第3話 話好き
「・・・・というわけさフォー。」
「分かりました兄上。」
俺は、今ローズを連れてフォーの部屋でのんびりしている。ついでにローズの現状について報告中。妹と俺は容姿のタイプは似ている。髪色、肌、そして目。
なのにフォーは中々の美人さんで。俺は欲深い悪人面なんだって。
そんな妹は俺の報告を聞いて口を開く。
「それでは、ローズは引き続きお願いしますね。」
「俺の話聞いていた?あの子鍛えたところで使えないよ?」
「それでもです。」
けんもほろろに俺の要望を拒否するフォー。そして話を切り替えるかのようにティーカップをつまみ、紅茶を飲む。
そんな様子を呆けるように見ているローズは、そのまま呆けた口調で俺に話しかける。
「そういや王子の名前ってスリー様だったんすね」
「‥‥そうだけど。」
今更すぎん?お前もしかしてワーン兄上の下で働いているとか思っていたの?
お前みたいな人間兄上なら一日で細切りにされとるよ?兄上の『白銀』とかいうダサネームは伊達じゃないんよ??
しかしローズはそんな慈悲深い人の下で働けているという幸運に気付いておらず。ふざけた事を口走った。
「あのスリー様に見られてよく生きているっすね私。」
「あのってなんだよ。後あとで覚えてろよお前。」
「シェードさんが一人では絶対に近づくなって言ってたっす。あとごめんなさい許してっす。」
俺氏びっくりしてシェードを思わず見るも逆に眼睨みしてくるシェード。俺王子なんだけど強気すぎない?泣いてもいいですか?
けで誰も庇ってくれないんだ。妹なんか菓子を摘まみながら、
「影にも嫌われているのですか兄上。兄上が好かれている相手なんかいないんじゃないですか?」
なんて言う始末。
「フォーそれマジ失礼だよ。俺を愛してくれる人だっているんだから。」
「誰ですかそれ?」
「母上」
「うわちゃぁ。。」
マジかよコイツって顔で俺を見るフォーだけど、母上はフォーの事も愛しているし、フォーだって母上のこと好きなはずだろ。
と思ったら違うらしい。なんとも言えない表情で我が妹はコメントのたまったんだ。
「世界一いらない愛ですね。。。」
ひでぇ。。
「ストーカーのよりマシでしょ。」
「比較対象が犯罪者の時点で悲しくなりませんか?」
・・・・なる。めっちゃなる。なるけども。
けどその気持ちを認めてしまったら、俺はある真実を認めなければいけなくなる。いや、よそう。真実と自分で言っている時点でいや、でも。。。
「…もしかして、俺をまともに愛している人っていない?」
俺の疑問に答えず、スイっと横を見るフォー。眼を合わせてくれない。これって答え言っているようなもんですよね?
「王都の警備ですけど、何かありましたか?」
「あ、ああ。そうだね。」
ローズ並みの話題逸らしに乗っかりながら、俺はフォーに伝えていく。妹の気遣いが逆に心を抉ってくるぜ…。
「そ、それなんだけどね、帝国の工作員は依然と同じ頻度だとして教会のちょっかいをかける回数が増えてきているよ。」
「そうなんすか?」
「そうだよローズ。」
お前は俺と一緒にいたのになんで知らないんだよ。。。
「でも教会って、慈愛と博愛の精神をとするんすよね。。。てなんすかその目は。」
「いや・・・・お前そんなの今どき5歳児だって信じてねえぞ?」
「ローズって優しい子よね。私は好きよ。」
「この話の流れで!?絶対馬鹿にしてるっすよね!!」
「まぁな。」
俺とフォーのサムズアップに気を悪くしたのか、頬を風船のように膨らませながらローズは反論する。
「むむむ!!教会を悪というなんて可笑しいっすよ!!慈愛と博愛っすよ!意味は知らないすけど、いい意味だったっすよ。」
意味は知らないすけど、で全てを台無しにしていることに気付かない少女は、自分の主張を声高に叫ぶ。そういや教会のシスターや神父は貧民街で炊き出しだがなんだか行っているんだっけか。それで餓死から逃れた人間もいるだろう。
その一人がローズという可能性は十分あり得る。それならローズの教会贔屓も納得だ。命の恩人を悪者だという人間はいないわな。
「けどな、ローズ。確かに教会のモットーは慈愛と博愛だけど、あれだって立派な政治団体だ。建前と本音を使い分けるに決まっているだろ。それに今回の場合はよ、」
「聖女が問題なのよね」
俺の話を盛大にぶった切っていくフォー。
俺それを言おうとしていたのに。
泣きそう。
でもそんな俺の顔をシカトしてフォーは話を進めるんだ。アニキてこんなに虚しい生き物なのですか?
「聖女は教会の信仰の要。しかも十二使徒のような戦闘特化と異なり、聖書の記述にある奇蹟の一部を扱う。信者にとっては女神の次に大切な存在よ。それを一国の王子が、友人という馴れ馴れしい名称で自国に招いたまま戻ってこない。聖女に危害を加えたと思われたのかしらね。」
「俺の台詞が全部。。。」
でもローズとフォーはそんな俺を無視して話を進める。やっぱり泣きそう。
「ファイーブ王子と聖女サマが仲良くするのは駄目なんすか?」
「仲良くするだけならいいさ。でも聖女様は何故か教国に戻ってきてないからな。」
「教会にとって一番優れているのは教会であり、教会の総本山である教国こそが聖なる国。人類の全ての楽園。そこを否定したってことは、聖女は誑かされたって思われたのでしょうね。」
「な!?そうなんすか!」
驚いた顔で俺を見てくるけど、俺が言ったわけじゃないからね。十中八九相手がそう思っているというだけ。話し合いしたらそう考えていると分かっただけだよ。
「フォーはローズを揶揄いすぎ。信じちゃってるじゃん。」
俺の責めるような言葉にペロッと舌を出す我が妹。
「え?え?」
混乱した様子のローズを眺めながら、フォーはサクサクとクッキーを口に入れている。良い趣味してるなぁ…。
「…ローズ、そりゃあ神父やシスターとかの下っ端はそう思っているかもしれなけれど、上層部としてはそうじゃないんだよ。」
「上層部‥‥?教会の?」
「そうそう。彼等がファイーブを狙う理由はもっとシンプルさ。政敵は早めに潰したいだけだよ。」
「政敵?」
「そ、政敵。」
宗教は政治だ。
倫理観っていう時代によって曖昧な基準を、宗教という普遍の枠組みで規定しようっていう政治学を持つ人間の集まりが教団なわけ。そしてそのノウハウを長年に渡って蓄積し、国家をもたないことで流動性をもたせる。
極めて無駄のない政党だ。
そんな合理的な政党に属するリアリストのトップが教皇陣なんだ。彼等は信じるだけで救われるなんてさらさら思っちゃいない。
教会の勢力を見れば分かるが、夢見る無能の集団では決してない。
「それが宗教だよ。」
「ま、宗教組織が力を得るのに時間と運が必要だけどね。」
逆に言えば大きく成功している女神教にはそれなりの運と時間があったわけで。。。
そういう奴がファイーブを潰しに来ているということなのだ。
‥‥あいつマジで何してんの。
「そんな教会との話し合いは頼みましたよ兄上。」
「いやどういわけで俺なの?それ関係ある?」
「あるでしょ。」
あるんだ。
・・・・いやないよね?
でもワーン兄上に任せることはできないよな。そうなるとやっぱり俺がする必要がありそうだ。
「ワーン兄上とツー姉上は王位継承戦真っ最中だからな。」
「ええ。」
王子皆で殺し合おうぜ!ていう平和的な祭りである王位継承戦だが、俺とフォーは参戦はしているものの、基本的に干渉は少なめ。
「因みにもしも。。もしもの話だよフォー。」
「何です?」
菓子を片手に、フォーは俺を見る。
「俺も参戦して逃げたいけど。。したら国が傾くよね。」
ピシ!
フォーのクッキーが割れた!?
「‥‥その前に私が貴方を縊り吊るします。」
こわ。。菓子ボロボロになっているじゃん。
冗談のつもりだったのに。
「そして例え今のが冗談だったとしても、貴様は私を怒らせた。」
「え、なんで?」
「今の会話のせいでお菓子が割れてしまったからだ。」
割ったの俺じゃなくない!?フォーだよね!?




