第13話 実の兄
扉のすぐ傍に立つ男。どことなく私に似ているようで似ていないと、これまで幾度となく言われてきた。そんな男に嫌悪感を露に見ているシェードはマジ勇者。
「勝手に入ってくるなんて無礼ですよ兄上。礼儀はどこへやったのですか?」
そして私は、先ほどまで散々コケ降ろしていたことを棚に上げて兄上に抗議する。
「いや何回もノックしたのに開けてくれなかったじゃん。何かあったのかなって思うでしょ。」
「嘘つかないでください。」
「いや嘘じゃないよ!?フォー達さっきから俺への当たりキツイよ!?」
嘘じゃないのか。
「シェード、兄上の言っていることは本当かしら?」
「生憎、数分前までの記憶はございませんので断言できませんが…」
「断言できませんが、、、?」
「恐らく嘘かと。」
「マジかよ兄上最低ね。」
「ちょっと!?」
慌てた顔で私達を見てくる兄上。ふむ、嘘がバレて動揺しているようね。
さて、改めて紹介しよう。
彼の名前はスリー第三王子。私の兄だ。
肥満体でもなく、痩せこけている訳でも無く。平々凡々な中肉中背の体格に、茶色と金色が混髪。そして死んだ魚の目のように生気が感じられない紺色の目。
高額そうな魔具を見せつけるかのように身に着け、正気を失うような狂気的な笑顔。
うん、我が兄ながら酷いな。髪はともかく、目と笑い方が気持ち悪いのだ。
「人は見た目が9割と言いますしねぇ。。。」
「ねえそれ本人の目の前で言う事かな??」
心底傷ついたと言わんばかりに私を見てくる兄上は、反応だけ見れば一般人。何も知らない人が見れば人畜無害な青年だと思うだろう。それが私の実兄。私と同じ側室妃を母に持つ同腹兄。
この兄上には才能と言えるものが無い。長兄程の鍛えた器もなければ、姉上のように無謀なことに身を投げ込む考えなしの度胸もない。弟のように圧倒的な才能もない。
でも兄上が一番の異常者だ。シェードの態度を見れば分かるように、王族内で兄上だけは敵に回したくない。だから警戒は決して怠らない。
「まあ次からはきちんとノックしてきてくださいね。」
「いやノックしたて言ったよね?」
兄上がなにかほざいているが無視。兄上だからね。十中八九戯言だろう。
「それと兄上はシェードに近づかないで頂けます?貴方レディーの年齢を勝手にバラしやがったじゃないですか。」
「年齢じゃなくて、秘術の影響で見た目とは違うよってことを伝えただけでしょ。」
「そこが駄目なんですよ腐れ外道が。」
「おい!?兄ちゃんに対してそういうの言わないでくれるかな!?」
うん、ごめんね。でもお前レディーの齢ばらすのはマジで大罪だからな?そこんとこは私忘れてないし許さないからな?
それにしても、訪ねてきたのは兄上一人か。。。
「・・・・シャドーウはどうなったんです?」
「さぁ。今頃は影長とお茶でもしてんじゃない?」
まるで死んだ虫けらを思い出すかのような口調で話すスリー。その口調にぞっとする私は、変だろうか。
「そんなことよりさフォー。」
「なんですか?」
少年のように瞳を輝かせる実兄を見て、うすら寒いものを覚えながらも私は返事する。
「今日の兄上と姉上の喧嘩見た?フォーの部屋を訪ねた後、フォーを巻き込むという罪深さを槍玉にあげて派閥争いしてたよ。」
「そう。」
なにしてんだアイツ等。
「いやー、にしてもいいよね姉上と兄上。応援したくなる。」
「どっちをですか?」
「愛をだよ。互いを想い合うゆえの愛。素晴らしいよね。」
うん、話が通じていないよね。
ちょっと待て…、今の話を整理すると、だ。
「スリー兄上は、ワーン兄上とツー姉上が互いを想う心を応援すると?」
「そう言っているじゃん。」
何を当たり前のことをと言わんばかりの顔には心底腹が立つな。殴りたいなこの笑顔‥じゃなくてだ。あの二人が互いを想い合う感情と言えば…憎しみしかないよね。
「人を憎む感情を、貴方は愛と呼ぶのですか?」
「当たり前だろ?相手を強く想う心は、何であろうと愛なんだ。」
出た。こういうところが彼を嫌う理由なんだ。話が噛み合っている筈ようで噛み合わない。同じ場所で生活したはずなのに、意味の分からない価値観のせいで会話が成立しない。
だいたい憎しみを応援するて何だよ。辞書引いて誰もが分かる文章に作り替えてきてから言葉にしてくれ。
「つまり兄上は双方の気持ちを応援すると?」
「愛だからね。」
愛。
兄上の頻出ワード。
愛。そのものの価値を認め、強く引きつけられる気持ち。兄上は簡単に言うなら愛を愛してるんだ。
愛を愛しているならキューピットだけど、アレが愛してるのは恋愛だけじゃない。性愛、欲愛、渇愛、親愛、慈愛、仁愛、鍾愛、共愛、敬愛、博愛、恵愛、信愛、遺愛、恩愛、情愛、神愛、偏愛、溺愛、隣人愛、自己愛、フィリア、アガペー、エーロス、ストルゲー。憎しみに隠された愛だって愛してる。
だから愛を発する存在を愛してる。人を、世界を、全てをひっくるめて愛している。だってそれには美しい愛があるから。
・・・・それはこじつけじゃね?て思った人。私もそう思う。でも実兄の中ではその理論が正義なんだ。破綻した理論が正しいんだ。兎に角愛が、そして愛を発する存在を愛しているって訳。
歪だよね。少なくとも私はそう判断して距離を取ることにしているよ。
アイツが愛する存在はポンポン変わる、いや増えるというべきか。さっきまで味方だったのに次の日には敵なんてザラにある。大好物な愛を発する存在を見つけると、そいつの見方にジョブチェンジするからだ。
だから皆に嫌われる。私だって嫌いだわそんな奴。
そんな歪な形であるからこそ、ありようも歪ゆがんでいる。
マフィアの狡猾で残忍な悪意、暗殺ギルドの洗練された怜悧な殺意、商人の清濁併せ呑む果てなき欲望に、娼館の自身をも巻き込んだ破滅的な抗い、影の無機質で純粋な忠誠心。それら全てを彼は愛し、その全てを備えているのが兄上だ。
彼らのクソッタレな生き様を肯定するための腐った自愛。反吐が出そうな世界を少しでも報われるようにと色付ける慈愛。他者やモノに依存することでしか自我を保てない狂愛。実兄は世界を色付ける愛を何より好むのだ。
というらしいけど何言ってんのか分からないから取り合えず距離を取っている。誰か翻訳頼むわ。
けど流石に今日みたいな重要な話し合いではそんなこと言えない。妹は辛いね。
私にはできるのはため息を吐くことのみ。
「マジで兄上嫌いだわ。。。。」
異腹妹ならともかく、同腹妹だからね…。嫌でも顔を会わせる必要がある。
「はっきり聞こえているのだけれど。。。???」
「独り言ですよ。盗み聞きしないでくださいよ。」
「妹怖い。。。」
おいこらふざけんな。今のは納得いかないぞ。
愛
スリーの提唱する愛とは、誰かを強く想う心である。そこに憎しみがあろうと怒りがあろうと悲しみや絶望があろうとそれは愛なのである。
つまり滅茶苦茶な意見と言う事である。
スリーが嫌われるのも納得ですね。
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