばす。
「このアマ‥‥!!!舐めるなよ…!!」
鬼のような形相で私の首を掴み、圧し折ろうと力を込める。しかし残念。腕は空を切り、空振り無念。
それでも私を潰そうと立ち上がり、私を睨む。
だからこいつは気付かない。
後ろでユラユラと立ち上がり。
腕を薙がんとする亡霊の姿を。
「な!?」
驚愕の顔を浮かべたガドーの胴を斬ったのは首の無い使用人。
私の側近、シェードの腕だった。
「遅いのよ。。」
そうして私は、気を失った。
バチンン!!!
「起きて下さいフォー様!!」
そして三秒後に意識が戻った。
こいつの給料絶対減らす。
絶対減らす。




