王子に対する評価by貴族
「この!!大馬鹿者が!!!」
「ひぃ!!」
怯える息子に躊躇なく拳骨を振り落とす。密かに筋トレしていたお陰で中々な威力を発揮したが、これでもまだ足りない。もっと。もっと強く。
これ以上なく強く殴らねば。
「この!!この!!!この!!!!」
「ち、父上!?な、何故!?」
痛みで動きが鈍った息子は、弱々しい声で私に発する。
「お前は、お前は、一体何という事をしてくれたのだ!!」
「な、なにを怒っているのですか父上!!」
「何故!中立派閥に手を出した!」
こいつはあろうことか、フォー第四王子擁する中立派閥に対して勧誘を行ったのだ。そんな禁忌を冒した愚息は、自信を正当化するかのように見苦しく吠えたてる。
「しかし、父上!どうして黙って見ていられるというのです!この王国を決める大事な時期に、自分の意見も言わず安全圏に避難し、何事もないかのように仕事をする奴らですよ!そのような無関心な奴らをけしからんと思わないのですか!!」
「それも選択の一つだ!それが何故お前は分からない!!」
「何もしないことが選択ですと?そんな怯え腰の人間は王国に要りません!」
この王国の中で、私は息子に十分な愛情と、教育と、金を与えたつもりだった。
なのに、私はどこで教育を間違えたというのだろうか。。。。
暖かい紅茶を口に含みながら、私は外を見る。まるで私の悩みを嘲笑うかのように明るい月夜。忌々しい程の満月だ。
「大変なことになりましたな旦那様。」
「‥‥セバスチャン。」
茶請けとしてクッキーを持ってきたセバスチャンは、私を気遣うような目で菓子を差し出す。そのくどくない甘さを堪能しながらも、私は頭痛の種を解決すべき頭を働かせる。
「…まさか中立派閥に手を出すとはな。」
中立派閥。
政争に関与しないかわりに、自らが関与させられることを拒む集団。主に弱小貴族、文官、商人で成り立つ雑魚の寄せ集め。
塵が集まっても埃にしかなれないように、雑魚は群れても所詮は雑魚。
相手にしなくて良い。する価値もない。
そうなる筈だった。それが普通だった。
あのフォー王子さえいなければ。
「スリー王子の悪逆非道な様は誰もが知っているようだが…。今の世代は、フォー王子の方を誰も知らぬようだな。」
「無理もありません。王家の血が薄いという情報が先行しているのですから。不自然なほどに。」
「カモフラージュか‥‥。」
「そう考えるのが妥当かと。」
王家に生まれる人間には代々特徴がある。
それは、圧倒的な才能。
普通に考えてみて欲しい。散々走り込みして、筋力を鍛えて、長年四六時中鍛えてきた騎士。王城で優雅にお茶会していた王族。後者が前者の首を刈り取るのだ。また齢20に満たない子供がいたとして。それが長年研究をしていた学者を凌ぐ知識を披露する。
そんな異常を可能にしているのが王族の血。この王国では、血統という言葉は比喩でも何でもない。優れた能力と才能は遺伝されるのだ。凡人の努力を砕くそんな残酷な力を持つのが、王族である。今代はファイーブ王子やツー王子に顕著。ワーン王子が平均より少し高いぐらい。スリー王子は性格と魔道具作りに異常な成長を見せている。
それ故に彼等は王子と認められている。その一方で…。
「フォー王子にそんなものは無かったからな。」
「ええ。口さがない貴族は社交界で側室妃の不義の娘だとか言っておりましたよ。」
言うまでも無く我が家のことだ。一人の王子を脱落させるいい機会だとあの時は思ったものだ。
「懐かしいな。あのまま王位継承戦に関与できるものかと思っていたよ。」
「その通りです。しかしあの兄がいましたからね。フォー王子を取っ掛かりにするのは難しかったです。」
スリー第三王子。嫌いとかいうより関わりたくない人間の一位として挙げられる。
「娼館、金融、商人、闇ギルド、教会。貴族の裏の全てと繋がっているからこそ我々の悪事や秘事の全てを網羅している。」
「そしてあの残虐性と嗜虐性。あれと関わるぐらいなら私は自分の財産ぐらい差し上げますね。」
ただただ巻き込まれたくない。それが王国貴族の本音だ。
あれはスリー王子が5歳のことだ。
予算をギャンブルにつぎ込み、脱税をしていた子爵がいた。額は少額だったものの、許されない罪だ。
怒り狂った宰相と、それを見て顔を蒼褪める子爵。そして王と同じくその場にいたスリー王子はこういったのだ。「なら彼の家族を売って損失分を補填すればいいじゃないの」と。
絶句した王の前でスリーは彼の幼い娘と息子、妻を奴隷商人に売った。聞けばこうなることを見越して態々子爵の家族を呼び寄せていたのだとか。
そして泣き叫ぶ子爵を見てスリーはにこりと笑ってこう言い放ったのだ。「よかったね。かけがえのない価値ある家族がいて。これで遊ぶ金もできたよ。」と。
「そこから猛省し真面目に働いた子爵は家族を連れ戻そうと必死でしたね。」
「それを見て満足気に笑うスリー王子を見て我々は愚かにも思ってしまったのだったな。彼の狙いはこれだったのかと。」
自分のした罪を自覚させ、更生させる。何ともいい話なのだと。
今でも覚えている。今日は家族を返してもらうため奴隷商人、スリー王子と会食をするのだと。家族が好きだったシチューの有名なシェフを呼んで、一緒に食べるのだと。そう嬉し気に笑った子爵の顔を。
そうして訪ねてきたスリーは子爵にこう言ったのだ。
『いなくなって初めて気づく。その人の大切さを。ほら、美味しかったろ?その美味しさこそが家族の大切さだよ。。これからも忘れないでね。。。』
訝し気な表情を見せる子爵と、シチューから目玉を取り出し口に含むスリー王子。それを見て子爵は真実を知ってしまった。自分がその時食べているシチューの具の正体に。
「そこからの子爵は見ていられなかったな。」
「そうですね。。」
発狂し、そのまま首を吊ってしまった。
そんな子爵をも捌いて料理したとかいう噂も流れていた。
思わずため息をついてしまう。あの時私は、保証人として子爵とともに呼び出されたのだ。当時の惨状を目の前で見た第一人者…シチューを食べなかったのは不幸中の幸いだったな。
「スリー王子のしたことは。金の為に一家を売った。その家族を子爵に内緒で買った。そしてその奴隷を殺害した。」
「弁償金を工面すべく担保として確保した財あるものを売る。奴隷を買う。奴隷を好きに扱う。スリー王子の行動のどれ一つとっても当時の法で捌けません」
その後、何気ない顔で「奴隷に酷いことするのはよくないね!」と言って奴隷制度の改革を提言していた。
「自分で好き放題弄んで、それを正当化して。今度はその正当化した法を変える。何がしたかったのか未だに分からない。。。」
スリー王子の言動は支離滅裂。矛盾しているのはいつものこと。異常なのは自分に味方する人間も敵対する人間も笑顔で不幸に突き落とすこと。先まで好きで好きで仕方が無いと言っていた物を躊躇なく壊すところ。
貴族の誰もが恐れている。その心の歪みに巻き込まれないことを。
「‥‥そんな兄がいたフォー王子だ。幼いフォー王子に関わればスリー王子に関わるのは必至。だからスリー王子が学園を卒業するまで皆待っていた。」
そうすればスリー王子と関わることなくフォー王子を蹴落とせる。そう思っていた。
「そしたらやはり王族でしたね。」
「ああ、あそこまで化けるとは。」
フォー王子は弱い。フォー王子は頭が悪い。フォー王子はセンスがない。それを誰よりも知っているからこそ彼女は自分を徹底的に守ることにした。
守る為に周囲の全てを利用した。中立派閥というものを作り上げた。彼女は、必要なら嫌いな人間をも味方に入れる恐ろしい人間になっていた。
「折角担ぎやすいファイーブ王子やツー王子の派閥に息子を入れたのに。。。あんなところに喧嘩を売ってはひとたまりもないぞ。」
ファイーブ王子やツー王子は迷わない。自分の捧げた目標が正しいと信じているから。だからこそ、付け入る隙がある。
「程々に困難を与えて、仲間と共に乗り越えてはいゴールイン。そんな冒険譚を与えてあげれば簡単に操れる。いい神輿だよ。」
「本人達の能力が高い事も相まって、難易度設定に気を揉む必要もない。優秀で楽な駒ですね。」
しかしフォー王子は違う。彼女は知っている。彼女は自分がどれだけ落ちこぼれで、それだけ才能が無いのか知っている。だから彼女は、調べて調べて調べ尽くしてから選ぶ。
自分の目標が、考えが、常識が。根底から間違えている可能性を視野に入れている。その為に何度も何度も何度も手を尽くす。
「我々の干渉に全て気付くだなんて思わなかったな。」
「末恐ろしい人です。私があの年には老獪な貴族共に騙されまくっていましたから。」
彼女は油断しない。敵には逃げ道を絶対に作らせない。そんな隙は決して見せない。完膚なきまで潰す為に万全の態勢で攻撃してくる。
「…エナンチオマー侯爵の時は驚きましたね。何か手を打とうとしても何もできなかった。」
アレが死んでも問題ないように代わりの文官を用意して。証拠も全て揃えて、それが既に国民に流れていて。そしてそれが全て真実だった。そこから誤情報を流そうにも既に根回しは済んでいて。
我々が気付く頃には全ての準備を終わらせていた。
「そしてそれを見せしめという形で今後の派閥に活かした。」
「王の親友でさえ許さない。その場にいた誰もがそんなフォー王子の心の声が聞こえてきた筈。」
「しかしあんな見せしめをしなくても、十分わかっていましたのにね。」
「そう思っていた俺達が間違っていたということだろう。現に我が息子は忘れていたようだ。」
人は簡単に忘れる。
だからフォー王子は定期的に見せしめを行うことを決めた。その対象は全て、それだけのことをした貴族だ。文句を言おうにも、表立って言えないことをした貴族が消えていく。
「今回のことで、見せしめの候補となることは無い筈だがなぁ。。一応我が家は少ししか後ろ暗く無いものなぁ。。」
「でも打てる手は打っておくべきでしょうね。」
その通りだな。
「では旦那様。そろそろです。」
「…ああ全く。嫌になるな。」
派閥を抜けて、息子を勘当したぐらいであの化け物は許してくれるだろうか?
いや、手打ちにしてくれるのかと言うべきか。
なぜなら彼女が人を許すことは無いのだから。
インタビュー!!!
Q「なぜあんな惨い事を子爵にしたのですか?」
A「子爵の驚く顔を見たくてさ。。。。。。。ついね。」
*特別な許可の下取材をさせていただいています。
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