第10話 兄アゲイン
王国には、5人の息子娘がいる。長男であるワーン第一王子。長女であるツー第二王女。次男であるスリー第三王子に、同腹の妹フォー第四王子。そして踊り子の子供ファイーブ第五王子。
ワーン第一王子の母は第一王妃、ツー姉上の母は第二王妃、俺とフォーの母は豪商で側室。ファイーブの母は愛妾だ。
母親多すぎ問題。父親一人なのに。
バランスよくいこうぜ?母親5人なら父親も5人ぐらいどうよ。それで恨みつらみ嫉妬愛憎のドロドロ劇を開幕するんだ。子供達の生活は毎日がドキドキになること間違いなしだぜ。
考えただけでもワクワクする。
確かそういう題材の本があった筈。
さて、なぜこういうことを言っているのかというと。
「王子達って大家族っすよね。しかも王様は嫁さんを4人すよね。よく上手く行きましたね。」
このローズの台詞に起因する。
「というと?」
俺は反射的に話の続きを促すと、ローズはずっと疑問に思っていたのかスラスラと淀みなく言葉を紡ぐ。
「王妃が他所の王妃刺したり、恋愛小説みたいに王と自分が心中して永遠の愛を!とかにならないんすか?」
ふむ。つまりこういうことだ。
「ローズは今後恋愛小説読むの禁止だな。」
「なんでっすか!?」
驚いた顔で俺を見るローズだが、俺の方が驚きだ。
そもそもなぜって。読んでる恋愛小説が全てドロドロメロドラマなんつー引きの悪さだからだよ。純愛を読め純愛を。シンデレラとか。美女と野獣とか。
「シンデレラは絵本っす。」
「絵本差別か!!絵本も立派な小説だよ!!」
「え。すみません。」
慌てて頭を下げるローズ。ちょろ。絵本と小説は違うのに。
さてと。
「で、なんだっけ。よく妻が3人もいるのに色恋の問題が起きずにいるのか?なんでもいいから王妃が包丁振り回したり、職場や現場に突入したり、嫉妬で発狂して欲しいのになんでしてくれないのかってことだよね?」
「そこまでは言ってないけどそうっす。私のダチに3股した奴がいたんすけど、そいつなんかは彼女達にバレてタコ殴りにされてましたよ。」
なにそれめっちゃ見てみたい。が、デバガメ精神を抑えて俺はクールに言うぜ。
「へー。そんな男友達いたんだね。その彼女達はどうなったの。」
「なんかかんやで仲良くなって一緒に失恋パーティーしました。楽しかったすよ。」
!?
3人の彼女の内の一人とは…こいつ恋愛運も悪いのか。おみそれいたしやした。
「あ、いっとくけど私じゃないっすよ?」
嘘ヘタクソじゃん。
嘘に気付かないという優しい嘘を吐いた俺は、彼女の疑問に答えるべく思案する。何故、王妃が色恋沙汰の事件を起こさないのか、か。。。。
「そりゃあやっぱりアレだからだよな。」
「なんすか?」
あれ、と言われてもきょとんとした顔のローズ。
そうか。ローズはまだ聞いてなかったのか。王宮に勤めていれば一回ぐらい位聴いたことある思ったのだが。
まさか、今の今まで聞いたことが無かったのか‥‥いや、聞いていたけど忘れたとかありそう。ローズだし。
ま、いっか。
「いいかいローズ。それはだな。。。」
丁度いい機会だ。教えておこうか。
「誰も王を愛していないからだね。」
「・・・・は?」
王宮。政治の戦場として有名なこの場所は、世界一婚活に不向きな場所としても有名なのである。
それにしても本当に初耳だったのか、ローズはポカンと呆けた表情を崩さない。これが演技だったら大したものだが、ローズだからありえんだろう。
俺はそう思いながらローズに説明する。
「今いる3人の国王の妻。第一王妃、第二王妃、そして側室妃。これらの中は特段悪くはない。なぜなのか。さっきも言った通りさ。」
「さっきいったことて‥‥。」
「誰も王を愛していないから王の寵愛を求める諍いなんておきようが無いんだよ。だから王妃や側室妃の喧嘩なんて置きようがないんだ。」
「…結婚、しているんすよね?」
確かめるようにローズが言うが、その質問の意味が俺には分からない。
「結婚は愛し合うからするんじゃないよお馬鹿。結婚とは即ち契約。気持ちは関係ない。利害が一致しているかが大切なんだ。」
普通は愛し合うから結婚するんだが、ここに利益が絡むと愛は関係ない。貴族王族っていうのはそういう傾向が特に顕著だね。
「・・・・・どういうことすか?」
「いや、だから王族貴族は愛ある結婚じゃないから嫉妬による諍いは起こりにくいってこと。」
「本当っすか?」
信じられないのか、俺の目をじっと見てくるローズ。けど、残念ながら現実は変わらないんだ。
「言った通りさ。」
「でも第一王妃と国王は他国でも有名な程仲睦まじい夫婦だって‥‥。」
仮面夫婦という言葉を知らんとは。案外ローズもピュアだな。
だが王族に仕える以上、ピュアな部分はいらない。なので俺は残酷な現実を告げることにする。
「まず第一王妃は帝国の末姫。幼い頃から婚姻道具となる運命だって知っているから、そういう感情は知らないし、持っていない。」
帝国と王国の関係改善に向けて作られた第一王妃は、あくまで帝国の駒。どこまでも、いつまでも帝国の者だ。例えるなら帝国が王国へ仕掛けたハニトラ要員。帝国の、帝国による、帝国のための駒。王国に嫁いだのはそれが一番帝国にとって利益があるから。
帝国はスケールが違うよな。国王相手に色罠仕掛けるとか怖いものなしかよ。王国が用意できるのは精々下級貴族だ。王族が駒にできる程の人員は無い。
と。言い忘れてた。
「ローズ。これは第一王妃が冷酷無比だとか、帝国の狂愛者ってわけじゃないよ。」
第一王妃のお話は面白いし、知的で俺とフォーは結構好きだ。少なくとも実母実父より全然マシ。
「ただ王国に対してドライってだけなんだ。そういう教育を受けているからね。愛着とか、執着とかはない。ましてや父王への愛とか忠誠は最低限さ。」
流石に皆無じゃない。。。。筈。
いや、でもなぁ。。。4人妻を囲おうとしている旦那を愛せるかって言われると、、微妙。よっぽどのイケメンで全てを帳消しにするぐらいの性格が最低条件でそこから+αが無いと愛せるとは思えん。
アイツにそんな甲斐性あるか?ないな。下半身ダディーにゃ無理だ。
少なくとも俺が第一王妃なら父王を愛せない。
一方でローズは俺の説明に釈然としていないようで、不満げに意見を述べる。
「でも、第一王妃は王国の為に尽力しているじゃないですか。大事でもない人の国のためにそんなことしますかね?」
おいおい。。。
「そりゃあするでしょ。カス国よりも豊かな国を征服したい。枯れた葉よりも瑞々しい果実を採取したい。当たり前でしょ?」
「・・・???」
あ、こいつ分かってないな。
「帝国としては、弱らせて速攻で支配するよりも、王国を豊潤な資産と戦力の整った国に育ててから征服したいんでしょうよ。」
実際王妃が国務に関わってからというもの、王国の食糧やインフラ系は目まぐるしく発展してきている。でも、逆に対外関係は脆いまま。寧ろ前より衰えている。
つまり乗っ取り易い。帝国からすればカモだよね。
「王国は第一王妃に遠慮して、帝国を潰そうという過激派の意見が鎮静化している。帝国はバリバリ王国を征服しようとしているっていうのにね。」
もう帝国の浸食はとっくの昔から始まっているんだよ。時間の問題ともいえる。
王国の国民にとっては、帝国に支配されようが王国が支配しようがどっちでも良いと思うだろうけど。




