第15話 嫌いな兄だが、無視できない兄だ
さて、悪逆非道で価値観が現代世界じゃ追い付けないスリーだが意外にも一番執務を担っているのが彼だったりする。
二番目は私。というか私の派閥の子達ね。
ワーン兄上は数よりもベリーハードな質な案件を抱えているし、姉上は論外。ファイーブはそもそもノータッチ。
だから数と質の両方を考慮すれば、スリーが一番仕事をしているのだ。
話を戻すが、スリーはあんな性格だが成果だけを見れば案外真面目。
なぜか。
それはこんな性格の兄上を縛っているのが王族という血鎖と、良心だからだ。
七大罪の感情しかない様な兄上には、七美徳もきちんとある。それを霞ませるほどの混沌とした悪意への愛があるから見えにくいが、良心は確かにある。その善意が、僅かな良心が、人を傷つけることを拒んでいる。
だから彼は臣民が傷つくようなことはしない。だから彼は真面目に責務をこなす。だから彼は王位を望まない。自力で届くとこまでしか愛を伸ばさない。手を伸ばすことで失われる命が多すぎるから。自分が王位を手にしたら悲惨な未来しか王国には待っていないから。
それを知っているからこそ兄上は出世争いに参加しない。
よくやった実兄の良心。
花丸をあげよう。できれば自害してくれ。
そしてもう一つの理由が王国の守護者としての立場と血。それが彼を地獄から退けている。影長とポーカーで命を賭けるような男だ。命の価値は軽い。自分だけじゃなく、他人すらも軽い。愛の比率が圧倒的に重く、それに反比例するように命の価値が低い。
そんな性格でも、国民を巻き込むことを許さない。なぜなら、王族の責務が国民の悲哀を許さないから。
責務だから、そうあるべきなのだ。そういうルールの中で生まれたから、彼はそのルールを守ろうとしているんだね。
この良心と王族という責務が無ければ実兄は『悲食』のような世代級の悪魔になっていただろう。アイツ知っている?まず初めに殺し合いさせるんだ。その様を絵に描いた後殺すんだ。悲しみの先に到達した人間は何よりも美しいからだって。
キチがいだよ。
そんな実兄のような存在がいるから私は平和を愛する。兄上の妹でいたからこそ、私は平和の尊さを実感してる。母が、恋人が、稚児が戦を求めようと私は何が何でも平和を優先する。
それを害する者は例え神でも切り刻んでやる。
「フォー何か顔怖いよ?にっこり笑いなよ。女の子ならそっちの方が可愛いよ。」
「それはセクハラですよ。」
「はい!?それそういう意味だっけ!?」
「はい。人に笑顔を強要&性別による理由。立派なハラスメントです。」
そのままスリーがぎゃぁすか言っているが無視。セクハラと言えばそれはセクハラなのだ。
セクハラは何かファイーブが作った言葉だ。意味は良く知らないけど、性別に関してデリカシーのない発言に対して良く言っている。アイツの頭の中どうなっているんだろ?
「それで文官からの報告は?」
スリーは私の発言を冗談と捉えたのかすぐさま次の話題へと移行する。私も冗談でいったのでセクハラ云々は忘れて報告に専念。
「取り合えず王霊議会の回数を減らしたいファイーブ派閥と増やしたいワーン派閥が争っているだとか。」
「それでそれで?」
「それぞれの派閥の貴族が文官に干渉してきています。ある程度は突っぱねているのですが、中には笑えない提案もありますね。」
「人質で脅迫とか?」
なぜ分かる。やはり同類じゃないか。
「…そうですね。あと家族が病床に臥していて、その治療費を肩代わりしてあげるとかそういうモノもありますね。」
「あるあるだねー。」
あるあるじゃないよ。普通に暮らしていればそんな状況にはならない。同じ城に住んでいて何でここまで常識が違うのかな?
でも私はいい子だからそんなことは言わない。代わりにそっとスリーに書類を渡す。
「これがそれをした兄上ワーン派閥の貴族のリストですね。」
なおこの別名を『近いうちに絶対殺す奴らリスト』ともいう。文官が恨みつらみを込めて夜なべで作成したもので、呪いが具現化したようなものだね。はやく成仏させてあげて。
「はやく粛清してくださいね。」
「了解だよー。」
時々動くからそれ。
マジで怖いの。
シェードなんて震えながら私のベッドに入ってくるのよ。幼児かおのれは、て茶化そうと思ったけどそれが許されない程ブルブル震えているのよね。
一人で外で立ってろなんて流石に言えなかったわ。
スリーはパラパラと捲りながら私に尋ねる。
「ファイーブ派閥の分は?」
「ちゃんと姉上に渡してますよ。分かっていると思いますけど改善しなかったら、」
「分かっているからその顔やめて!?怖いから!!フォーは普通の言葉なのに威圧感が出るのは何とかした方が良いよ!?」
それは失敬。でも日常会話で威圧感が出るとかどうしろって言うのよ。
「それと経費、というか貴族間でのお金の流れが早いですね。何千万という金が毎日動いています。」
「あー。確かにそうなるだろねー。」
私の言葉に納得したように手を叩くスリー。自分はちっとも関係ないような態度やめてくれない?私は結構金欠なのよ。
「今年は仕方が無いとはいえ、来年まで続くとなると厳しいですよ。」
「分かっているよ。」
貴族は兎に角金がかかる。パーティーも、ドレスも、食事も使用人も、平民とは比べ物にならない量の金がかかる。まあその分収入が大きいのだけれどやっぱり出費も大きい。
だから他の貴族と親交を深めるだけで金が飛ぶし、それを毎日行っている貴族なんかは今年は赤字なんじゃないかな?流石に貯蓄があると思うけど。それに今ここで親睦を深めて色々コネを作っとかないと後で不利益を被るからね、仕方がない。
「そしてそういう家にお金を貸して、傘下に入れているのがワーン兄上の派閥だね。」
悪徳借金取りのようなことを貴族単位で行っているからスリーの懐はウハウハ。それに反比例するように彼への評判はマイナス一直線。ざまぁ。でもお金は貸して。
「その常套手段で雪巫女のドレイク家に行ったらファイーブが借金返したんでしたっけ?」
「あれは仕方ないよ。S級モンスターを狩るなんて発想俺には無かったし。」
まず狩ることが不可能だからね。S級て国全体で取り掛かるレベルなのね。頼むから常識を知って欲しい。
「それでまあ、執務も治安もまだ耐えられるっていう状況ですかね。」
「そうだね。治安に関して言うなら、貴族間での暗殺襲撃が相次いでいるから騎士団もそっちで忙しくて、今はマフィアと争う余裕がないってさ。」
へぇ。
「だから騎士たちは兄上達の不正を見張っていると?」
「そそ。」
成程。暗殺案件に人手を割くために、より少ない人間で対処できる方を選んだのか。騎士団も大変だな。後で姉上にスイーツでも差し入れてあげよう。
「まあ、王都全部のマフィアを監視するよりは僕らを監視する方がまだましだからね。執務の方は大丈夫なの?」
「文官への交渉条件があの程度でしたらまだ私で対処できますから。文官と宰相が消えない限り執務は滞りなく進みますわ。」
「父王と兄上ワーンは?ずっと喧嘩してるけど執務に影響は出ないの?」
至極まっとうな質問だが、その件については問題なしだ。
「いてもいなくても大して変わりませんので。判子押す係は王妃様達がいますし。」
しかし私の返答に納得がいっていないよう。
「判子押す人っていうのは最高責任者のことでしょ?」
「ええ、書類を確認するだけではなく、予算のバランスや、各部署の軋轢を考える必要があるから包括的な政務知識が必要で、選ばれし者しかなれないですね。」
「なのにいなくて大丈夫なの?」
「ええ。普通の国なら2人ぐらいしかいませんけど、王国には父王、第一王子、第一王妃、第二王妃、あと宰相がいますので二人ぐらい喧嘩で消えても差し障りは無いの。」
そして普段から後者三人が殆どの責務をこなしているから今更消えても問題なし。
まあ居た方がいいのだけどね。それに必死に仕事している間に上司はただ喧嘩しているだけとかだったら不満は貯まる。私だったら殴っている。勿論グーでだ。
「…それって差しさわり無いて言うの?トップの二人が一番仕事してない終わってるよね?」
「さぁ?」
私には関係ないから。
悲食
突如王国に現れたS級の悪魔。シルクハットとスーツを身に着け、如何にもな紳士姿を装うこの悪魔は、人の悲しみの様子が何よりも大好物である。その大好きな悲しみの表情を絵画に残し、コレクションに加えることを至上の喜びとしている。
王国の復讐の為に召喚されたのか。それとも誰かが自分の地位からを誇示したくて召喚したのか。未だ詳しくは判明していない。
____________________________________________________
皆さまの感想、意見、アドバイスお待ちしております。
誤字脱字の指摘も是非、お願いします。




