第11話 第一王妃
菓子と紅茶を片手に、談笑する麗しい女性が二人。因みに一人は私です。大切なことだからもう一度言います。麗しい女性の一人は私です。
自分で言っていて気分がいい。誰も言ってくれないからね。言われるだけで気分が良くなるというのもある。
「聴いているフォー?」
「勿論ですよ王妃。ご子息が心配ですよねー。分かります。」
菓子と茶を差し出しながら、私は相槌を打つ。当然気持ちは分からん。だって私に息子なんていないし。
けれど私の言葉に呼応するかのように、苦しみを吐き出すように下を向く王妃。
「…そうなのよ。なにせ王国での王位継承戦でしょ?私は帝国から嫁いできたからそういう文化に疎いし、助けになれないのは辛いわ。だから私ったら心配で心配で。」
「確かに力になれないのはもどかしいですよねー。」
「でしょう?」
弱々しい表情の彼女は、縋るような目付きで私を見ている。そんな彼女を勇気づけるように私は明るい声で断言する。
「でも大丈夫ですよ王妃!王妃が力になれないなんてありえませんから!」
「…そうなの?」
「ええ、ええ!!何せ貴方は兄上の母なのですよ!」
「。。。うん。」
少しだけ、顔を上げて私を見る王妃。
「貴方がいるだけで、それは兄上の心の助けになりますよ!声を掛けるだけで、兄上を見守っているだけで、それは助けになります。」
「本当?」
「勿論。」
即答する私を見て意外そうな表情をする王妃。こういう所は案外、息子のワーン兄上に似ている気がするよ。
そんなどうでもいい事を想いながら、私は声を出す。
「だってそれが。そういう存在が母親ってものでしょう?」
「・・・そう、なのかな。」
少し自信が付いたのか、先ほどよりも明るい表情で私を見てくる第一王妃。
「勿論です!!私が保証しますよ!」
兄上マザコンだかんなー。多分大丈夫だろう。
さて、改めまして。今私と話をしているのは第一王妃。
真珠のように滑らかな肌。結晶のように透き通った白色の髪。庇護欲をそそる華奢な体と、艶っぽい藍紫色の瞳。
さっき私は自分の事を麗しいとか言ったが、比べるまでも無い。あちらの方が断然麗しい。
それにしても21歳前後の息子を持つ母とは思えないよね。同性の私としては嫉妬を通り越してただただすげぇって感想しかでない。語彙力求む。
そんなすっげぇ女性は紅茶を飲んで落ち着いたのか。先ほどよりかは幾分マシな表情で声を出す。
「・・・フォーは優しいね。話に付き合ってくれるなんて頼れるのはフォーだけだよ。」
こんな弱々しいようなことを口でおっしゃている方だが、帝国からの刺客であるだけあって腹の中は相当腹黒い。私には弱々しい妹キャラで通しているが、スリーには悪戯好きな少女キャラで通している。
なんなの?相手が求めているキャラの使い分け上手すぎ。私も始めはぐっときたもん。けど、影からの報告で血の気が引いたね。
だってこの人、月一でアンチ帝国の貴族殺してますもん。近衛や騎士団に一切バレずに。
なんなのですかこの人。可憐で清楚な妖精姫っていう売り文句はどこ行った。この人の顔は返り血でべったり汚れていますよ。暗殺の里から来た妖精さんですか?
そんな様子をおくびにも出さず、今日も彼女は妖精のように純朴な笑顔で私に微笑む。可愛いなぁ。今年22の息子を持つ年上の人妻に言う言葉じゃないけどホント可愛いなぁ。
「ありがとうフォー。貴方のお陰で大分気分が晴れたわ。」
「どういたしまして。またいつでもお越しくださいね。」
はよ帰れ。
扉の外で二、三歩歩いた第一王妃様は、クルリと私の方に顔を向けたかと思うと耳元に顔を近づけてこうささやいた。
「‥‥本当に、ありがとうね。フォーはいっつも優しいね。大好きだよ。」
う。。。揺らぐ。。。。
「‥‥サーシャ様と言い、フォー様って本当に庇護欲強いですよね。」
「…うっさい。」
そんなの私が一番分かっとるわ。




