第24話 愛しい愛しい私の母。
今謁見の場にいる私は、唖然としている。実兄も同様の表情を浮かべている。王家は全揃いの中、見慣れぬ、いやいる筈がない少女が一人いるからだ。それも父王の隣に。
父王の隣に立つのは幼い少女。若々しい青葉の様な緑色を仄かに混ぜた茶色の髪に、同じく怯えた翠色の目。緊張している様子が手に取るように分かる。
少女が王国の民と異なるのは緊張の為か頭にピンと張った耳と、服から見えるふさふさの綿毛のような尻尾があること。
そんな少女の肩に馴れ馴れしく手を回し、父王が大仰に口を開く。
…まさか。
「紹介しよう。我が国と正式に同盟を結んだ親交の証として獣人の国から嫁ぎに来たサーシャ殿だ。我が国は第三王妃として彼女を迎え入れる。」
・・・・は?
いやいやいや。
待てよコイツ。第一王妃、第二王妃、側室妃、公妾。で、次は第三王妃??今までの王族で5人も娶ったのコイツだけだぞ。下半身だけで生きているのか?
愕然とした私や王妃の顔を一瞥もせずに、上ずった声で少女は挨拶を述べる。
「獣国の第六王女、サーシャです。未だ成人していない若輩者ではありますが王妃としての・・・」
しかもこの娘まだ13歳じゃない。私よりも年下なんだけど。
え、本気?コイツ自分の娘より若い年の人間と結婚しようとしているの?
つい隣の実兄を見ると彼は分かったと言わんばかりにウインク。
流石兄上。頼りにな…いや、何が分かったんだろう。私なんの要求も言っていないのに。
そんな私の困惑を気にもせず、真面目腐った顔で兄上は一言だけ述べる。
「畜生にも発情するとか父上は末期で御座いますな」
兄上!?陛下の前でそれ言っちゃ駄目でしょ!!
「ふ!…ふふふっ。」
おっと笑い声が。誰からでしょう?このような面前ではしたく笑うなんて恥を知りなさい…はい、笑ったのは私です。ええそうです。笑ったのは私ですが何か?幸せの象徴たる笑いを皆さま槍玉にあげて楽しいですか!?ええ?どうなんです!?
「兄上!姉上!どうしてそのようなことを言うのですか!」
けれど弟はそう思わなかったみたい。ありありと怒りを顔に表している。
正義漢溢れる弟が私と実兄に食って掛かる後ろで満足そうにうんうん頷いている姉上。きっと弟の積極性に感動しているのね。何も役に立たない情報ね。因みにワーン兄上は無視している。関わり合いになりたくないんだろう。兄妹の絆って言葉知っているかな?
私も同じ立場にいたら傍観きめるけど。でも私がするのはいいけどされるのは嫌な訳。分かる?
私のそんな思いが届くわけもなく、必死で私から目を逸らすワーンと、必死に私に声を荒げるファイーブ。
「人に対してそのような侮辱を吐くなんて。王族以前に人として必要なものが不足していらっしゃるのですか!」
コ、コイツゥ。実兄はともかく私にまでそんなこと言う?実兄と同列に言われているようでショックなんだけど。
最近弟が私への態度が変だ。前はあんなにも友好的だったのに今や刺々しい言動が目立つ。
でさ、分かるよ?この弟が何を言いたいのかも。そりゃあ差別は良くないよ。でも、獣人だよ?『人』じゃなくて『人の形をした別型』なんだよ?貴方は犬猫と交尾する人間がいたら絶句するでしょ?それと一緒よ。
と思ったけど何も言わない。そしたら弟は調子に乗ってまだまだ喋りだす。
「ましてやサーシャ様は獣国と我が国の親交の証!政治的重要な立場にいるお方!その方を畜生などと罵倒するなど王族としての自覚が足りないのではないですか!」
絶好調だなコイツ。
父王はうんうん頷いている。コイツはただ親友が殺された恨みを晴らしたいだけだ。
「うむ、ファイーブの言う通りだ。そのような因習にとらわれた見方は王族に相応しくない。二人とも大いに反省せよ。彼女には王国と獣国双方の架け橋として嫁ぎに来ているのだという事実を今一度噛みしめろ。」
何か口出ししてきたぞ!?しかも偉そうだなコイツ!?何様だよお前。
あ、こいつ国王だったわ。忘れてた。
そしてその言葉にカチンときたのか兄上は口を開く。
「じゃあ何か?王国はこの大陸全ての親交ある国家と婚姻関係があるってことなのかな?面白い嘘ですね。そもそも婚姻以外にも架け橋としての方法はあるでしょうに。…これぐらい、最低限の勉強をしてれば分かるものですけどねぇ。」
相変わらずの悪意に満ちた発言の実兄だが、まさにその通り。親交の証としては国宝を預けるとか、年に一度交流祭を行うとか、様々な方法がある。娘を送るだけじゃないのよ。それしか無かったら怖いわ。逆に婚姻だけで親交が結べる人間関係ってなによ。
・・・まあ、サーシャ様は獣国内で命狙われてから避難しに来た的なオチなんだろうけど。それでも留学とか、色々な方法があるわよね。婚姻は無いわ。
どうしてここまで娘と父上の婚姻を否定しているのかと言うと、父王は女関係だけは屑だからなの。いや、子育てもか。契って、産んで、ハイ次の女性。こればっかりだ。今も王妃以外に数人の愛人がいるし、それだけならいいけどその女が子供産んだらどうするかとか全く考えていないの。
だからそういう『婚姻』には父王の私情が含まれていると確信している。つまり父上ロリコン死ね。絶対口には出さないけどね。
そんな風に思案していたら私の方にギュユリと首を曲げる実兄。キモいなソレ!?
「どう思うフォー?婚姻しか親交の証にならないのかな?」
お?・・ああ、そういう。
「…いえいえ、スリー兄上。もしかした父王には私達には思いつかないような海よりも浅く、山より低い考えがあるやもしれませんよ?」
「なんとそれはそれは!あまりにも浅はかすぎる考えで私のような若輩者には理解できんということか!それなら納得だ。」
「当然ですよ兄上。自分の娘より幼い者を娶るなんてまともな考えを持つ人間じゃあり得ませんよ。」
「「・・・・・」」
ふふふ。
「「はっははははは!!」」
・・・つい父王の前で大爆笑してしまった。
不敬罪に全力でタックルぶちかましている態度だけど、ここまで言われたら父上は安易にサーシャ様と婚姻を結ぶことは出来ない。
それは私達にとっては喜ばしいことだ。
だってサーシャ様には幸せになって欲しいもの。
成人しているなら自己責任じゃ知るかボケェ!て言えるけどさ、そうじゃないような13歳の少女ならある程度は守りたいと思うじゃない?だから婚姻を取り消そうという意図で今実兄と私が発言しているのだ。
もっと分かり易く言うのなら。
この婚姻はサーシャ様の幸せにはならない。
サーシャ様。姉上、愚弟は何も分からずポカンとしている。まあ年齢と職種を考えると仕方ないよね。いや姉上は知っとけよと思うけど。けど仕方ない、姉上だし。
逆に意味をはっきりと理解している兄上や王妃達はシカトこいている。関わりたくないんだろうね。
まあ今の発言殆ど父王への罵詈雑言だからね。流石に賛同とかできないでしょ。
それでも兄上も第一王妃や第二王妃も今回は私に賛同しているのか窘めるようなことは言わない。
口に出して援護しろよとは思うけど、王妃たちが口出ししたら女の嫉妬とか言われるし、兄上なら今後産まれるかもしれない兄弟に脅かされないかビビっているとか言われるから口出ししないのがこの場ではベストなんだ。
「二人とも、誓ってそのような下心は無い。これは王国と獣国の将来を真剣に考慮した結果なのだ。」
何か口調が柔らかくなったな父上。さっきまでまるで『唯一無二の親友を無惨に拷問された相手に恨みをぶつける』かのような口調だったのに!
図星だからだね。誤魔化しへたくそかよ。
がここで終わらせる気はない。
「うそでしょ。ふざけているの?」
「まじで考えた結果がそれ。。。?」
「13歳と結婚…??」
「‥‥頭大丈夫ですかね?」
本気で考えた結果が結婚とかどこの恋愛小説やねん。現実見ろや。
とまぁ、国王に中々失礼な口きいている私達だけど、婚姻に反対している理由は父上の女癖の悪さだけじゃない。
ここで話はちょっと脇道に逸れる。
獣人という生き物についてだ。
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