第12話 私には兄がいる。これは嫌な方です
あの後何事も無くファイーブ達を帰した私は、夕食の手配のチェックをしている。次に会う実兄のスリーは愚弟のように参加者を増やす様な真似はしないと思うけど、一応確認の手紙を送る。
でもあいつ友達いないから大丈夫か。
「フォー様もいませんよね。」
「はぁ!?いるわよ失礼ね!!」
皆私が幼い頃に死んじゃっただけでいますー。
あと文官とかの部下がいるわ。
「だからスリーとは違うの。分かる?」
「・・・・ソウデスネ。」
「なによその顔は。文句あるわけ?」
「イイエ。」
なら私の目を見て言ってくれない?
「そんなことより、夕飯の準備はできているの?」
「もち。」
スリーは結構面倒臭い性格してるから、料理も気を使っている。贅沢な食事が好きだから、今日の夕食は宝石豚のローストビーフに、雷鶏の丸焼きなどだ。総額でざっと50万エーンゴルはする。笑えねえ値段だわ。だからファイーブや姉上に嫌われるのよ。
金額に眩暈を感じるが、逆説に言えばそれだけの味が保証されているということ。少し愉しみよね。
「‥‥それでシェード。何がいいたいの?さっきからもの言いたげな目線をずっと感じるのだけれど。」
私が気付くことすら想定内だったのだろう。シェードは私の発言を待っていたと言わんばかりに口を開く。
「今回はなぜあんな生温い処置を?」
「え、何が?」
部屋の窓から外をみつつ、とぼける私。しかしこれで諦めてくれるシェードじゃない様で。
「あのエリンとかいう少女です。警告などせずとも、不幸な事故で王国を去って貰えば良かったでしょうに。」
「あぁ、不幸な事故ね。」
「ええ、そうです。何故かタイミング悪く不可抗力的に起きてしまうあの事故のことです。死なれるのが困るなら、骸ではなく怪我の療養で返せばよかったでしょう。そういう事故にするのも可能だったはずです。」
「そうねぇ。。。。」
窓の外にいる小鳥を見ながら、私はシェードの言葉を否定しない。それも確かに手段の一つだっただろう。いや、最適手だったと思う。
「シェードの言う通りなのよねぇ。。。。」
「ならばなぜ‥‥!!」
我慢できないと言わんばかりに口を開くシェード。
「なぜ、態々私自身を危険に晒すような真似をしたのかって?」
「そうです!!エリンが彼女の国に助けを求められたら!いいや、ファイーブ様に助けを求めたら!そしたらフォー様を狙う輩が増えますよ!!」
窓のガラスに反射して映るシェードを見れば、怒りと心配がブレンドされた表情。心配8割、怒り2割てとこかな。何だかんだ言ってシェードは私の優秀な側近だよ。
「だからそしたらシェードが守ってくれるよね。」
「そういう事を話しているのではございません!!」
お、怒りが3割になったかな?いや、悲しみが混ざったか。
「シェードはさ。。。。」
「なんですか!!」
「森林戦争て知ってる?」
「は?」
急な話題転換に驚いたシェード。そして私は椅子の向きを反転させた私はシェードの顔を見る。
「森林戦争だよ。森林戦争。」
「知ってますよ。今日まで続く領地争いですよね。白森人と黒森人と鉱人の三種族が己の生息地域を求めての戦争。始まりは300年ほど前からだったと記憶していますが。」
「そうそう。その戦争に有利になるために、王国の支援をこぎつけようとエリンは送られてきた、と私達は睨んでいる。実際にこの推測は間違っていないと思うし。」
皿に盛り付けられたクッキーを手に取り、口に入れる。そして角砂糖が紅茶に解ける様を見ながら、私は問を投げかける。
「その戦争の発端て、誰が始めたと思う?」
「さ、さぁ?三種族のどれかでしょうけど。。。物証がないのでどれも推測の域を出ません。それでも良いなら私見を述べましょうか?」
突然の質問にシェードは首を傾げながらも意見を進言しようとする。誠に側近の鑑だね。
「でもね、シェード。違うんだよ。」
「はい?そりゃあ全て憶測になりますが。。。」
「違う違う。そういう事じゃないんだよ。」
「は?」
シェードは意味が分からんとばかりに見つめてくる。その視線を敢えて無視しながら紅茶で喉を潤した私は、シェードに告げる。
「自己満足と、懺悔と、私なりのケジメだよ。」
「はい?」
「これでこの話はお終いね。」
「いや、しかし。。。」
パチン!
「これでお終いね!!」
「‥‥はい。」
なおも納得がいかんという顔をするシェードを手拍子で諫め、私は話を続ける。
「ねえ、シェード。他に今のうちに済むような報告はある?」
「‥‥そうですね。使用人や料理人から汚くするのは辞めて欲しいと言われています。」
「?」
何を言っているのかな?
「つまり、毒殺や伏兵を心配するあまり、せっかく調理して盛りつけた料理をぐちゃぐちゃにして毒の有無をチェックしたり、暗殺者を警戒して掃除してセットした家具をその場で散らかすような真似はあまりいい気はしないのだということですね。」
「成程ね。確かにそれはいい思いしないわね。」
でもそれは仕方がないような気もするわね。命には代えられないし、私だって何回も毒殺で命を狙われている以上それを怠るわけにはいかない。でもプライド持って遂行している仕事を台無しにされるのも嫌よね。その気持ちはわかる。
でも。
「・・・本当にどうしようもないわね。」
「ええ。どちらが間違っているというわけでもありませんし。彼等もそれを知っているので、ある程度は許容するようですよ。」
そういう事ね。知っていて損はしない情報で、私にとっては手の出しようのない問題ね。いい暇つぶしにはなったわ。
「そろそろ時間です。」
「そうね。兄上は時間を守る人だから、もう外で待機しているんじゃないかしら。」
「そーですか。」
不機嫌そうな顔で返事したシェードは、仏頂面で扉を見る。
シェードはあまり兄上のことを好ましく思っていない。私に若作りがバラされて、実年齢を知っていて、シャドーウをあんな風にした人間だからだ。
シャドーウは兄上の元側近で、影の人間なのだけれど兄上に色々秘密がばらされて、ショックのあまり茫然自失。今はもう影長に連れて行かれたとか。今頃研究として解剖でもされているんじゃないかな。
「兄上が約束を守るなんて意外かしら?」
「いえ、単に興味が無かっただけです。」
嘘つけ。
本当にスリーの事嫌っているわね。
別にシェードとシャドーウが懇意にしていたというわけでも無い。彼女は純粋にシャドーウを騙して、かつ彼にバレずに情報を入手した兄上が怖くて仕方がないのだ。
分かりみが深い。影って厳しい訓練を積んで、耐え抜いたエリートなのよね。そんな奴を出し抜くってそんな奴を友達に欲しいとは思わない。でもアイツは私の兄なの。切ろうと思っても切れない縁がある。
「兄上のことがまだ苦手なの?」
「そうですけど何か?」
おい。アイツ一応王族だぞ。
「あの方は危険です。きっと今日も心中でどうやってフォー様を陥れるか画策しているに違いありません。」
「違うわ!兄上は優しい人よ。。。。て否定できたらしたいけど、思っている可能性は高いわね。」
「君達は俺のことどう思っているの?悪魔か何かかな?」
あれま。実兄来てるじゃない。
え!?いつからいたの!?
「衛兵!!!くせ者よ!!」
「ちょ!?躊躇なし!?」
妹からの心温まるジョークですよ。
森林戦争
黒森人と、森人と、鉱人の戦争。
数百年前から泥沼化が加速し、今でも解決されていない大紛争。
その原因は王国にあるという説を提唱する学者は数年に一度現れるが、全員失踪しているらしい。
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