第7話 妹
こんにちは、良い朝ですね。
私の名前はフォー。
まあ、どこにでもいるしがない少女だと思って下さい。
私は王国の王子。そして現在私は王位継承戦といった争いに参加している。したくてしているのではない。強制参加なのだ。
そこで私は中立の立場を保つことで身を守っている。
どうしてそうなるのか?理由は簡単。中立の人間に仕掛けてくる奴はいないからだ。考えてみれば当たり前の事。相手としても敵は少ない方がいいので、態々中立派を攻撃して敵意を誘発する意義はない。意義の無いことをする人間はいないだろう。
中立派になれば攻撃の的になる恐れはない。そこにいれば命の危機はない。ただし王位の継承は難しい。
即決したね。私は日和って傍観者になると。
当然のことだが、来襲によって支配されるという懸念もある。つまり私を自陣に取り込もうとされるってことね。私の平和のため、これは絶対に避ける必要があった。故に私はそのための脅しを手に入れた。具体的には下級文官の掌握。質ではなく数。雑務の支配。
始めは誰もが馬鹿にしたものだ。たかが雑用を担う下級人間を取り込んで何になるんだって。
雑用係が一人や二人消えたところで誰も困らない。そう思ったのだろう。
それはそうだ。その意見はある意味で正しい。でも、それが数人じゃなくて100人以上なら?誰にでもできる仕事を担う人間が、一斉に嫌がらせを始めたら?
当然仕事は進まない。
これは致命的な弱点にはなりえない。なにせ誰にでもできること。嫌がらせにウンザリすれば自分ですればいい。
けれどもそれは。ただただ面倒くさくて、そしてウザイだろう。
今まで他人に任せていたもの全てを自力でこなす必要が出来た時。今まで円滑にできたことが一斉に鈍化した時。100を超える人間からの嫌がらせを受けた時。
人は多大なストレスを受ける。
これに耐えうる人間はいるだろうか。平気でいられる人間がいるだろうか。
私はそんな人間いないと考えた。いるとしても実兄スリーのみだろうと。
だからこそ有能な上級文官一人ではなく、幾らでも代わりがある人間100人を傘下においた。
『精神的負担』を脅しに使い、『意義の無い諍いの回避』を餌にする。
こうして中立派は中立として全うできる。誰も私を巻き込みに来ない。それがか弱い私なりの知恵。平和を愛する弱者の生存戦略。
この方法は功を為したようで、今の所私を対象にした物騒な勧誘はいない。エナンチオマー?何言っているのよシェード。フォーちゃんはそんな人の名前知らないわ。
「自分を名前呼び…イタイですね」
「殴るわよ?」
私が睨むと、肩をすくめて私のサブレを食べる我が側近。毒見だと分かっていても腹立つわね。
相も変わらず主人に対する態度がなってないし。ローズはお馬鹿だから仕方ないとして、シェードは私を完璧に舐めている。
私の眼光にびくともせず、再度サブレを口に放り込むシェード。めちゃ殴りたい。勝てないけど。絶対避けられるのだろうけど!!
「殴るて。平和を愛するって言っておきながらバリバリに好戦的じゃないですか。」
「愛の鞭は暴力にカウントされません。知らなかったの?」
「スリー様なみにペラッペラな理論武装ですね。」
「よしその喧嘩買ったわ。」
シェードの侮辱を聞くや否や、私は今月用の給与明細を取り出しビリリと破り捨てる。シェードが慌てて私を見るけどもう遅い。覆水盆に返らず。お前は既に、死んでいる。
「今月のボーナスはカットよ。」
「そんな!?」
…それはこっちの台詞なのだけれど???
「アナタ今の言葉がどれだけ私の心を傷つけたか分かっている?スリーと同じなんて最早人格の否定よ?その言葉にどれだけの毒と棘が埋め込まれているか分かっているかしら?人権侵害と言っても過言じゃないわけなのわ。どういった理由であれそれを言うなんてあり得ないわよ。貴方の何気ない一言で私の心を殺されたと言っても最早過言じゃないわけ。つまり殺人罪よ。そんな言葉を貴方は言ったのよ?」
スリーのような極悪下衆卑劣狡猾陰険不実な男と同じにするなんてあり得ないわ。
全くこいつは。
絶望に打ちひしがれているシェードを見て私は思う。
「スリーみたいなことしやがって。」
「…ん?…え!?」
驚いた顔で私を見るシェード。どうしたのかな。
「なによ?」
私が尋ねるとシェードは困惑したような顔で私を見る。
「いや、今フォー様『スリーみたい』て。さっきそんな酷い事言う奴は、て。」
「ん?ああ、別に私は言っていいのよ。これは誉め言葉だから。」
「理不尽すぎません?」
「知らないわよそんなこと。」
「マジかよこの人。。。」
流石に冗句だが、こういった非常によく回る掌を持つのが人間の特権だ。
始めは腰抜けだとか言われた私の中立派閥は、今では王宮最大の勢力。あれだけ陰口を叩いていた癖に私を引き込もうと毎日毎晩口説きにくる殿方の多い事多い事。フォー、もう飽きてしまったわ。
「…というモテ女ムーブをしてみたものの。ある日を境にぱったりと来なくなったわよね。」
「そりゃあエナンチオマー侯爵を見ればね。触らぬ神に祟りなしですよ。」
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うわよ?」
「君子危うきに近寄らず、ですよ。」
ふふ、ふふふ。
さて、私が一体何を思ってこんなことをしているのか。
慣用句合戦みたいなことをしているが、一言で締めるならこう。
誰も、私に、会いに来ない。
寂しいよぉ。。。。
「シェード。。」
「よしよしフォー様。頭でも撫でてあげましょうか?」
「うん。。でもそれよりお菓子の方がいい。」
「先週『シャルネ』で買ったクッキーを食べましょうか。」
「わーい!!」
シェードと一緒に菓子をボリボリ食べながら、私はうら寂しい気持ちを誤魔化す。
私はこうした虚無感と孤独により唐突に苛まれることはあるものの、じゃあ人に会いたいのかと言われるとそうじゃないわけで。人と会うとその分、柵や気苦労が絶えないわけでそれも嫌なのだ。
でも誰も来ないと暇で寂しい。
我ながら面倒臭い性格してるなぁ…と黄昏ながら私は仕事をしているわけ。そしてそんな私を一瞥すらせずに、シェードは背丈ほどもある書類を積み上げ、次々と机に置いていく。
どんどんどん、とリズミカルに紙の塔と机がぶつかる音がして、彼女はニカッと私に笑いかける。
「フォー様に会いたがっている書類は沢山ありますけどね。」
「教会や帝国、悪徳商人に抵抗組織の行動が活性化してるからねぇ。。。」
目の前の書類の膨大な枚数に眩暈を覚えながらも、私は仕事を進めていく。
「教会は相変わらずですか?」
「影であるシェードの方が知っているでしょう?工作組に加えて十二使徒まで来ている。お陰で企みはより巧妙で悪質。孤児院の子供を扇動して自爆兵士の育成なんて書類見ていると、やるせないわねぇ。」
博愛と慈愛はどこ行ったって話よね。
「スリー様が寝返らせた人はどうなのですか?」
「どうって言い方は曖昧だけど、お陰で事前に察知できているものもある。」
「でも取りこぼしたものもありますよね?」
実際今月の教会絡みの事件16件の内リークできたのは9件のみ。
「ま、狂信者が素直に吐いてくれるとは思ってなかったしね。情報提供者がいるだけ儲けものだよ。」
「私が拷問しましょうか?」
指をワキワキと動かすシェードの頭をチョップして、私は筆を執る。
「あいたっ。」
「笑顔でそんなこと言わないの。それに十二使徒には意味がないと思うわよ。躊躇なく自決を選ぶ害悪連中だし。」
「そーですか。」
なんで肩を落としてしょんぼりするのよ。
「それより帝国と商人に拷問をしなさいな。ねえ、先日捕まえた人身売買カルテルあったわよね?」
「帝国の間者と繋がっていましたね。」
そっちは吐いてくれたか。
「それを材料に交渉できると思う?」
「難しいですね。戸籍も出身も血も全て王国由来ですから。」
「当たり前か。ま、それはそこまで期待してなかったからいいとして。商人の隠し財産の場所はどこだった?」
「キチンと見つけて拿捕しました。ざっと170億Gですね。ひゅー、フォー様お金持ちぃ。」
シェードはオーバーに私を持ち上げる。ふふふ。悪い気分では無いわね。
「でもお馬鹿。そんなことしてどうするの。」
「え?」
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