第14話 けど兄とは認めたくない
私と兄上が定期的に話をする理由は簡単。
兄上は息抜きを兼ねた勧誘。帰れ。
そして私は情報目的。兄上の目と耳は王都内の全てに張り巡らされているから、彼の情報は大いに役立つ。時々嘘吐くし、悪意に満ちた誤解を招くような言い方をするから精査する必要はあるけれど、ないよりは断然いい。
‥‥断然良いのは事実だけど嘘吐くなよ。
「それで何か新しい事はありますか?」
憂鬱な気持ちを抑えながら私が尋ねると、兄上はにこやかな笑顔で答える。
「特には無いね。でもマフィアと騎士団のいざこざは起きている。幸いなことに死者数は1桁だよ。」
いや死者数が出てる時点で大惨事では?やはり認識の違いを実感するよ。キチがいと常識人じゃ感性が相いれないのだ。
「何か失礼な事考えてない?」
「いいえ、全く。他にはありませんか?」
私の言葉に首を捻っている兄上。変なところで勘がいいのも嫌いだわ。
「確か暗殺ギルドからは王族の首の値段が下がったとかで、狙われる頻度は減ると思う。その代わり貴族を狙った依頼が増えている。派閥内での死者は増えるだろうね。娼館からは喧嘩とか死者数は増えているけど、治安は未だ変わっていないって。表面上は大丈夫みたい。マフィアには引き続き言い含めているし、暗殺ギルドと影に治安維持を頼んでいるから、数週間は大丈夫じゃないかな。」
逆に言えば数週間しかもたないと。その間に私を狙う馬鹿を潰しておきたいわね。
「騎士団の方はどうですか?」
「子飼いの子たちによると、マフィア掃討てとこまで行っていない。それよりも俺とか兄上ワーンの悪事を血眼になって探しているって。」
この時期に‥?ああ、いや。王都中のマフィアにまで手を回せないから、兄上達に的を絞って人員を集中させたいのか。
「その方達の情報は信用できますの?二重スパイという可能性は?」
「嘘ついたら収賄と予算横流し、あと功績の水増しをバラしてから将来お前の子供を自殺に追い込むからなって言っているから多分大丈夫。ある程度の地位を持っている奴が一番恐れている脅迫文句だからね。」
ふふふと笑いながらワインを口に含む兄上。世間話をするかのように嫌がらせをしれっと思いつくのが兄上なのよね。流石。いや流石じゃないわ。嫌がらせの天才を褒めてどうする私。
「‥‥兄上の頭の中は縄よりも複雑に捩れているのでしょうね。」
きっと腹の中に悪魔でも飼っているに違いない。そう思って呟いた言葉だが、兄上には響いてすらいないようだ。眼をパチクリとして私を見ている。
「何を言っているのさ。友人と親交を深めたい。だから相手の気持ちを考える。そして相手に誠意を見せる。普通のことだろう?」
「その誠意を喜んだ人間を私は知りませんがね。」
「おいおい、人の評価を気にするなよ。大切なのは『人にどう思われるか』じゃなくて『自分がどうしたいか』、『自分がどう思うか』、だろ?」
悪質な解釈やめろ。けど兄上は本気で言っているのだから性質が悪い。
兄上は悪意の中でこそ輝く。悪意の中で心地よく眠り、憎悪の中でこそ力を発揮する。人の醜さを愛している。悪意と醜さと憎しみの中でこそ、愛は強く、一等星のように輝くから。
性根が腐れ曲がっているってことね。子飼いの口説き文句が嫌だというけど、あれは大分的を得ている。兄上は破滅主義者で混沌信者で、刹那的な享楽狂だ。
破滅の中で瞬間的に燃え上がる愛が見たくて見たくて仕方がないのだ。
酸いも甘いも噛み分けるなんてどころじゃない。全てを噛みしめ楽しんでいる。そこからまだ見ぬ愛の発掘を求めて。それも愛だと嘯うそぶいて。その為の対価が自分の命だとしても決して厭わない。
だって普通裏切り者を傍らに置かないもの。しかも影よ?プロフェッショナル・オブ・暗部よ?殺しも工作もスパイも兼ねるやべー奴よ。そんな奴に悟られぬまま傍に置くなんて技術的にも精神的にも不可能だわ。
こうして脳内の『兄上の嫌なとこリスト』を更新していたら、兄上はフォークを片手に私に問いかける。
「フォーは何かないの?フォーの情報は結構タメになるから助かるんだけど。」
「使用人から王族の態度に対しての苦言が少々ありますよ。」
「へえ、どんなの?」
「食事中に怒鳴らない、床を傷つけない、せめて修復できる程度の傷に収めること。部屋を散らかさない、執務を口喧嘩で中断しない。」
「ははは、申し訳ないね。」
「まあ、次から改善すればいいのではないですか。そこまで気に病む必要はないかと。」
「そう? じゃあちゃんと謝れてえらいね、ってほめて」
「・・・・・ちょっと黙ってくれません?まだ苦情はあるのですよ。」
「ごめんなさい。」
空虚な謝罪を聞いて尚イライラが収まらない。ていうかコイツいつ謝ったっけ?謝ってないのにあんなこと言うとか図太すぎる。
だがここで兄上を問い詰めても意味がないので続きを述べる。
「八つ当たりで備品を壊さない、毒見とは言え行儀よく食べて欲しい。それと各王子の評判を態々聞いてくるのは辞めて欲しい、それと城壁を伝って登るのは辞めて欲しい、まあそんなところです。」
「最後のは誰だよ!?城壁登っている王族いるの!?」
王族はそもそも無断で城を出ない。いや、出れないと言うべきか。本人は無断で出ているように思っているようだが、それが許されないほどの価格をかけて育てたのに、監視が目を離す訳がなのだ。
だから外に出たければ、そこら辺の暗闇に行ってきますって言えばいい。だいたいそこに監視はいる。見えなくてもいる。それが監視ガチ勢のなせる業。ストーカーにならないことを祈ろう。
そしてそれをしないってことは。。。。
「ファイーブですね。あの子は監視の存在を知りませんから。コッソリ城から出たり入ったりしていますよ。」
「コッソリの手段がそれって。買収とか脅迫とかで目を瞑ってもらうとかあるだろ。。。」
お前もなんでだよ。なんでそうなる。普通に頼めばいいでしょうが。買収も脅迫も普通じゃないんだよ。
やはり兄上とは価値観が異なるのだわ。
宇宙人と話している気分になる。
「・・・・。」
なんなのさシェードその顔は!?
監視
影の見習い、通称「卵」がこなす業務。隠密訓練を兼ねており、如何に王族に気取られるずに王族の様子を観察でけいるかが評価対象である。中途半端な結果を出せばそれ相応の成績になるので皆必死である。
かつてスリー王子という災害のせいで合格者がゼロになったというという歴史があり、皆必死に取り組んでいる。
通常、1人の王子に3人程の卵が受け持ち、その様子を1人に影が評価し、その影と卵の様子を影長がチェックする。
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