石という飾り
「何コレ?」
手のひらにあるのは、そこらへんに落ちてそうな石。何の変哲もなく、一回捨てれば見失ってしまいそうなほど普通の石だ。
俺こと、スリー第三王子は今、真っ暗な倉庫の中にいる。
どこかは知らない。というか俺が知りたい。
突然影長に拉致られたらここにいた。
「これはな。『魅了キャンセラー』といってファイーブ第五王子の魅了の言霊を消去する装置だ。」
影長の発した言葉を聞き、俺は石を見つめる。
「へぇー。よくこんなものが売っていたね。」
「作ったんだよ馬鹿。」
マジかよ天才だな。
「何でこんなもの作れたの?」
「そのことについて話すにはまず昔話をする必要がある。」
お、おう。なるほど。その昔ばなしの途中で逃亡されない為に閉じ込められたのね。そこまでせんでもと思うが、多分つまらなかったら逃げてる自信があるので一概には責められない。
「話はちょうど300年ほど前に遡る。いいか、300年前だぞ?」
「分かった分かった。300年前ね。」
300年前と言えば、王国最盛期に入ったかどうかの時期。新王国時代と言われるほどで、確か王国の制度が一新して女帝ハオが初めて女性国王として君臨した代。
「その300年ほど前。確か、二代目国王の時代にこの声を持つ伯爵令嬢が片っ端からイケメンを口説いて洗脳逆ハーレムを築いてな。」
伯爵令嬢さん!?
そんな…上手に使えば国をも支配できそうな能力をアンタ…逆ハーて。
いや、自分の力をどう使うかは本人の自由だけどさ…でも逆ハーて。
話の初っ端からツッコミどころ満載だ。
「その事態を見てひとしきり大爆笑した初代国王である女帝ハオ。そして一緒に笑ってたその娘、ムーア様は『魅了キャンセラー』を作った。」
「・・・・え?ひとしきり笑ってたの?」
何してんだムーア様。史実だと脳筋夫を支えた『政治の母』とか呼ばれているのに。
戦争しか頭にない無能夫のケツを蹴飛ばした画が飾ってあるぐらいだから大層頭のネジが旦那さんと同じくらい変だと思っていたけど‥‥笑うて。
俺の中のご先祖のイメージが大崩壊だよ。しかもキャンセラーの歴史は三行で終わったし。
「‥‥なんでムーア様は笑ってたの?」
「何でも女など興味ないと堅物キャラだった婚約者が伯爵令嬢にぞっこんになったその変わりようがツボにはまったらしい。因みにその時の旦那さんの様子を一言一句書き取って、何かやらかしたらそれを宮廷で朗読させただとか。」
「‥‥鬼かよ。」
人の黒歴史は放って置くものなのに。ムーア様の血は何色なんだ。
「ていうかそんなことよく知っていたね。」
「ムーア様はこの王位継承戦の土台を作った方でな、影をも関わるのを恐れたらしい。で、『ムーア様対策マニュアル』という報告書にムーア様の各悪行と影がそれをやられた時の対処法が書かれていた。」
「それ効果あったの???」
「『ムーア様対策マニュアル』の最後のページに『悪くはないでしょう。ただし対策が一通りしか無いのは頂けないbyムーア』と書かれている。」
意味無いじゃん。。。。熟読されているじゃん。
「それでそんな凄いムーア様が作った設計図を基に作った装置がこの石?」
「そうだ。」
「なんでこんなデザインなの?」
同じ魔道具を作る身としてこの石にしか見えないデザインは疑問しか呼ばないのだが。せめて首飾りに加工できるような石にしてよ。
「それは『攻撃力アップに繋がるからいいじゃん』、ということらしい。」
「それもムーア様なの!?」
何で女帝の娘がそんな物騒な発想なの!?魅了を封印する道具でしょ!?攻撃力要りますか??
そんな俺の戸惑いの表情を見たのか、帰ってきたのは侮蔑の声。
「馬鹿が。伯爵令嬢の声に含まれる魅了魔術を石によって封印にしたら、封じられた彼女はどうなると思う?」
「えっと。。。」
「逆恨みで攻撃されるだろう?その際に応戦できるように渡した武具だったらしい。」
「石で?」
「ナイフなんていう凶器を持ち歩くなどありえんだろう。」
「いや分かるけど。。。」
石で人を殴れば死ぬよ??死ぬけどさ。。。
やけにリアルな戦い方を強いるね。
「というか逆恨みなの?恨まれる筋合いあるよね?意識的に人の婚約者寝取っているんだもんね?」
「いや、伯爵令嬢自身としては無自覚だったらしい。何故かいつもモテてラッキー程度に思っていたらしい。」
「可笑しいでしょ!?」
次期王妃のお婿さんとかがホイホイやってくるの変だと思わなかったのか!?そんなあんぽんたんが次期王国中枢の婚約者になるとでも!?
「そんな伯爵令嬢を見て、気にいったムーア様は自分の旦那の第二王妃にさせたのだとか。」
「え、怖‥‥いや怖。」
あの『常に国民の為を想い王国を支えた第二の国母』とか言われていたミルル様が、そんな無自覚誑し逆ハー女だったとは。
外交とかを一手に引き入れ、戦争に励む二代目国王を支えつつも多大な貢献をしたワーキングウーマンの憧れの女性ツートップ。そのムーア様とミルル様てそんな人間だったのか。。。
「因みに王位継承戦の経緯はここから始まったのだと。」
「??あ、まさか。。。」
「王子達に玉座を欲しがるように誘導し、互いに切磋琢磨するように仕向けたのだ。」
すんごいソフトに言っているけど言い換えれば『洗脳で殺意を植え付け兄弟同士で殺し合いさせた。自分の子供に。』とおっしゃっている。うん、外道かな?
「‥‥ていうかムーア様の旦那、つまり二代目国王はそれについてどうも思わなかったの?」
「学園時の時から洗脳されてて言いなりだったらしい。」
ちょっと待て!?洗脳解いてないじゃん!!『魅了キャンセラー』の意味ないじゃん!!
「別に洗脳と言っても思考誘導程度だからな。解く必要性を感じない‥‥と言い切られてしまってな。周囲もムーア様の次のいじりの標的になるのが怖くて反論できなかったそうだ。」
「じゃあ戦闘狂とか言われている二代目国王の異名は。。」
「ムーア様が仕組んだものだ。元々彼女の婚約者は寡黙だが平和を愛するイイ男だったらしい。」
「ムーア様。。。アンタってやつは。。。。」
いや、確かに当時の王国がした戦争の殆どは正当なものだったよ?防衛線の延長戦とかばっかだったよ?
でもアンタ…旦那の悪い癖を窘める良妻的なことを後世の人間に言わせておいて実は自分で全部仕組んでいたのか。
「そんな化け物の血が。。。俺達にも。」
「大丈夫。あの人の怖さを身をもって知っている俺等が保証する。あの化け物の血をお前らは引き継いでいない。」
「実体験なの!?」
嘘だろアンタら何歳だよ!
「因みにそんなムーア様が恐れるのが初代国王である女帝ハオと、そのパートナー、エドワードだ。」
‥‥俺等の先祖って化け物だったんだな。
そりゃあ大国になれたわけだよ。でも先祖にそんな人絶対にいて欲しく無いよね。
「多分お前が思っていることはそっくりそのまま、フォー第四王子が思ってることだぞ。」
「はい!?!?!?」
今の喧嘩買っても良いよね!?
俺ほどの性格が良いお兄ちゃんはいないよ!?
「‥‥みたいなことを、ムーア様も常々言っていたなぁ。」
人の心読むなよ!?
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